パッとしないハンター生活
大器晩成な魔物使い
<概要>
魔物を狩るヒーローに憧れ、16歳でハンターになった武器屋の少年。
剣士、槍使い、狩人etcと転職していろいろな武器も使ったけど全然成長しない。
20年が過ぎて夢を諦め、故郷に帰ったら魔物使いとしての才能が開花!
この才能を武器に再びハンターとして生計を立てようと心躍らせる、
そんな新生魔物使いの出遅れた武勇伝です。
<1話>
「はぁ・・・。今日もあんまりマナ稼げなかったか」
だいぶんと陽が傾いて辺りは暗い。街まではまだ1時間くらいはかかるだろうか。
街道とはいえ辺りには何もないので、見通しは全然きかない。
初めて通るのであれば注意して進む必要があるが、通りなれた道だし魔物の気配もないので割と気を抜いている。
ふと履いている靴が目に入った。
買ったのはもう2年は前だろう。最初は魔物の毛皮でおおわれており、綺麗なブラウンだったが、手入れもあまりしておらず、辺りも暗いので真っ黒に見える。暗がりでもほつれてボロボロになっているのはわかる。
剣はここ数日の探索で腰に差していたものは折れてしまい、予備の短剣も刃こぼれが多い。
「やりたいことと出来ることって噛み合わないなー。」
俺の名はセイン。
子供の頃、魔物に襲われたところをハンターに助けられ、元来村で鍛冶職人の家系だったが「ハンターってかっけぇぇぇぇぇぇぇっ!!」と自分もハンターになったのが懐かしい。
この世界では、命あるものには”マナ”が宿り、様々なエネルギーとして使われている。その一つが魔物を倒し、自身に取り込むことで身体能力が向上したり、職業・武器によって違う新しい技を覚えたりできるのだ。そのため、ハンターとなったものは、まずは比較的弱い魔物を倒してマナをため、能力が上がってきたらより強い魔物に挑戦していくのが一般的だ。
セインもハンター登録してどんどん魔物を倒したが、倒しても倒しても全然マナがたまらず、身体能力も向上しないし新しい技を覚えたりすることもない。
ハンターにはそれぞれ適した武器や職業があり、適性が高いととマナの吸収率がよく、低いと吸収率が悪くなることは知られているが、セインの場合他のハンターと比べ極端に吸収率が悪く、成長が著しく遅いのだ。
最初の頃は武器やハンターとしてのジョブ(職業)の適性が悪いのかと考えて、剣や槍、弓、斧などメジャーなものは大抵試し、ジョブも剣士、素手で戦う闘士、双剣士に狩人など、転職も繰り返したが、どの武器や職業でも吸収率は悪いままだった。実家が武器屋だったこともあり、子供の頃は色んな武器を触って扱えるつもりになっていたが、今思うとあまり意味はなかったみたいだ。
そんなわけで成長が遅く、街のハンターから馬鹿にされたり、仲のいいハンターにはハンターをやめることも勧められたが、夢を諦めきれず気付けば20年が経ち、今では35歳まできてしまった。
昔から人に教えるのが得意で、新人ハンターの教育係を毎年しているが、3年もすると教えた新人に追い抜かれている。ほぼ全員にだ。そこから「万年教育係」という非常に不名誉なあだ名で呼ばれることもあり、肩身の狭い思いをしている。
体が資本の仕事でもあるので、自分でもそろそろ区切りをつけないと焦りもあり、今まで以上に頑張ろうと普段より強い魔物が多い古い炭鉱で戦っていたのだが、吸収できるマナはあまり変わらず、身体能力の向上も実感できるほどは上がらなかった。
「・・・よし!次の冒険でもダメならキッパリとハンターやめて村に帰ろう。今ならまだ他の仕事でも食っていけるだろう」
と街が見えてきたところで強く決断したのだった。
街に入って借りている家に向かう途中、
「おぉ、セインじゃねえか。今日もいつも通りか?」
と後ろからでかい声をかけられ、肩を組んだやつがいる。
「そうだな。工夫しているつもりなんだが、今日もダメだったな」
こいつはケイジ。
荒くれ者が多いハンターの中じゃ割と穏やかなやつだ。
ハンター試験に合格した時に知り合い、それからちょくちょくパーティ組んだりしている仲だ。
金色の髪を短髪にし、オーソドックスな剣使いだが、得意なのはパーティの盾役で、重戦士のような役割をよくしている。
「そか。まぁとりあえず酒でも飲んで発散しよーぜ!」
いざなわれるままに馴染みの店に入ると、顔見知りの奴らも何人かおり、今日の成果の話している。
「まいったぜ。あと一押しでゴーレムを狩れるところだったんだが、前衛の武器が壊れてオジャンだ。。」
「俺は海でシーモンキーが狩れたぜ!でかい分マナも多かったな。」
「うちのところは森でウォーウルフの群れをせん滅しましたよ。大規模パーティだったから楽でしたね。」
っと戦果自慢と笑える失敗談を肴に皆一杯やっている。
俺は全然交わる気分になれなかったので、ケイジと一緒にカウンターの端の席でエールを注文した。
「・・・んで?今日はどれくらい狩れたんだ??」
早速今日の成果を聞いてきたな。
「キラーラビット5,6匹とフォークサーペントが2匹。あとは昆虫型がいくつか、ってところかな。」
「おぉ!結構狩ったじゃねぇか!マナはどれくらい溜まったんだ?」
「・・・全然。」
「変わらずか。・・・なぁ。そろそろ潮時なんじゃねぇのか?」
潮時というのは、ハンターを辞めることを勧めているのだ。魔物と直接応対する訳だし、もちろん死ぬ可能性も高いのでこいつには何度も勧められている。
「せっかく頑張ってあこがれの職業に就いたわけだし、結果を出したいって気持ちも分かるけどよ。」
「そうだな。俺もそろそろ辞め時かなって今日考えてたよ。」
ケイジには数年前からハンターを辞めて街でハンター向けの店でも開けと言われ続けているのだが、他の軽口で言うやつではなく、本気で心配してくれているからつい本音が出てしまった。
「おい!いつもと反応が違うじゃねぇか!いつも以上に凹んでんのか?」
「当ったり前だろっ!?フォークサーペント2匹も狩ったんだぞ?この辺りじゃ割とマナの高いやつだし、ちょっとは変わるかと思ったよ!でもマナが吸収されている実感が全然ないんだよ。ソロで結構な時間かけて倒したのにさ。」
フォークサーベントは頭が二つある蛇型の魔物で、大きいものだと4メートルくらいある。今日倒したのは2.5メートルくらいの個体だったが、それなりの大きさなのでマナにも期待していたのだ。
「やっぱ体質かなんかじゃねぇか?セインって武器の扱いも悪くねぇし、技量あるのにマナ溜めての強化とか全然できねぇもんな。」
「・・・何なんだろうな。マジで。。適性ってんなら武器とかジョブ変えたら変わるだろうに、変えても全然溜まらないんだもんな。」
今日の戦果だったら、まだ経験の浅いものなら2段階は強化を実感できるらしい。ケイジクラスのハンターでも1段階は上がるだろうマナ量なのだが、俺は一切感じなかった。そもそも、3年目を超えたあたりからは年に1回くらいしか上がることがなくなっている。
「まぁそろそろマジで考えた方がいいんじゃねぇの?ほれ、ハンターも体が資本だし、俺たちももう30代半ばだぜ?あと数年は大丈夫としても、そこからは体力とか落ちてくるし、マナでレベル上がんないなら早めに足洗えよ。アクセサリー作りとかで生計立てられるだろ?」
こいつの言っているアクセサリー作りとは、狩人の装備の1つだ。普通は防具屋とか武器屋とかで買って使っているヤツが多いんだが、俺は昔から器用で魔物の素材を使って色々と作っている。ケイジにもいくつか作ったことがあり、こいつが今剣の柄につけている羽飾りもその一つだ。
「これも市販で売ってるやつより補正効果高いし、充分生計立てられるレベルなんじゃないか?」
「自分でもわかってるよ!実際アクセとか作ることも好きだし、他のヤツにも作ったりもしてるけど、本当はハンターとして生計たてたいんだよ」
「昔助けてくれたハンターに憧れてるんだもんな。気持ちは分かるけどよ。」
俺が5つか6つの頃、村が大規模な魔物の群れに襲われたことがあった。俺の生まれた村は街から少し離れており、常駐するハンターも逃げた者、魔物にやられた者など、対応手段がなく皆逃げるしかなかった。そんな時に突如村に光の柱が現れ、中から数人のハンターが出てきて魔物の群れを殲滅させた。後でわかったことだが、名のあるパーティがたまたま近くにいて、転送スキルで助けに来てくれたらしい。その時にパーティのリーダーをしていた男が、飼っていた犬を魔物に食われて泣いていた俺に黒い珠をくれて慰めてくれたのだ。
その経験から、ハンターを志したわけだが、20年もたつと正直夢と現実の違いに心が折れてきたと自分でも思っている。
「自分でも色々工夫して頑張ってきたと思うけどな。今日街に帰る間、ずっと考えてたんだよ。憧れてハンターになったし、家も継がずに村から出てきたこともあるし。いい加減、この道でやってくのも限界だなってな。ここ数年はずっとそんな気持ちでやってきたけど、さすがに決断しないといけないし、次の冒険で最後にするよ。」
ケイジに胸の内を吐露して少しすっきりした。こいつは面倒見がいいんだよな。
「そうか。じゃあ次の冒険は俺も一緒に行ってやる。最後の足掻きとしてちょっとチャレンジしようじゃねぇか!」
なんかケイジの顔が引きつった笑顔になってるぞ。。
「・・・チャレンジってなんだよ?」
「ほら、1か月くらい前にお前の村の近くで遺跡が見つかっただろ?昨日までは国の直属の兵士とか傭兵が調査とかしてたみたいなんだがよ。手が足りないみたいで、依頼として回ってきてるんだよ。で、さっき俺が依頼受けてきたところなんだ。」
「イヴァーリ遺跡群だったか?何の遺跡かもよく分からんって話じゃなかったっけ?」
「ちゃんと情報収集してんじゃねぇかよ。それで間違いない。結構広めの地域に遺跡が広がってるみたいでな。遺跡の形も今まであんまりない形式みたいで、遅れてるらしい。で、メインらしいところはお偉いさんが調査継続するみたいなんだが、小さめの所はハンターに依頼してるんだとよ。面白そうじゃねぇか?」
・・・何の遺跡かもわからないとか、正直不安この上ないが、こいつは信用できるヤツだし、最後の挑戦ってことでやってみるか。
「確かに面白そうだけど、俺のレベルで大丈夫なのかよ?」
ツマミの干した肉を口に入れながら、ケイジに確認してみる。
「あぁ、なんか魔物は多いみたいなんだが、強さはそこまでらしい。って言ってもお前のレベルからするとフォークサーペントよりは強いから苦戦するだろ。そこは俺を頼りにしてくれていいぜ。」
「そうか。久しぶりにパーティ組むことになるな。俺の悪足掻きに付き合わせて悪いな。」
「何言ってんだよ。俺が誘ったんじゃねぇか。今回でなんか成長の兆しが見えるかもしれねぇだろ?」
嬉しいこと言ってくれる。なんか昔からこいつには慰められてきた気がするな。でも、今度こそ最後だ。次はない。
「そうだな。やってみないと分からないし、よろしく頼むよ。」
「んじゃ、早速明日から行ってみようぜ。結構依頼受けてるヤツ多いらしいからよ。朝イチに向かうぜ。」
「あぁ。じゃあ酒場前でな。」
「了解!」
最後にビドウの蒸留酒で乾杯してケイジとは別れた。俺のハンター生活最後の冒険がケイジと一緒とは、いい思い出になりそうだな。
そう考えつつ、家に帰ったが、最後の冒険であんな波乱が待ち受けているとは、この時は夢にも思わなかった。