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異能と青春  作者: 成海由華
王女護衛編
80/100

5.月島とレイラ

 2日目の朝。

 到極たちはシルヴィアの言動に早速振り回されることになった。


「皆さんの任務の内容を変更しますわ」


 シルヴィアが言った。


 桜は宮殿内の雑用に。外出も制限された。

 光には逆に宮殿の外で行う雑用が追加された。

 ティアには王国側の護衛と会議の任務が追加された。


(ずいぶんと急だけど、理由は何だろう?)


 到極が思った。

 難しい顔で考える到極。

 そんな到極に桜が言った。


「あの、すみません到極さん、私のせいで」


「え? あぁ、桜のせいじゃないよ」


 桜の外出禁止のしわ寄せは到極に来ていた。

 到極は桜が回るはずだった分まで、巡回を行うことになっていた。


 桜はそのことを気にしていた。

 気にしていない事を伝える到極。


(とりあえずは様子見かな)


 到極はそう思った。

 王女の真意はまだ分からなかった。




 ◇ ◇ ◇




 ヴァルデリア王国、市街地。

 ある青年が街を歩いていた。

 月島氷哉だ。


 車椅子を押しながら進む月島。


「また考えてるの? あの日のこと」


 車椅子に乗っていた少女が言った。

 藤崎レイラだ。


 あの日、そう。

 あの事件があった日のことを月島は思い出していた。



――。

――――。

――――――。



 3ヶ月前。


 ヴァルデリア王国。

 町の中心から離れたエリア。

 そこには貧しい子供たちが集まる場所があった。


「なんだ、今日は氷哉かよ」

「なぁ、今日はレオン兄ちゃん来ないの?」

「レオンお兄ちゃんが良かった」


 子供たちが言った。


 この場所には時々ボランティアがやって来る。

 炊き出しをしたり勉強を教えたりするためだ。


 そんなボランティアの中で、レオンという青年は優しく子供たちから大人気だった。

 反対に、月島は人気がなかった。


 レオンが休みの今日。

 子供たちの落胆ぶりは明らかだった。


「こっちだって別に来たくなかったっつーの」


 月島が言った。

 付き合いで仕方なく参加したボランティア。

 元々やる気などなかった。


 そんな月島の元に一人の少女が近づいてきた。


「私は氷哉お兄さんとも仲良くなりたい、かな」


 少女が笑顔で言った。


 少女の名は藤崎レイラ。

 やんちゃな子供たちが多い中、彼女は弱気で大人しい方だった。


 レイラは手にボールを持っていた。

 どうやらこれで仲良く遊ぼうということらしい。


(こいつ、なんか毎回俺に構ってくるんだよなぁ)

(はぁ、ほんと面倒くせぇ)


 月島がレイラを見ながら思った。

 仕方なく子供たち数人とキャッチボールをする月島。


 最初は穏やかに遊んでいた。

 が、月島の投げたボールが逸れた時だった。


 ボールは勢いよく弾み、少し離れた場所の物置小屋に入っていった。


「あんなの取れるわけないだろ、取ってこいよ」


 子供の一人が言った。


「うるせー、お前たちが取ってこい」


 言い返す月島。

 子供たちと月島の言い争いが始まった。


「ったく、これだからガキは嫌いなんだよ!」


 言い争いは次第に熱を帯びていった。

 そんな状況を見かねて。


「わ、私がとって来るから。仲良く遊ぼうよ、ね?」


 レイラが言った。

 そんなレイラの事など気にせず、月島は子供たちと言い争いを続けていた。


 物置小屋に入って行くレイラ。


 その直後だった。

 物置小屋に何本もの鉄骨が降り注いだのは。


 ガシャーン! という轟音。


 月島が気づいた時には、もう小屋は潰れていた。

 上方を見る月島。


 鉄骨は工事中のビルから落ちて来たようだった。


 工事中のビル、その屋上。

 動くものが見えた。作業員とは違う人影だった。

 スーツのような服装。顔には仮面をつけていた。


「ま、待て!」


 月島が言った。

 だがその時にはもう人影は姿を消していた。


「レイラちゃん!」


 子供たちの叫び声が聞こえた。

 その声で、月島は思い出した。


(そうだ、あの小屋にはあいつが――)


 慌てて小屋の方を見ると、その入口には血溜まりが出来ていた。


「あ、ああ……」


 茫然とする月島。

 小屋の前に、血に濡れたボールだけが転がっていた。



――――――。

――――。

――。



「氷哉が思い詰める事ないよ。あれは氷哉のせいじゃない、誰のせいでもないんだから」


 レイラが言った。

 だが月島の心は晴れなかった。

 ただ怪我から守れなかっただけではない。


 レイラがこんな怪我をするまで、レイラの優しさに気付けなかった自分。それまで彼女をぞんざいに扱い、彼女のことを顧みなかった自分。レイラの方が大人で、自分の方が遥かにガキだった自分。


 そんな今までの自分に、月島は腹が立っていた。


「ありがとうレイラ。レイラはいつも優しいな」


 そんな苛立ちを必死に隠し、月島が言った。

 だがそれも、レイラにはとっくに見抜かれている気がした。




 ◇ ◇ ◇




 6日目。

 到極たちは相変わらずシルヴィアに振り回されていた。


 任務の変更や追加など。要求の内容は次第にエスカレートしている気がした。


「はぁ、もうへとへとだよぉ」


 休憩中、光が言った。

 ティアと桜もテーブルに突っ伏したり、ソファーで横になったりと、かなり疲弊しているようだった。


 3人ともシルヴィアに不満や疑念を感じ始めていた。

 到極が考える。


(このままじゃ、みんなの心がシルヴィアさんから離れてしまう)

(ただのわがままなのか、それとも……)


 だがその答えを見つけることは、今の到極には出来なかった。




 ◇ ◇ ◇




 ヴァルデリア王国。

 とある教団の施設。その薄暗い地下室。


 部屋にはいくつもの黒い机。

 机の上には試験管やフラスコが置かれていた。

 壁際には棚があり、中には薬品が並んでいる。


 そこは実験室だった。


 足音が聞こえてくる。

 階段を降り、一人の男が地下室に向かっていた。

 男が地下室の扉を開ける。


 地下室には既に数人の研究員がいた。

 研究員たちが男を迎え入れる。


「どうだ、"あれ"の様子は?」


 男が言った。


「順調です」


 研究員の一人が言った。


――ガン、ガン、ガンッ!


 部屋の奥から聞こえてくる巨大な物音。


「無理やり出力を上げましたからね。もう暴走寸前ですよ」


 研究員が言った。


「それで、最終的にどれくらいになった?」


 男が聞いた。


「E.D.Oの指標だと、おそらく"チームB"相当かと」


 男の質問に淡々と答える研究員。




 研究員が男を部屋の奥に案内した。


 部屋の奥。そこにあるのは一枚の扉。

 扉に付いている小さな窓から中を確認する男。

 そこに男の目当ての存在がいた。


 鎖で両手を拘束された、上半身裸の青年。

 青年が鋭い眼光で男を睨みつける。


「があああああーーっ!」


 咆哮する青年。

 その様子を見ながら、男は不敵に笑っていた。

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