5.月島とレイラ
2日目の朝。
到極たちはシルヴィアの言動に早速振り回されることになった。
「皆さんの任務の内容を変更しますわ」
シルヴィアが言った。
桜は宮殿内の雑用に。外出も制限された。
光には逆に宮殿の外で行う雑用が追加された。
ティアには王国側の護衛と会議の任務が追加された。
(ずいぶんと急だけど、理由は何だろう?)
到極が思った。
難しい顔で考える到極。
そんな到極に桜が言った。
「あの、すみません到極さん、私のせいで」
「え? あぁ、桜のせいじゃないよ」
桜の外出禁止のしわ寄せは到極に来ていた。
到極は桜が回るはずだった分まで、巡回を行うことになっていた。
桜はそのことを気にしていた。
気にしていない事を伝える到極。
(とりあえずは様子見かな)
到極はそう思った。
王女の真意はまだ分からなかった。
◇ ◇ ◇
ヴァルデリア王国、市街地。
ある青年が街を歩いていた。
月島氷哉だ。
車椅子を押しながら進む月島。
「また考えてるの? あの日のこと」
車椅子に乗っていた少女が言った。
藤崎レイラだ。
あの日、そう。
あの事件があった日のことを月島は思い出していた。
――。
――――。
――――――。
3ヶ月前。
ヴァルデリア王国。
町の中心から離れたエリア。
そこには貧しい子供たちが集まる場所があった。
「なんだ、今日は氷哉かよ」
「なぁ、今日はレオン兄ちゃん来ないの?」
「レオンお兄ちゃんが良かった」
子供たちが言った。
この場所には時々ボランティアがやって来る。
炊き出しをしたり勉強を教えたりするためだ。
そんなボランティアの中で、レオンという青年は優しく子供たちから大人気だった。
反対に、月島は人気がなかった。
レオンが休みの今日。
子供たちの落胆ぶりは明らかだった。
「こっちだって別に来たくなかったっつーの」
月島が言った。
付き合いで仕方なく参加したボランティア。
元々やる気などなかった。
そんな月島の元に一人の少女が近づいてきた。
「私は氷哉お兄さんとも仲良くなりたい、かな」
少女が笑顔で言った。
少女の名は藤崎レイラ。
やんちゃな子供たちが多い中、彼女は弱気で大人しい方だった。
レイラは手にボールを持っていた。
どうやらこれで仲良く遊ぼうということらしい。
(こいつ、なんか毎回俺に構ってくるんだよなぁ)
(はぁ、ほんと面倒くせぇ)
月島がレイラを見ながら思った。
仕方なく子供たち数人とキャッチボールをする月島。
最初は穏やかに遊んでいた。
が、月島の投げたボールが逸れた時だった。
ボールは勢いよく弾み、少し離れた場所の物置小屋に入っていった。
「あんなの取れるわけないだろ、取ってこいよ」
子供の一人が言った。
「うるせー、お前たちが取ってこい」
言い返す月島。
子供たちと月島の言い争いが始まった。
「ったく、これだからガキは嫌いなんだよ!」
言い争いは次第に熱を帯びていった。
そんな状況を見かねて。
「わ、私がとって来るから。仲良く遊ぼうよ、ね?」
レイラが言った。
そんなレイラの事など気にせず、月島は子供たちと言い争いを続けていた。
物置小屋に入って行くレイラ。
その直後だった。
物置小屋に何本もの鉄骨が降り注いだのは。
ガシャーン! という轟音。
月島が気づいた時には、もう小屋は潰れていた。
上方を見る月島。
鉄骨は工事中のビルから落ちて来たようだった。
工事中のビル、その屋上。
動くものが見えた。作業員とは違う人影だった。
スーツのような服装。顔には仮面をつけていた。
「ま、待て!」
月島が言った。
だがその時にはもう人影は姿を消していた。
「レイラちゃん!」
子供たちの叫び声が聞こえた。
その声で、月島は思い出した。
(そうだ、あの小屋にはあいつが――)
慌てて小屋の方を見ると、その入口には血溜まりが出来ていた。
「あ、ああ……」
茫然とする月島。
小屋の前に、血に濡れたボールだけが転がっていた。
――――――。
――――。
――。
「氷哉が思い詰める事ないよ。あれは氷哉のせいじゃない、誰のせいでもないんだから」
レイラが言った。
だが月島の心は晴れなかった。
ただ怪我から守れなかっただけではない。
レイラがこんな怪我をするまで、レイラの優しさに気付けなかった自分。それまで彼女をぞんざいに扱い、彼女のことを顧みなかった自分。レイラの方が大人で、自分の方が遥かにガキだった自分。
そんな今までの自分に、月島は腹が立っていた。
「ありがとうレイラ。レイラはいつも優しいな」
そんな苛立ちを必死に隠し、月島が言った。
だがそれも、レイラにはとっくに見抜かれている気がした。
◇ ◇ ◇
6日目。
到極たちは相変わらずシルヴィアに振り回されていた。
任務の変更や追加など。要求の内容は次第にエスカレートしている気がした。
「はぁ、もうへとへとだよぉ」
休憩中、光が言った。
ティアと桜もテーブルに突っ伏したり、ソファーで横になったりと、かなり疲弊しているようだった。
3人ともシルヴィアに不満や疑念を感じ始めていた。
到極が考える。
(このままじゃ、みんなの心がシルヴィアさんから離れてしまう)
(ただのわがままなのか、それとも……)
だがその答えを見つけることは、今の到極には出来なかった。
◇ ◇ ◇
ヴァルデリア王国。
とある教団の施設。その薄暗い地下室。
部屋にはいくつもの黒い机。
机の上には試験管やフラスコが置かれていた。
壁際には棚があり、中には薬品が並んでいる。
そこは実験室だった。
足音が聞こえてくる。
階段を降り、一人の男が地下室に向かっていた。
男が地下室の扉を開ける。
地下室には既に数人の研究員がいた。
研究員たちが男を迎え入れる。
「どうだ、"あれ"の様子は?」
男が言った。
「順調です」
研究員の一人が言った。
――ガン、ガン、ガンッ!
部屋の奥から聞こえてくる巨大な物音。
「無理やり出力を上げましたからね。もう暴走寸前ですよ」
研究員が言った。
「それで、最終的にどれくらいになった?」
男が聞いた。
「E.D.Oの指標だと、おそらく"チームB"相当かと」
男の質問に淡々と答える研究員。
研究員が男を部屋の奥に案内した。
部屋の奥。そこにあるのは一枚の扉。
扉に付いている小さな窓から中を確認する男。
そこに男の目当ての存在がいた。
鎖で両手を拘束された、上半身裸の青年。
青年が鋭い眼光で男を睨みつける。
「があああああーーっ!」
咆哮する青年。
その様子を見ながら、男は不敵に笑っていた。




