【コント】父さんとぼく
父「たかし、ちょっといいか?」
僕「なに?」
父「母さんから聞いたんだがお前、大学に行きたいとか言ってるらしいじゃないか」
僕「ああ、そのことか」
父「そのことかじゃないよお前。何でそんな大事なこと父さんに相談しないんだよ!」
僕「いや、たまたま母さんに先に言っただけだよ」
父「お前、母さんに先に言うってことは、父さんのことを避けてるってことじゃないのか?」
僕「いや、そんなことないよ」
父「あれか?父さんが中学もろくに出てない父さんだからか?」
僕「いや、違うって」
父「じゃあアレか?父さんの職業がインターネットをクリックしてポイントを集めるだけの父さんだからか?」
僕「そんなんじゃないって。たまたまだよ」
父「そうか。それならいいんだが。しかし大学なんて、父さん反対だな」
僕「えっ、なんで?母さんはいいって言ってくれたよ」
父「そりゃ母さんはSF好きだからなぁ」
僕「えっ、どういうこと?」
父「地球は青かった、ってことだ」
僕「全然わかんないんだけど!」
父「父さんそういうところにホレちゃったんだけどな」
僕「聞いてないから!」
父「で、大学なんて、なにしに行くつもりだ?」
僕「そりゃあ勉強するためだよ」
父「勉強?勉強なら予備校に行かせてやってるだろう」
僕「それは受験勉強だよ。大学行くための勉強でしょ」
父「勉強できてるんならいいじゃないか」
僕「別に受験勉強自体をやりたいわけじゃないから」
父「えっ、やりたくないの?」
僕「まあどっちかっつったら」
父「やりたくもない勉強をやってるのか。ふ~ん、じゃあ受験勉強っていったい何なんだ?」
僕「それは僕にもわかんない」
父「わかんないことはちゃんと教わってこないと」
僕「答えは無いと思うよ」
父「そもそも大学に行こうだなんて、先生に悪いと思わないのか?」
僕「え、どういうこと?」
父「いいか、お前の心が予備校ではなく大学に向いていると知った時の先生の気持ちも考えろってことだ」
僕「向こうは全力でそのつもりだよ!」
父「とにかく、まずは予備校を卒業してからだ」
僕「予備校を卒業ってことは大学入るってことでしょ!」
父「大学大学って。大学だってタダじゃないだろ?」
僕「そりゃまあ」
父「何十億かかると思ってんだ」
僕「かかり過ぎだよ!」
父「父さんにどれだけポイント稼がせる気だ?」
僕「イヤどんなに頑張ってもムリ。それに学費は自分で何とかするつもりだから」
父「…お、お前」
僕「へへ、当たり前のことさ」
父「そんな親を悲しませるようなこと言わんでくれよ」
僕「えー!」
父「あぁ情けない」
僕「喜ぶと思ったのに!」
父「まったく反抗期の子供は扱いづらい。世間知らずもいいとこだ」
僕「こっちのセリフだよ」
父「言っておくがな、大学なんて行ったら命がいくつあってもたらんのだぞ!」
僕「えぇ?!生命の危機はないよ!どういう勘違いなの!」
父「大学なんてほとんど真空状態だぞ!」
僕「なになに?どういう意味!!」
父「大学で隕石とぶつかってみろ、一瞬で粉みじんだぞ!」
僕「…わかった。父さん、さっきからずっとユニバースと間違えてない?ユニバースは宇宙、大学はユニバーシティだよ」
父「……」
僕「……」
父「…とにかく!大学だけは反対だ!」
僕「いや、父さんの勘違いで人生棒に振りたくないから!絶対行くからね!」
父「ダメだ!」
僕「行くよ!」
父「ダメだ!」
僕「行くよ!」
父「なぜそこまでして大学なんて行きたがる?」
僕「だから勉強だよ。法学部行って法律の勉強がしたいんだよ!」
父「お前法学部行きたいのか?」
僕「うん」
父「さっきは大学行きたいって言ったじゃないか!」
僕「いっしょだよ!大学の中の法学部なんだよ!」
父「井の中の蛙みたいなもんか?」
僕「ぜんぜん違う」
父「じゃあ男の中の男って感じか?」
僕「まったく違うから!とにかく僕は、法学部行って、法律の勉強して、将来は弁護士になるからね!」
父「やめておけ!弁護士なんてほとんど真空状態だぞ」
僕「いいかげんにしろ!もう…家出する!」
父「……」
僕「……」
父「…家で何するんだ?」
僕「違うよ!」
父「…まあ、しかし、お前の言うことも一理あるな」
僕「一理どころじゃないよ」
父「大学が勉強するところだってのも良くわかった」
僕「ホントに?」
父「父さん勘違いしてた。すまん、わるかった」
僕「わかってくれればいいんだけど」
父「少し妥協しようじゃないか!」
僕「えっ、ホント?」
父「もうちょっとだけ、お前の好きなようにやってみろ!」
僕「いいの!」
父「ああ。だがせめて大学行くか法学部行くかどっちかにしてくれ。お金かかっちゃうからな」
僕「やってらんねぇ。家出しよ」
【完】