6.その日の夜
6日目の夜。宮殿内。
客室で寝ていた到極が目を覚ました。
「……。(トイレ、行ってこよう)」
――。
――――。
トイレを済ませ、自分の部屋に戻ろうとする到極。
その途中。
通りかかった部屋の扉が少し開いていた。
シルヴィアの部屋だった。
不意に中の様子が目に入る。
そこには。
「ドロシーさん!」
テーブルに突っ伏し、まるで倒れているような状態のドロシー。到極が慌てて駆け寄った。
だが。
「すぅすぅ……むにゃむにゃ……」
聞こえてきたのはそんな可愛らしい寝息だった。
「なんだ、寝てただけか」
ほっと胸を撫で下ろす到極。
そんな到極に優しい風が吹いた。
外からだった。バルコニーの扉が開いていた。
風ではためくカーテンの向こうに、後ろ姿が見えた。
シルヴィアだ。
見返り美人のような角度で佇むシルヴィア。
美しかった。思わず釘付けになる到極。
バルコニーから部屋へ戻ってくるシルヴィア。
「ノックもせずに部屋に入ってくるなんて、意外と大胆なんですのね」
「す、すみませんシルヴィア様。これはそんなつもりじゃ! そのドロシーさんの事が心配で!」
「ふふ、冗談です。少しからかってみただけですわ」
到極の慌てる様子を見て無邪気にくすっと笑うシルヴィア。その様子からは、昼間のわがままな印象は感じられなかった。
「それにしても」
とシルヴィアが続けた。
「自分から私の護衛に志願しておいて、私より先に眠ってしまうなんて、本当に世話の焼けるメイドですわね」
そして。
「この子をベッドまで運ぶの、手伝っていただけます?」
シルヴィアが少し困った笑顔で言った。
――。
――――。
数分後。
「シルヴィアさま、そんなに食べられませんよぉ……」
ベッドの上で寝言を言うドロシー。
「ドロシーのこと、ありがとうございました」
シルヴィアが言った。
「いえ、こちらこそお邪魔しました。じゃあ僕はこれで」
そう言って立ち去ろうとする到極。
だが。
「あ、あの、少しお話していきませんか?」
そんな到極をシルヴィアが引き留めた。
「駄目、でしょうか?」
不安そうな顔で見つめるシルヴィア。
「駄目、ってことはないですけど」
その言葉を聞いて表情がパーっと晴れ、笑顔になるシルヴィア。
「ありがとうございます。では紅茶をお淹れしますね、少し待っていてください」
シルヴィアがうきうきしながら言った。
「あ、あの、お気遣いなく――」
「わたくし、紅茶の淹れ方には少し自信があるんですの」
そう言って紅茶の用意を始めるシルヴィア。
その間、到極は一人この部屋で待っていた。
そんな中。
「あれ、これって――」
到極は、部屋である物を発見した。
――。
――――。
「いかがでしょう?」
「とても美味しいです」
用意された紅茶を飲み、到極が言った。
「ふふ、よかったですわ」
「そういえば、シルヴィア様はどうして外に?」
「風に当たっていましたの。少し眠れなくて」
シルヴィアが複雑そうな顔で言った。
「それって、原因はあの"文書"ですか?」
到極が聞いた。先ほど見つけた文書のことを。
「そう、見つかってしまったんですね」
その文書に書かれていた一文を到極が口にした。
「――シルヴィア王女暗殺計画」
◇ ◇ ◇
「それが原因だったんですね」
到極が言った。
遠い日本から異能者の護衛を呼んだことも。
5人の任務の内容を急に変更したことも。
すべてはこの計画に抗うため。
シルヴィアが肯定した。
「皆さんに負担をかける事になって、申し訳ないと思っています」
「いえ、むしろ気付けてよかったです。シルヴィアさんの本心に」
そう、決してわがままなどではなかった。
それが分かりホッとする到極。
「僕たちのことを考えての行動だったって事ですもんね」
特に桜。桜を宮殿内に閉じ込めていたのは戦う術を持たない彼女を巻き込まないため。
「でもどうしてですか。初めから話してくれればよかったのに」
到極が聞いた。
「私は王族です。その一員として一般市民に弱い姿は見せられませんでした。いつも気高くあらねばなりませんから」
真剣な表情でシルヴィアが言った。
そう言った後、口元を少し緩ませるシルヴィア。
「でも、バレてしまっては仕方ありませんね」
少し困ったような笑顔で言うシルヴィア。
そして。
「到極さん。私を、守ってください。お願いします」
再び真面目な態度に戻り、シルヴィアが言った。
「もちろんですよ。シルヴィア様」
到極が真剣な表情で返した。
――。
――――。
シルヴィアの部屋を出る前。
「あぁそうだ。隼人のこと」
到極が立ち止まって言った。
「出来るだけ、お手柔らかに頼みます」
隼人は今も地下牢の中だった。
任務の時のみ解放され、それが終わるとまた収監される生活が数日続いていた。
「あんな無礼な態度をされては仕方ありませんわ。あのような態度には、こちらも毅然とした態度で対応しなければなりませんから」
ぷいっ、と頬を膨らませるシルヴィア。
だが到極の不安そうな顔を見て、その表情を崩して続けた。
「安心してください。食事は毎日3食届けていますし、健康状態もチェックしています。寒いと言えば毛布なども届けるよう伝えてありますから」
「そう、ですか」
それを聞いて到極は少し安心した。
今度こそ帰ろうとする到極。
そんな彼に再びシルヴィアが言った。
「でも、彼が言っていたこと。あながち間違いでもないんですのよ」
「え?」
聞き返す到極。
「対等な関係に憧れがある、という話です」
シルヴィアが続けた。
「到極さん――」
「私と、お友達になっていただけませんか?」
笑顔で、だが少し不安そうにシルヴィアが言った。
その表情に一瞬ドキッとする到極。
だがすぐに。
「僕で良ければ、よろこんで」
到極が笑顔で言った。




