2.十傑
「ひどい怪我……」
桜が言った。
倒れていたのは20代くらいの男性だった。
特に腹部を怪我していた。
桜が異能を発動する。
淡い光が男性の患部に降り注ぐ。
少しして、男性の表情が和らいだ。
だが反対に今度は桜が苦悶の表情を浮かべた。
フィードバック。
限度を超えた異能を発動した時に現れる反動だった。
桜が腹部を押さえる。
「無理しないで。応急処置さえできればいい。救急車は呼んでおいたから」
ティアが言った。
「ありがとうございます、ティアさん」
桜が言った。
数分後、救急車が到着し、男性は運ばれていった。
◇ ◇ ◇
白い獣の跡を追う到極たち。
突如、白い獣が動きを止めた。
そして振り返った。
(気付かれたか!?)
警戒する到極。
そんな到極の隣で礼夏が言った。
「――撃つわ」
悠長に考えている時間はなかった。
礼夏なりにリスク等を計算した結果だった。
指で銃の形をつくる礼夏。
そして異能を発動した。
紫の光線が白い獣に向かって一直線に飛んでいく。
そして。
光線が獣に届く。
だが。
獣が口を開いた。
礼夏の光線はその口の中に飲み込まれていった。
白い獣は無傷だった。
「嘘っ!」
「何っ!?」
本来であれば獣の体の一部が消失するはずだった。
だが獣は五体満足。
獣の口の中に入った瞬間から、異能が効力を失ったみたいだった。
再び外方を向き、走り出す獣。
追いかける到極。
獣の速度が上がる。獣が角を曲がった。
「どうする、先に俺が見てくるか?」
隼人が言った。
「いや、待ち伏せしてるかも知れない。慎重に、一緒に行こう」
到極が言った。
曲がり角の前まで来た3人。
一旦止まり、態勢を整える。
「それじゃあ行くよ、せーの」
到極が言う。
そのかけ声に合わせて角を曲がる3人。
数メートル先、白い獣の姿が見えた。
だがそれだけではなかった。
白い獣の視線の先、一人の女性がいた。
「危ない!」
到極が叫んだ。
女性に向かって飛びかかる白い獣。
だが、次の瞬間。
――スパン!
白い獣は真っ二つに切断されていた。
勢いそのまま左右に分かれ地面に打ちつけられる体。
獣はもう動かなかった。
「……!」
「嘘だろ」
「何が起こったの!?」
驚く到極たち。
左半身と右半身に分かれた獣の先で、女性は表情一つ変えずに佇んでいた。
◇ ◇ ◇
そんな到極たちの元にティアと桜が合流した。
変わり果てた獣の姿に動揺する5人。
「あ、あんた、一体何者だ!」
隼人が言った。
女性が答える。
「私たちは《十傑》。日本政府は異能省直属の異能者部隊ですよ」
そう言って到極たちの方へ歩いて来る女性。
明かりに照らされ、その顔が明らかになる。
「あっ、あの時の!」
到極が言った。
それは数日前、到極とティアが遭遇した女性だった。
結城才。
ショートヘアーの髪型の女子高校生。
赤い縁の眼鏡をかけていた。
「結城と申します。お久しぶりですね。ティアさん、到極さん」
結城が言った。
そして続ける。
「捕食獣は異能をエサとしています。あなた達も気をつけた方がいいでしょう」
「アークイーター?」
「この生物のことですよ」
そんな説明をしていると。
ざっざっざっ、と。
数人分の足音が聞こえてきた。
「来たようですね」
結城が言った。
足音のする方を見ると、数人の大人が駆け足でこちらに向かって来ていた。
全員が同じ、清掃員のような格好をしていた。
彼らは到着すると捕食獣の死体を袋に詰め、辺りを掃除し始めた。
「それでは処理班の皆さん、後はよろしくお願いします」
そう言って去っていこうとする結城。
だがふと立ち止まる。
そして振り返って言った。
「あと、捕食獣の駆除は《十傑》が行います。手助けは不要ですので。それでは」
そう言って結城は今度こそ去っていった。
(一体、この世界に何が起きようとしているんだ)
到極たちは目の前の光景をただ茫然と眺めることしか出来なかった。
◇ ◇ ◇
翌日。
E.D.O本部。
ビルはまだ修復中だった。
あちこちにまだ先日の戦いの跡が残っていた。
そんなビル内で。
「皆さんが見たのは捕食獣で間違いないようですね」
本崎が言った。
到極たちは昨日あったことの説明を求めに本部に来ていた。
本崎が続ける。
「私も捕食獣については詳しく知らされていませんが」
「やはり一番の特徴は異能を捕食できることです。どんなに強力な力であっても、それが異能の力であれば口から吸い込んで無効化できるそうです」
「ここ最近、贈ヶ丘に出没するようになったみたいですね。あと何匹いるのか、奴らがどこから来るのかはまだ調査中のようです」
「《十傑》については?」
ティアが聞いた。
「《十傑》は異能省が集めた異能者集団のことですね。存在自体は明言されていますが、詳細はほとんど明かされていません」
本崎が続ける。
「ただ、その全員が最強クラスの異能の持ち主と考えて間違いないと思います」
「メンバーは?」
「すみません。現時点では十人いるという事しか」
異能を捕食する未知の生物に、最強クラスの実力を誇る異能者の集団。
強大な2つの勢力の出現。
そんな状況に。
(もし戦うことになったら、僕たちは勝てるのか? そんな強い相手に)
到極はそんな緊張感を心に感じていた。




