8.接近
とある山道。
「ティア、隼人! 早くあの男を追って!」
「でも!」
「私のことはいいから!」
辰巳の後ろ姿を目で追いながら、礼夏が言った。
礼夏は機械兵士に両腕を掴まれたままだ。
ティアと隼人がお互いを見た。
アイコンタクトをし、隼人が辰巳を追おうとした。
だが。
「ぐっ、あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!」
機械兵士が礼夏の両腕を掴む力が増した。
礼夏の腕がミシミシと嫌な音を鳴らした。
機械兵士の目がティアと隼人を牽制した。
「くっ、これじゃあ……」
隼人の足が再び止まった。
◇ ◇ ◇
「ここが、毒島さんの別荘……」
到極と桜は別荘にたどり着いていた。
だが……。
ヒビの入った壁、割れた窓ガラス、崩れた屋根。
別荘というより、廃墟という感じだった。
「とりあえず一階から探そう」
「はい!」
桜が答えた。
建物は二階建てだった。
一階をすべて確認し、二人は二階に上がった。
(やっぱり、ここに毒島さんは居ないのか?)
この廃墟に人が住んでいるとは思えなかった。
到極が二階の部屋のドアノブを回した。
だが。
ガッ、っとドアノブが引っ掛かる。
扉は開かなかった。
中から鍵がかかっていた。
到極が警戒し一歩下がる。
すると。
「……誰だ」
扉の向こうから声が聞こえてきた。
◇ ◇ ◇
とある山道。
「あんまり、私を、ナメるなーっ!」
礼夏が叫んだ。
すると、上空から二つの光球が飛来し機械兵士の腕に直撃した。
礼夏の異能、『抹消する者』。
その力は光線タイプのものだけではなかった。
光線タイプと光球タイプ。
礼夏はその二つを使い分けることができた。
機械兵士の両腕が跡形もなく消滅した。
「さ、あいつらの跡を追うわよ」
◇ ◇ ◇
廃墟の二階。
「……誰だ」
扉の向こうから声が聞こえてきた。
渋い男性の声だった。
「毒島れんげさんですか、僕たちはE.D.Oから来た者です」
到極が言った。
「狙いは"手記"か?」
「E.D.Oとしての目的はそうです。でも僕個人としては、――毒島さんを助けたいです!」
毒島の問いに到極が答えた。
「俺を、助ける?」
「毒島さん追われているんですよね、いくつもの組織から。僕たちも今日ここに来る途中で、他の組織と遭遇しました」
「あぁ、でも良いのか? お前は俺がどんな奴か知らないだろ」
「はい、でも悪い人じゃないと思います」
それはただの勘ではなかった。
今回の任務の内容は手記の回収であり、毒島と戦うことではない。
逆にいえば、それは毒島は戦う必要がない相手だということを意味していた。
到極のその言葉を聞いて、毒島は語り始めた。
「あれは十年前の事だ――」
自分には未来を見る力があること。
その力を複数の組織に狙われていること。
そのせいで十年間逃げ回っていること。
「――娘とも、もう何年も会えていない」
毒島の声は悲しそうだった。
「毒島さん、僕たちと一緒に来てください。何か良い方法を考えて、家族の所に帰りましょう」
到極が言った。
「俺だってそうしたいさ。でもこのままついて行っても、家族だけじゃなくお前たちにまで迷惑をかけてしまう。だから……」
その言葉を最後に毒島の声は聞こえなくなった。
「と、到極さん、もしかして」
桜が言った。
到極もおそらく同じ事を考えた。
だから、異能を発動した。
到極がドアノブを掴む。
ミシミシ、という音と共に扉がゆがんだ。
バキッ、と音を立て、扉が開いた。
だが、そこに毒島は居なかった。
◇ ◇ ◇
とある山道
礼夏たちが別荘へ向かおうとすると、目の前に新たな機械兵士が立ち塞がった。
「くっ、もう一体いたの!?」
驚く礼夏たちの後ろから、先ほど両腕を破壊された機械兵士が三人を挟み込んでいた。
「どうやら完全に破壊するまで、通してくれないみたいだな」
隼人が言った。
「いいわ、相手になってあげるわよ!」
礼夏が言った。
三人が背中合わせになって機械兵士と対峙した。
一瞬の静寂の後、それぞれが相手に向かって走り出した。
◇ ◇ ◇
廃墟の二階。
到極が無理やり扉を開いた。
だがそこに毒島の姿はなかった。
「いない……?」
到極が言った。
窓が開いていた。
おそらく毒島はここから逃げた様だった。
部屋の奥には机が一つあった。
机の上には一冊の手記。
毒島のいない部屋に、手記だけがあった。
窓から風が吹いた。
手記のページがヒラヒラとはためいていた。




