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ズルいズルいが口癖のふわふわ金髪の妹は嘘吐きが定番ですが、サラスト姉は本当に世界に嫉妬される公爵令嬢でした!

作者: 丸都 蜜柑

妹もズルい。

ふわふわの金髪の髪に青い瞳の華奢な妹、ロールの口癖はズルいだった。

それがストレーは嫌で嫌で仕方ない。

全てが完璧な妹から羨まれる価値なんて自分にはない。

サロン王国のアレンジ公爵家の長女として生まれ、自らの責務をただ、こなすしかない私のどこがズルいと言うのだろうか?

大体、両親は同じように私達を愛してくれているし、ドレスを買うのも一緒、アクセサリーを見るのも一緒、食べる物も同じだ。

私達に差異があるとすれば、見た目だけである。

可愛い妹と違って、真っ黒で重たい髪に鋭い瞳と言った異国から嫁いできたお婆様そっくりな私はこの国では美人の定義から外れていた。

だから、夜会などで可愛い妹と並ぶのは憂鬱なのである。

だって、みんなが私達を見ては、コソコソと噂をした。

子どもの頃に出たお茶会から言われているのだ。

無愛想で冷たい姉と可愛い天使のような妹だと勝手に比べて来ているんだ。

今日も本当は出て行きたくないが、王太子殿下のお后選びの会が開かれるのだ。

この国に住む貴族令嬢は避けられないイベントである。

嫌だなぁ嫌だなぁとため息を吐きながら、嬉々としたメイド達にこれでもかと髪を艶々にされ、夜会のドレスに着替えた私と対照的なフリフリなドレスを可愛く着こなした妹は馬車に乗った瞬間、ズルい!と叫んだ。

「お姉様!ズルいですわ!」

「あのね…私は、別にズルくないわよ!あなたみたいに、か、可愛くないし!」

「可愛いと言うだけで頬を赤くしてしまうお姉様は可愛いの暴力ですわ!!!!クールでミステリアスなのに可愛い!!!一生そばで見守りたい!!!でも、違いますの!!!!私がズルいと言っている意味は違いますのよ!!!!」

「わ、私はズルくないし!可愛くもないですわ!!」

「あー!!ズルいズルい!!!!お姉様はどうしてそんなにズルいの!!!!」

良いなー良いなーと妹は私を見た。

可愛くて天使みたいな妹の方がズルいに決まってる。

それが嫌でプイッと窓の外を向くと妹はお姉様って、鈍いのよねぇと呟いた。




夜会も下級貴族から集まり、場が暖まり出す。

下位のものからの入場で、公爵家等の上位貴族は後から入場するのが、決まりである。

皆、どこかソワソワしたように入り口を見ていた。

「ねぇ、まだかしら」

「私、胸がドキドキしてきたわ」

そんな話を男爵令嬢達がコソコソと話しているうちに入場者が読み上げられた。

「アレンジ公爵家、ストレー公爵令嬢とロール公爵令嬢のおなーりー!!」

その瞬間、ありとあらゆるその場にいた人間の視線が一斉に入り口に向いた。

憂鬱そうな少女、ストレーと分かってますわと言いたげな美少女ロールが並んで歩いてくる。

しかし、誰もロールなんて見ていない。

全員、ストレーしか見ていない。

憂鬱そうなストレーが歩くたびに艶々な黒髪のストレートがさらりと揺れるのだ。

「あぁ、どうしましょう!わ、私、あんな素晴らしい物を見てしまったら!心臓が!!」

「やだ!メア様!お気を確かに!!」

倒れそうになる伯爵令嬢を抱えた子爵令嬢だが、目はストレーしか見ていない。

この夜会の参加者は全員、ストレーの髪に目を奪われているのだ。

そして、次に呼ばれる予定のこの夜会を開いた王太子、パーマーは入り口の影からそっと、ストレーを見ては、うっとりとため息をついた。

「…あぁ、なんて美しい髪をしているんだ、アレンジ公爵令嬢は」

「確かに美しいの、そう思わんか?王妃よ」

「えぇ…本当にズルいくらい美しいストレートですわ!!羨ましい!!」

素直な王妃の言葉に思わず、パーマーは、自身の髪の毛を触る。

そこにあるのはチリチリの天然パーマだ。

うねり過ぎてもう、どうにもならないし、毎晩毎晩、うねりを抑える薬剤を塗っても、どうにもならないパーマ。

もちろん、これは貴族だろうが、平民だろうが、皆同じ悩みだ。

そう、この国の人間は全員、キツい天然パーマなのである。

しかも、毛の量が多い。

チリチリのパーマで毛も多いから、夏は地獄。

チリチリパーマに絶望した軍属の男達は最終的に坊主にする。

そして、ご令嬢が髪の毛なんておろしたら、爆心地かと思われるので、編み込みは必須なのである。

隣国からは、影でハゲとパーマしかいない丸刈りチリチリパーマ王国と揶揄されるくらいにパーマとハゲしかいない国なのだ。

そんな国に世界が嫉妬するくらいの美髪が降り立ったである。

もう、全員我を忘れてガン見。

ハァハァハァと理性を失いそうな荒い息を令嬢達が発しても、納得。

だって、ストレーは編み込みなんてしていない。

髪を下ろしても、優雅に真っ直ぐな髪が美しく揺れるだけ。

国宝よりも価値があるのでは?と思ってしまうくらいの美髪だ。

確か、老若男女美髪と名高いトリートメルト皇国から美髪の美姫が2代前くらいに公爵家に嫁いでいた筈である。

当時の王族、上位貴族が誰がお嫁さんにするかで意見が別れ、最後にはステゴロで泥まみれになるまで本気で争ったらしい。

でも、あの美しい髪を持つ少女なら確かに争うだろう。

特にストレーは普段は真面目で勤勉な公爵令嬢。

ミステリアスでクールな雰囲気を醸し出しつつも、しかし、妹にだけは、少女みたいに感情を露わにする所が大変可愛らしく、それを垣間見た人間が、彼女の信者になっていく。

ちなみに妹がストレー公爵令嬢ファンクラブ不動の会長なのは、全員知っていた。

ストレー公爵令嬢に生半可な気持ちで縁談を持ち込もうとすると妹のロール公爵令嬢から圧迫面接をされ、素人は黙っとれ!!!と叩き出されると言う話もある。

「……全員、敵か」

王太子は、必ず、彼女を妃にしたいと思い、呟いた。

チリチリパーマしか居ない世界にあんな美髪の可愛い子が現れたら、そりゃあ、全員獣みたいになる。

絶対に忘れて欲しくないし、シスコンの妹を上手くどっかにやりたい。

あのロール公爵令嬢はそれはもう、姉が見ていない所で子息達を千切っては捨て、千切っては捨てまくりだ。

ちなみに比喩ではない。理性を失ったアホ達はあの細腕に会場の壁まで吹っ飛ばされるのだ。騎士達から素晴らしいインナーマッスルだと大人気である。

「王太子殿下、そろそろご入場でございます」

「あぁ、ありがとう」

最短距離でどうやってストレーの元に辿り着くかを考えていたら、どうやら、意識がとんでいたらしい。

護衛騎士に感謝すると優しく微笑まれた。

ちなみにこいつは丸刈り族でファンクラブ、ロール公爵令嬢と筋トレし隊の隊長をしている。

「パーマー王太子、道は俺が開きますので、絶対にストレー様を捕まえて下さいね」

「…分かった、お前には、ロール嬢を必ず、紹介しよう」

男と男の美しい友情であった。

しかし、王妃から役目を果たしてから、行きなさいと拳骨を喰らった二人は諦めて、王族席に行く羽目になったのである。

まぁ、まずは軽く挨拶を受けてから、上手くフォローしてあげましょうかと王妃はたんこぶをこさえた王太子を見ていた。

正直、たんこぶよりもみんな、ストレーに目を奪われていて、たんこぶなんて気にしていない。

そして、遂にストレーが挨拶にやって来た。

「今宵はお招きありがとうございます。アレンジ公爵家のストレーとロールが」

「結婚しよう」

「は?」

「結婚しよう、ストレー嬢」

たんこぶチリチリパーマー王太子は、挨拶の途中で王妃からの二発目の拳骨とロールからの蹴りを避けながら、ストレーの前に膝を着いた。

「こんなに真面目で可愛くて髪が綺麗な女の子と、初めて出会ったのです…」

「わ、私はそんな…髪も重たくて、結えないし…妹や皆さまみたいにふわふわしていないし、可愛くなんて」

「お姉様!私の髪はガッチガチの天然パーマなだけですわ!可愛いのは可愛いかもしれませんが、お姉様みたいな世界が嫉妬するストレートではありませんのよ!!お姉様の御髪はズルいですわ!!!そして、王太子だろうがなんだろうが!!!非公式ファンクラブ、お姉様の御髪を讃えたい会の会長である私に話も無く、お姉様に求婚するなんて!!手袋を拾いなさいませ!!勝負ですわ!!」

「インナーマッスルお化けと決闘するわけないだろ!?!?あぁ、ストレー嬢、鬼みたいに強いロール嬢が可愛いかどうかは分かりませんが、私はあなたの謙虚な姿にますます、心を奪われてしまった…是非、結婚して欲しい」

「ロール様は鬼より強いから良いんじゃないですか…」

三人でわちゃわちゃし出す横に立ってる玄人顔の護衛騎士は止める気あります?

「ストレー公爵令嬢!!!!僕もあなたに心を奪われています!!!」

「俺の方がずっと、貴方が好きです!!!」

「私もお姉様と呼んでいいですか!?」

「ストレーお姉様とお呼びしたいー!」

「待って、今のは何ですの!?私のお姉様ですわよ!?」

「ロール様はズルいですわ!!!」

「そうだ!!ストレー様と一緒に住むなんてズルい!!!!王太子も求婚するなんて、ズルい!!!!」

王太子だけに先を越されるかと会場中で様々な声が上がる。

「あなた」

王妃が横で困ったなーとチリチリな髭を触っていた王を呼ぶ。

「父上!」

「陛下!」

「王様!」

様々な声に急かされて、正直、これ、簡単に王命を出した日には暗殺されそうだなぁと思う。

チラッとストレーを見ると、戸惑ってはいるが、王太子に悪い感情は無さそうだ。

これはもう、あれしかないだろう。

「第二回!!サラサラストレート美姫争奪武闘会!!ドキッ!王族でもステゴロなら不敬じゃないよ!!の開催をここに宣言する!!!愛されたくば、戦え!!!」

「おーーーー!!!!!!!!」

老若男女、全員が様々な思惑の元に拳にハンカチを巻き出す。

老兵に近いはずの高齢貴族達のシャドーボクシングの鋭さがヤバイ。

渦中のストレーは狼狽えるばかりだ。

「お姉様!」

「ロール!な、何が起きてるの!?」

「うふふ!お姉様は私だけのお姉様ですからね!安心してください!!とりあえず、全員ブチのめして差し上げますわぁあ!!!!!!」

「ローーーーーール!?!?」

妹が嬉々として、混戦しだした前線に飛び込むのを見守るしかない。

王太子は妹がいない隙にとそっと、ストレーの手を握ると笑いかけた。

「急な話で戸惑っているだろう?ストレー嬢」

「王太子殿下…私、本当に可愛くないのです…だから、結婚なんて」

「私の目から見たら、君がこの世で一番可愛いから、大丈夫!ズルいくらい綺麗な髪だよ!」

「この世で一番だなんて…」

頬を真っ赤にしたストレーに可愛いー!!と叫びたくなったが、王太子は嫌われたくないので耐えた。王太子じゃなかったら、危なかった。間違いなく、可愛いーと抱き締めていただろう。

しかし、まだ、山ほどの敵が居る。

後ろで高笑いしながら、騎士団長子息を投げ飛ばしているロールとか。

「パーマー王太子殿下、俺が道を開きます!あなたはロール様を!!」

「分かった、必ず、あなたを迎えに来るよ!ストレー嬢」

「王太子殿下!!」

キリッとした顔で王太子と護衛騎士は参戦した。

ちなみに護衛騎士への報酬は王太子命令でロール嬢に筋トレレクチャーをしてもらう事で手を打ってもらっている。

「このチリチリパーマー王太子殿下ーが!!!私の可愛いお姉様の前から消えて下さいまし!!!!」

「ロール嬢ーー!!!!君みたいな怖いシスコンが居るから、周りから遠巻きにされるんだ!!!!大体、距離が近いとかズル過ぎるだろ!!!」

「お姉様ある所に私ありですわよ!!!!」

「消えろ、小姑!!!!」

「うるさい、チリチリパーマ王太子!!!」

もう、最強のシスコンと初恋王太子、二人の闘気と護衛騎士のチマチマとした働きで、一騎討ちの様相を呈して来た。

ストレーは見守るしかない。隣に並んだ王妃様はストレーにポップコーンをくれた。

完全に観戦客である。

「うーん、ロール嬢のパンチいいんじゃないか?」

「そうかしら?うちの子のフックもなかなか」

「あの、お二人はその妹に不敬罪とか」

「大丈夫だよ、ストレー公爵令嬢、ステゴロは不敬じゃないから」

「ステゴロは不敬じゃない」

「えぇ、ほら、ステゴロはね、不敬にならないの」

ステゴロって、凄いなってストレーは思った。

「お、決着が着きそうだよ」

王の言葉に二人を見ると、綺麗にクロスカウンターが決まっていた。

これは膝を着いた方が負けだろう。

妹か。

王太子か。

ハラハラドキドキと周りは眺め、五分以上経過したが、二人は微動だにしない。

ストレーはそそっと近寄ると二人のそばに寄る。

「あの、陛下」

「ん?どうした、ストレー令嬢」

「二人とも気絶してるのですが…」

どうしましょうと眉を下げたストレーに王は、2人が起きる前にと素早く宣言した。

「よし、引き分け!!!!!!!!王命は出さん!!!!!!皆、自分でちゃんと頑張るように!!!!」

はい、武闘会も舞踏会も終わり終わり!と手を叩くと本当に終わった。

これで今日も暗殺されない王様はニコニコである。

ポツンと残されたストレーは自身の重い髪を一房手に取ると、ふっと目を細めた。

「ズルいくらい綺麗な髪なんですって」

嬉しいなぁと呟いたのだった。



それから、103回目までサラサラストレート美姫争奪武闘会は開かれ、ちゃんと恋に落ちたストレーが王太子を応援した事により無事に王太子の妻となる。

姉の応援が貰えなかった上に王太子に奪われたと拗ねたロールは、護衛騎士に私と結婚したら、ストレー様の情報が一番手に入りますと口説かれたとかでちゃっかり、結婚した。

「お姉様とお茶会をするのは久々ですわ」

「まぁ、私もあなたも妊娠していたから」

「あぁ、お姉様の子供達もサラサラな髪だなんて…お姉様はズルい!ズルい!!」

姉一番のズルいズルい口癖の妹と今日もお茶会をする姉はサラサラない髪を靡かせながら、笑う。

「あぁ!可愛い!美しい!!サラサラストレート!!お姉様!ズルいですわ!!!」

「えぇ、私…王子様が恋に落ちる、ズルいくらい綺麗な髪なのよ」

どっかの王太子の言葉を繰り返す王太子妃は今日もサラサラストレートの美しい髪をしていた。

うちの一族はサラスト人間が居ないので、サラストって良いなーと書きました。

サラストはサラストで色々あるでしょうが、サラストはやっぱり、羨ましい。

お読みいただき、ありがとうございました!

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