9.獣戦士
教会の前。
到極はレオンの攻撃を必死に避けていた。
アーク名 獣化(ライオン)
動物の性質を得る能力。
それがレオンの異能だった。
「ガアアアアーっ!」
レオンが吠える。
レオンは今、暴走状態だった。
数ヶ月前、新解釈派に人体実験の被験体にされたレオン。異能の出力を上げられ、武器となる機械の手を取り付けられた。今は自我を失い、男の操り人形だった。
「今やレオンの力はチームB相当。あなたごときがかなう相手ではありません」
男が言った。
(チームB!? 勝てるのか僕は、そんな相手に)
機械の手が到極に迫る。
一度でも当たれば大ダメージを受けるのは明らかだった。
だが動きが大きいという事は、その分、隙が多いという事でもあった。
レオンの動きの隙を突いて懐に飛び込む到極。
そして。
「おりゃあー!」
レオンの胸部に拳を叩き込む到極。
「ぐおっ!?」
怯むレオン。
(よし。これなら、行ける!)
到極が思った。
力だけなら確かにチームB相当なのかも知れない。
だがそれ以外なら付け入る隙もあるといえた。
一撃を与えたら後退、攻撃を躱しながら近づき、また一撃を与えたら後退を繰り返す到極。
徐々にレオンの体力を削っていく。
そして。
「ここで決める、爆拳!」
到極が必殺の拳を突き出した。
「ぐおおおおーっ!」
吹き飛ぶレオン。そのまま地面に転がった。
「はぁはぁ。よし、早くシルヴィアさんの所に行かないと」
だが。
「っ!?」
レオンが再び動き出した。
そのことに気付いた時にはもう遅かった。
――レオンの巨大な手が到極を捕えていた。
「くっ、動けない。抜け出せない……っ!」
機械の手の中で藻掻く到極。
だが。
「ぐあああああっ!」
機械の手が到極をじわじわと締め付けていた。
◇ ◇ ◇
今は使われていない教会。
追っ手をなんとか振り切り、物陰に隠れた3人。
「一応、応急処置はしましたわ」
シルヴィアが言った。
「すみ……ません、ありがとう……ございます」
ドロシーが返した。
「無理に話さなくて結構ですわ」
「大丈夫、です。私、体だけは……結構、丈夫ですから」
「もう、こんな無茶はしないでください」
そう言うシルヴィアの目には涙が浮かんでいた。
シーンとする空間。
そんな中、ドロシーが口を開いた。
「私も、ずっと、見てみたかったです……から」
シルヴィアが耳を傾ける。
「シルヴィア様が、言ってた、差別がなくて……みんながお腹いっぱい……ご飯を食べれる、そんな世界。だから……」
「それ、私が演説で言った言葉……」
(――いや、違う)
そこまで言いかけてシルヴィアが止まった。
考えるシルヴィア。
ドロシーは言った、ずっと見てみたかった、と。
(私は今までドロシーにこのことを話したことは無い。なのに、なぜ知っているの? 私が過去にこのことを話したのは――。まさか!)
その時、シルヴィアの頭にある光景が浮かんだ。
もう10年近く前の記憶だった。
「わたくし、おおきくなったら、みんながさべつされない、みんながおなかいっぱいごはんをたべれる。この国をそんなふうにしますわ」
国の現状を知るために訪れた貧民街。
そこで仲良くなった子供たち。
彼らに言った言葉だった。
そしてその中の一人には、ドジで、だけど芯の強い女の子がいた。今頃は目の前のメイドの少女と同じ、15歳くらいのはずだ。
「ドロシー。あなた、もしかしてあの時の――」
シルヴィアがそう言いかけた、その時。
「見つけたぞ、こっちだ!」
追っ手がシルヴィアたちを発見した。
逃げようとするシルヴィアたち。
だが。
「囲まれた!?」
「くっ」
壁際に追い詰められ、後がないシルヴィアたち。
その時だった。
「お待たせいたしました、シルヴィア様」
そんな声が聞こえた。次の瞬間。
「ぐわーっ!」
追っ手の男の叫んだ。
次々に倒されていく追っ手の男女。
最後の一人を倒し終えると、駆けつけたその男は服についた埃をぱんぱんと払った。
黒いスーツに白い手袋。執事の服装だった。
「もう、遅いですわスコーピウス」
シルヴィアが言った。
安堵の表情だが、その目には涙が浮かんでいた。
「他の追っ手は?」
「来る途中に遭遇した者たちは、すべてティアさんと親衛隊が片付けたとの事です」
スコーピウスが答えた。
「またティアさん、異能も頭脳も私たちの想像以上のようですわね」
「ってことは桜もいるんですね!」
光が言った。
これでドロシーを治すことができる。
すぐに桜を呼び、ドロシーを回復した。
「私たちの車に乗ってください」
スコーピウスが言った。
シルヴィアが頷いた。
シルヴィアたちは再び外へ向かった。
◇ ◇ ◇
教会の外。
到極はレオンの機械の腕の中にいた。
「ぐああああっ」
次第に締め付けが強くなっていく。
(このままじゃ、やられる……っ!)
「レオンさん、レオンさんは……これで、いいん……ですか」
到極が言った。
「どんな手で来るかと思えば説得ですか。無駄ですよ。今の彼にはどんな言葉も届きません」
男が淡々と言った。
「協力……させられてるん……ですよね、あの人たちに」
到極が続ける。
「本当はこんなこと、したくないはずです」
「レオンさん、思い出してください。本当のあなたを!」
到極が精一杯の力で言った。
「愚かな。我々には全知全能の神がついている。あなたの言葉くらいで、我々の計画が止まるわけがないでしょう」
そして。
「そろそろ終わりにしましょう。レオン、それを握り潰しなさい」
男が冷たく言い放った。




