4.討伐
「もしもし、桜です。今日の予定なんですけど――」
「もしもし。お母さん、今日のニュース見た?」
桜が佐々木に、ティアと礼夏が母親に電話をかけていた。
各々の予定をキャンセルする電話だ。
やるせない気持ちになる到極。
電話を終えた皆にどんな言葉をかけたら良いか。
探してみたが見当たらなかった。
「それじゃ」
「またね」
電話を切る3人。
一瞬静かになるシェアハウス。
そんな中、桜が口を開いた。
「さぁ、できないことを嘆いても仕方ありませんし、私たちは今できることをやりましょう」
桜が軽く手を叩いて言った。
「そうね」
「たまにはいい事言うじゃない」
ティアと礼夏が言った。
もう先ほどまでのどこか暗い雰囲気は消えていた。
(すごいな、桜は。それからティアも礼夏も)
到極が思っているよりも、3人の心はずっと逞しかった。
――。
――――。
「また私の勝ちー!」
礼夏が言った。
「うわぁ、また負けた」
反対に、そう言ってうなだれる到極。
あれから到極たちは隼人も加えた5人でトランプで遊んでいた。
先ほどの桜の言葉から数時間後のことだった。
今できること。到極たちが出したその答えは5人で楽しく遊ぶことだった。
「あんた顔に出過ぎなのよ、この調子じゃ次の勝負も楽勝ね」
礼夏が言った。
5人の前にはトランプ以外にも数種類のカードゲームやボードゲームが積まれていた。
「落ち込まないでください到極さん、次は誰かと協力できるゲームにしたらいいんです。私、到極さんとペアで」
桜が言った。
「それはずるい、ここはグーとパーで決めるべき」
どさくさに紛れて到極のペアに立候補した桜をティアが制した。
笑顔の到極たち。
和やかな雰囲気で時間は過ぎていた。
一方、リビングの点けっぱなしのテレビでは。
画面の上に速報のテロップが出ていた。
『捕食獣関連情報』
『東京都海浜エリアで約10匹の捕食獣が出没中』
◇ ◇ ◇
東京都海浜エリア。
「ここですか、今回の現場は」
十傑の一人、結城才が言った。
結城の周りには10匹の捕食獣が距離をとって蠢いていた。
そんな結城の前にすっと現れる一人の男。
「っしゃあ、ひと暴れするか」
男が言った。
筋骨隆々、手には大剣を持っていた。
この男もまた十傑の一人だった。
「援護は任せたぜ、嬢ちゃん」
そう言って男が大剣を構える。
「えぇ、無論です――」
結城が言った。
そして忍ばせていた一冊の本を手に取った。
本を体の前に構え、異能の力を込める結城。
風を受けたかのように本が捲れ始める。
本が光り輝き出す。
男と捕食獣が一気に駆け出した。
それと同時に、結城も言う。
自身の異能の名を。
「――魔法なき世界の魔導書」
まばゆき光と共に、結城の異能が発動した。
◇ ◇ ◇
チームLのシェアハウス。
テレビには相変わらず『捕食獣関連情報』が映し出されていた。
それを見ながら到極はある言葉を思い出していた。
『捕食獣の駆除は《十傑》が行います。手助けは不要です』
数日前、結城から言われた言葉だった。
また次の速報が映し出された。
『――エリアで新たに1匹が出没中』
それを見て桜が言った。
「ここから近いですね」
「どうするの?」
礼夏が到極に聞いた。
「……十傑の人たちがやってくれるよ。僕たちは待ってよう」
到極が言った。
(僕たちが行っても勝てなさそうだし)
(十傑の人からしたらかえって迷惑かも知れないし)
到極の頭の中では駆けつけたい思いとそんな迷いがせめぎ合っていた。
そんな時だった。
「きゃああああ! 助けてー!」
そんな声が聞こえてきた。外からだった。
それを聞いて。
「――いや、行こう!」
到極が自身の中にある迷いを振り切って言った。
ティア、桜、隼人、礼夏が頷く。
5人は外の声の元へ向かった。
――。
――――。
シェアハウスの近くの路地。
女性が尻もちをついていた。
そんな女性に向かってゆっくりと近づいて来る捕食獣。
そんな両者の間に到極が割って入った。
「逃げてください!」
到極が言った。
ティアと桜が女性が逃げるのをサポートする。
到極が捕食獣に向かって走る。
「爆拳――」
拳を突き出そうとする到極。
だが。
捕食獣が大きく口を開く。
到極の腕ごと異能の力を飲み込もうとしていた。
「――手ぇ引け、到極!」
そんな到極に隼人の声が聞こえた。
咄嗟に手を引く到極。
間一髪のところで回避に成功する。
捕食獣の牙が空を切る。
その瞬間。
「おらあっ!」
捕食獣の横顔に思い切り拳をぶつける隼人。
吹き飛び、民家の塀にぶつかる捕食獣。
「よし!」
だがすぐに起き上がり、態勢を整える捕食獣。
女性を安全な場所に送り届けた2人も合流した。
改めて向かい合う到極たちと捕食獣。
到極、ティア、隼人、礼夏が一斉に攻撃を開始する。
だが。
捕食獣は次々にその攻撃をかわし、あるいは飲み込んでいった。
徐々に体力を消耗していく4人。
そんな時だった。
捕食獣が4人の間をすり抜け、桜に向かって飛びかかった。
「しまった!」
急いで桜の方に向かう到極たち。
だが。
(まずい、間に合わない!)
不意をつかれ、追いつけない到極たち。
捕食獣の口が桜まであと少しと迫る。
そして。
――キィイン!
捕食獣は桜に到達しなかった。
何かがそれを阻んでいた。
「ふぅ、間に合ったぁ」
路地の曲がり角の先からそんな声が聞こえてきた。
声の方を見る到極たち。
そこには見慣れた少女がいた。
「「光!」」
到極たちが言った。
別の任務を終えた光が到極たちに合流した。




