7.生徒会選挙
(まだだ、まだ私は負けてない!)
階段をのぼり終え、廊下を早足で進む平田。
生徒会室が見えてきた。
(ばれたのは海野さん一人にだけ。私はまだやれる。何かここから逆転する方法を――)
そんなことを考えながら生徒会室の扉を開ける平田。
夕焼け色に染まった生徒会室。
その窓際に織田が佇んでいた。
「やぁ、遅かったね。澄怜ちゃん」
織田が優しい口調で言った。
織田の目を見て平田はすぐに分かった。
それは全てを見透かした目だった。
「気付いていたんですか、会長」
「まぁね」
織田が言った。
「どうして」
「私は生徒会長だよ、生徒のことは色々気にして見ているからね」
織田が続ける。
「といっても、私だけじゃなくてティアさんも感付いていたようだけどね」
「そんな……」
礼夏だけでなく織田とティアにも気付かれていた。
その事実を知り落胆する平田。
もう次の計画を実行する気は失せていた。
「私、間違ったことをしたんでしょうか? 私は学園のためを思って」
一見平和に見える学園。
だがその裏では数々の問題が起きていた。
教員による犯罪行為。学園で暗躍する謎の勢力。
それらは学園の運営方針を変えかねない大問題だった。学園は今、大きな転換点を迎えていた。
「私、会長が守り抜いてきたこの学校を守りたくて、それで」
「澄怜ちゃんが素直でやさしい子なのは、私が一番よく知ってる。だから分かる、澄怜ちゃんがどれだけ悩んで今回の行動を起こしたか」
そう言って頭を下げる織田。
「すまなかった。澄怜ちゃんを一人で悩ませて、私の責任だ」
「そんな、会長は何も悪くありません。私、会長の力になりたかっただけなのに……」
平田が言った。
静寂が2人の間に流れる。
それから少しして。
「ねぇ、澄怜ちゃん。一つ話があるんだ」
織田が一つ、ある提案をした。
「次の生徒会選挙、出てみないかい」
◇ ◇ ◇
2週間後。
生徒会選挙当日。
今年は3人が生徒会長に立候補していた。
そしてその中には平田澄怜の姿もあった。
現在、体育館には全校生徒が集められていた。
3人が順番に演説をしていく。
「続いて、平田澄怜さん。お願いします」
司会者が言った。
席を立ち、前に出る平田。
『次の生徒会選挙、出てみないかい』
2週間前の生徒会室での会話が思い起こされる。
『私が? そんな無理ですよ。私に会長の代わりは務まりません』
『私の代わりになろうだなんて思わなくていいんだ。澄怜ちゃんは澄怜ちゃんの生徒会長になればいいんだ』
そんな織田の言葉を胸に、平田が口を開いた。
「私が生徒会長になった暁には――」
◇ ◇ ◇
放課後。
旧校舎、空き教室だった部屋。
「氷室さん、紅茶をいただけますか」
「はーい」
優雅に言う隼人とそれに答える氷室。
「なに、くつろいでるんですか」
そんな光景に神崎がツッコミを入れた。
「結局、私たちの活動は同好会扱い。備品は全て私たちの自腹。その紅茶だってタダじゃないんですから」
「相変わらず神崎は口うるさいな。いいじゃないかちょっとくらい」
隼人が言った。
そして、ここ数日のことを思い返して続けた。
「結局、思い描いていたハーレムとは別ものになっちまったなぁ」
「部員は口うるさい後輩と俺よりでかい男子」
「唯一の癒しは氷室さんだけだよ。はぁ」
そう言って紅茶を一口啜る隼人。
「って、ブ――――ッ! なんだこの味!?」
吹き出す隼人。
「氷室先輩、これ塩ですよ」
紅茶セットを確認して言う望月。
「えー! ごめんねー、隼人くん」
謝る氷室。
「はぁ、まったく仕方ないですね」
呆れながらも布巾を取りに行く神崎。
ボランティア同好会の活動はこうやってスタートしていった。
◇ ◇ ◇
帰宅後。
チームLのシェアハウス。
リビングには礼夏がいた。
「礼夏ー」
そんな礼夏の元に到極がやって来て言った。
「どうしたのよ」
「この間の犯人、見つかったんだって!」
「あぁ、それね。よかったじゃない」
「プライバシーに配慮して誰かは公表しないみたい。でもよかった、これで平田さんたち生徒会のみんなもホッとしたはず」
嬉しそうに言う到極。
「……そうね」
対して少し複雑そうに答える礼夏。
「ありがとう、礼夏」
そんな礼夏に、到極が改めて言った。
「なによ、私は何もしてないでしょ?」
今回の件、礼夏は到極に気付かれないように動いたつもりだ。到極が真犯人を知り傷つくことを避けようとした礼夏なりの気遣いだった。
(もしかして、気付かれた?)
到極が言う。
「そんな事ないよ。礼夏、僕のこと心配してくれてたでしょ? だから」
礼夏の頭の中に数日前のやり取りが浮かんだ。
『気をつけなさいよね』
『いつもみたいに変な無茶しないこと、わかった?』
「なんだ、そのことか。別に心配ってわけじゃないけど。あんたがせわしなく走り回ってんのが端から見てたら鬱陶しかったってだけ」
とりあえずばれていなかったことに安堵しながら。
礼夏が本心を隠しながら言った。
「それでもさ、ありがとう」
そんな礼夏に到極が言った。
そんな話をしていると。
「皆さーん、晩ごはんが出来ましたよー」
台所で桜が言った。
「今日の晩ごはんは生姜焼きです」
「うわー、おいしそう」
並べられた料理を見て到極が言った。
食卓に集う5人。
「「いただきます」」
到極が生姜焼きに箸を伸ばす。
「どうですか?」
心配そうに言う桜。
「うん、おいしい!」
到極が言った。
「ほ、本当ですか?」
「うん、すっごくおいしい。毎日でも食べたいぐらいだよ!」
「はい♪ わたし、これから毎日作ります!」
桜が嬉しそうに言った。
「うん、ぜひ頼むよ!」
「はい!」
笑顔の到極と桜。
これから本当に同じメニューばかり続くことになろうとは、今の隼人や礼夏には想像もつかなかった。
◇ ◇ ◇
数日後。
東京都贈ヶ丘中学校。
2階の廊下。
礼夏が歩いていると、向こうから新生徒会のメンバーが歩いてきていた。その中には平田もいた。
すれ違う両者。その場で立ち止まる2人。
「がんばってるみたいじゃない」
礼夏が言った、新生徒会長である平田に。
平田が返す。
「別にあなたの言葉に感化されたわけじゃありませんから。私はあくまで前会長の意志を継ぐべく――」
「あーはいはい。わかったから」
長くなりそうな話を適当にあしらう礼夏。
「でも、あなたの言葉で気になった事もありましたよ」
「ある"お馬鹿さん"の話。私も少し興味が湧きました」
そう言って悪戯っぽく微笑む平田。
「なっ!?」
動揺する礼夏。
「なんて、冗談ですよ」
その様子を見て、澄まし顔で平田が言った。
「あんたねぇ!」
そう言って突っかかろうとする礼夏。
だが。
「会長、そろそろお時間です」
生徒会役員の一人が言った。
「そうですね、それでは」
そう言ってすたすたと歩き始める平田。
追いかける礼夏。
「ちょっと待ちなさい! 待ちなさいってばー!」
廊下に礼夏の叫び声が響いた。
【第14章 生徒会長編 完】




