6.放課後
放課後。
旧校舎、空き教室の前。
「それではボランティア部の審査を始めます」
生徒会副会長、平田が言った。
今日はボランティア部審査の日だった。
教室の前で隼人、神崎、望月、氷室が並んでいた。
「4人ですか? 部活として認めるにはあと一人必要ですが」
平田が聞いた。
「まぁ、それは追い追い。まずは部室を見てってくれ」
そう言って隼人が教室の扉を開けた。
中に入る隼人と平田。
「去年まで使われていなかった教室ですね。よく片付けられているようですし。はい、これなら問題ありません」
教室内を見渡して平田が言った。
「よし!」
小さくガッツポーズする隼人。
「次は顧問だな。顧問は――」
隼人はそれから顧問や活動内容について説明した。
顧問は川谷先生。
活動は月に一度。
内容は町内のごみ拾い、地元の保育園や老人ホームへの訪問、駅前での募金活動など。
内容については、去年までのものを参考に神崎と望月が考えたものだったが。
「はい、どれも問題ありません。あとは部員だけですが」
平田が言った。
「お待たせしました、こちらです」
隼人はそう言って改めて教室の奥を見せた。
そこには部屋の一部を仕切り、向こう側を隠すように張られた大きな布があった。
「実は5人目の部員はとても恥ずかしがり屋でして。なのでこのような装置を用意しました。このまま進めてもらえませんか」
隼人が言った。
布には女子生徒と思しきシルエットが映っていた。
神崎たち3人もその布の周りにいた。
「……分かりました。ではいくつか質問させてください」
そう言って布の前の椅子に腰掛ける平田。
平田が続けた。
「まずあなたのお名前は?」
「泊です。2年生です」
布の向こうからそんな女子の声が聞こえた。
「泊さん。確かに2年4組に在籍しているようですね」
平田が持参した資料を見ながら言った。
(よし、上手くいってるな!)
隼人が心の中で言った。
一方、布の向こう側では。
平田に見えないように3人が必死に手を動かしていた。手には紐が握られていた。
そして、紐の先には。
椅子に置かれた状態のトルソーがあった。
結局、部員は4人しか集まらなかった。
それでも何とか部活動として登録したい。
そして。
架空の5人目の部員がいるように見せかける。
それが隼人が考えたアイデアだった。
胴体はトルソー、頭はボール、手足は木材。
声は神崎が当てていた。
(事前に不登校の生徒を調べておいて正解だったぜ)
隼人が思った。
この場にいない生徒の名前を勝手に借りるアイデア。
神崎からは反対されたが強引に押し切った。
その後も平田はいくつかの質問をした。
当たり障りのない回答をする泊こと神崎。
審査も終盤に差し掛かった頃。
「最後に、その場で立ち上がって私の言うポーズをとっていただけますか」
平田が言った。
「え? いや、その」
思わぬ要求に動揺する隼人。
「何かマズい事でもあるんですか?」
「い、いや。何にも」
そう言って布の向こうを心配そうに見つめる隼人。
平田がポーズを指定する。
従う神崎たち。
だが。
「氷室先輩、そっちは左手です」
「神崎さん、僕のと絡まってます」
「望月くん、ぶつかってるよぉ〜」
そんな3人の声が聞こえてきた。
そして。
「「「うわぁ〜!」」」
ズザァー!
3人が平田たちの側に倒れてきた。
布が外れ、仕掛けが明らかになる。
「いや、これはその……」
隼人が何か言おうと口を開く。
だが。
「はぁ、こんな事だろうと思いました。結果は後日お伝えしますので。それでは」
そう言って鞄を持ち、席を立つ平田。
「待ってくれ!」
引き止めようとする隼人の甲斐むなしく、平田は教室を出て行った。
◇ ◇ ◇
教室の外。
平田が扉を閉めた。
「だから私は反対だったんです――」
「そんな事言ったって仕方ねぇだろ――」
「まぁまぁ2人とも――」
そんな声が先ほどの教室から聞こえてくる。
「はぁ、まったく仕方のない方々ですね。油断も隙もない」
平田が言った。
窓の外はすっかり夕焼けに染まっていた。
生徒会室に戻ろうとする平田。
旧校舎から普段の校舎に移動し、階段の手前まで来た時だった。
「ちょっと待ちなさい」
そんな声が階段の上から聞こえてきた。
見上げる平田。
すると、階段の踊り場に一人の女子生徒が立っていた。
礼夏だった。
窓から差し込む夕陽が後光のように礼夏を照らしていた。
「あなたは確か、海野さん。何か御用ですか?」
平田が言った。
「――あんたでしょ、今回の脅迫事件の犯人」
礼夏が言った。
平田と礼夏の間に流れる時間が、一瞬止まった気がした。
◇ ◇ ◇
階段で対峙する礼夏と平田。
「何のことです? 仰っている意味が分かりませんが」
平田が言った。
「言葉通りの意味よ。今回の事件はすべてアンタが計画したもの。生徒会に脅迫の手紙を出したのもアンタ」
「いい加減なことを言わないでください。第一、私は事件の被害者なんですよ、想像でものを言うのは――」
そんな平田の言葉の最中だった。
ヒュン! という音が鳴った。
礼夏の異能だった。
物質を消し去る光線。
礼夏が平田の鞄を撃っていた。
底が抜け、散らばる教科書やノート。
その中には。
この間の封筒と同じ封筒が何通も混じっていた。
「あら、これでもいい加減な事だったかしら?」
礼夏が言った。
今回の事件が平田の自作自演であることはもう明らかだった。
動揺する平田。
「っ! ……緊急性のない状況で異能の使用し、生徒の持ち物を破損させた。重大な問題行為ですよ」
「それが? だから何? 私は到極やティアみたいに甘くない。あんたがもし歯向かってくるなら、次はあんたの体を撃ち抜く」
そう言って指で銃の形を作り、平田に向ける礼夏。
「……っ!」
歯を食いしばる平田。
「…………か」
少しして平田が口を開いた。
「何が悪いっていうんですか。怪我したのは私一人じゃないですか。これは学園のためなんですよ。こちら側が正義なんです。だからこれ以上、私の邪魔をしないでください!」
「そう、まぁ確かに、私はあんたが何の為にこんな事をしたかは知らない。あんたにはあんたなりに立派な目的があるのかも知れない」
でも、と。
礼夏が続ける。
「それでも、このままアンタの好きにはさせない」
礼夏がそう言い切った。
少しの静寂が2人の間に流れる。
再び礼夏が話し始めた。
「あたしの知り合いに、一人どうしようもない馬鹿がいるわ」
「ばかで、ぐずで、弱っちくて、頼りなくて。そのくせ困ってる人を放っておけなくて。だからいつもボロボロで傷だらけな、そんな奴」
「ほんとばかよね、あいつ。簡単なことじゃない。少し考えたら分かることじゃない」
監視カメラに外部の人間が映っていなかったという事は、犯人は生徒会内部の人間。到極の話を聞いて、礼夏はすぐにそう思った。
だが。
「それなのにあいつったら平田の事これっぽっちも疑ってなくてさ。それどころか「絶対に犯人を捕まえて平田さんを安心させてあげるんだー」って言うのよ。笑えるわよね」
「あいつは今も学校中を駆けずり回ってる。他でもない、アンタを助けるためにね」
「犯人が見つからない限り、あいつはずっと走り続ける。そういう奴だから。だから悪いけど、アンタにはここで負けを認めてもらうわ」
その言葉を聞いて、ここまで黙っていた平田が口を開いた。
「……。はぁ、分かりました。私の負けです」
「生徒会室に行って用事を済ませたら、そのあと先生にすべてを話します。では」
そう言って階段を上り始める平田。
用が済み、階段を降りる礼夏。
途中ですれ違う2人。
そんな礼夏の後ろ姿を、平田は恨めしそうに見つめていた。




