3.月島氷哉
月島氷哉。
それが今、目の前にいる青年の名前だった。
年齢は17歳。
スタイルの良いイケメンだった。
ヴァルデリア王国には日本にルーツを持つ者も数多く暮らしている。月島もその一人だった。
「レイラ?」
到極が言った。
「とぼけるな!」
到極の言葉に強い口調で返す月島。
そんな月島をなだめるため光が口を開く。
「私たち怪しい者じゃありません。私たち――」
そう言いながら光が持っていた鞄に手を入れる。
シルヴィアから渡された許可証を見せるためだ。
だが、その瞬間。
――光の持っている"鞄"が凍り始めた。
「光っ!」
到極が叫んだ。
「う、うん!」
光が到極の声に反応し、鞄を投げ捨てた。
鞄は数秒で完全に凍りついてしまった。
「チッ、避けられたか」
月島が言った。
気がつくと周囲には冷気が立ち込めていた。
警戒し、月島から距離を取る2人。
「何するんですか!」
到極が言った。
「お前らこそ、その鞄から武器を取り出すつもりだったんじゃないか」
月島が言い返した。
「さっきから何を言って……」
到極が困惑しながら呟いた。
「到極くん。あの人、相当気が立ってるみたい」
「そうみたいだね……」
光の言葉に到極が返した。
2人とも、この場を平和的に治めることは出来ないかも知れないと感じていた。
「何コソコソ話してやがる!」
月島が叫んだ。
そして改めて、月島が異能を発動した。
無数の氷の粒が月島の周囲に現れる。
そして。
氷の粒が一斉に2人に向かって放たれた。
アーク名 氷雪使い。
氷や冷気を操る能力。
それが月島の異能だった。
すかさず光も異能を発動した。
2人の前に盾が出現し、月島の攻撃を防ぐ。
だが。
盾を回り込むように、月島が走って来ていた。
迎え撃つべく拳を突きだす到極。
だがその拳をかわし、到極にカウンターを打ち込む月島。戦闘においては月島の方が一枚上手だった。
氷の剣を生成し、到極に切りかかる月島。
必死にかわす到極。だが徐々に追い詰められていく。光が到極のサポートに入る。
だが2人の力を合わせても、月島の優勢に変わりはなかった。
「レイラ、俺は……っ!」
戦いの中で月島が呟いた。
この戦い、月島はいつも以上の力を発揮していた。
その理由は一人の少女だった。
◇ ◇ ◇
数分後。
到極と光は地面に倒れていた。
「つ、強い……」
到極が言った。
そんな2人に、月島がゆっくりと近づいていく。
(まずい。トドメを、刺される!)
焦る到極。
だが、そんな時だった。
「――やめて!」
物陰からそんな声が聞こえてきた。
その声を聞き、月島の動きが止まる。
声の主が続ける。
「やめて氷哉。その人たちは悪い人じゃないよ」
そう言いながら声の主が物陰から姿を現した。
だがその姿を見て、到極と光は言葉を失った。
声の主は金髪の少女だった。
綺麗だった。
だが絶句したのは彼女の美しさにではない。
両手と両脚に巻かれた包帯。
それだけではない。
両目も包帯で覆われていた。
ゆっくりと車椅子を漕ぎ、現れた少女。
そのあまりの痛々しさに、到極たちは絶句していた。
――――。
――。
到極は思い出していた。
『お前たちか、レイラを襲ったのは』
今なら合点がいく。
レイラとは目の前の少女のこと。
数ヶ月前、少女は何者かに襲われた。
そして、その犯人がまだ捕まってないとしたら。
復讐に燃える月島は、到極たちを犯人と勘違いした。それが到極たちを襲った理由だった。
――。
――――。
藤崎レイラ。
それが目の前にいる少女の名前だった。
年齢は11歳。ふんわりカールした金髪が特徴的な少女だった。
藤崎の言葉で、戦いは中断した。
藤崎が月島に近づき誤解だと説得する。
到極と光も改めて自分が敵ではないと説明した。
そして。
「ほら、ちゃんと「ごめんなさい」しよう」
藤崎が月島に言った。
「あ、あぁ」
月島がバツが悪そうに言った。
到極たちの方を向く月島。
「その、何だ、悪かった。2人とも……」
月島がそう言って頭を下げた。
その隣では藤崎が深々と頭を下げていた。
「本当にすみませんでした」
藤崎が言った。
「頭を上げてください藤崎さん、月島さん」
到極が言った。
「そうですよ。それに月島さんの気持ちも、少しは分かる気がしますし」
光も月島をフォローした。
こうして月島の誤解は解かれた。
もう先ほどまでの殺伐とした雰囲気はなかった。
そんな中。
到極がふと思った。
(あれ、これってもしジャンケンの結果がこの組み合わせじゃなかったら……)
そう、例えば桜と光の2人がペアだった場合。
反撃の手段を持たない2人が月島と遭遇していたら、状況はもっと最悪なものになっていたかも知れない。
そんな事を考え、到極はヒヤっとした。
(今後はランダムにペアを決めるのは辞めた方がいいかもな)
到極はそう思った。
◇ ◇ ◇
別れ際。
「"仮面の男"に気をつけろ」
月島が言った。
「仮面の男?」
到極が聞き返した。
「あぁ、レイラがこの怪我をした場所で見かけた」
それから月島は話してくれた。
数ヶ月前、建築現場から資材が落下し、藤崎が巻き込まれた事。そしてそれが事故として処理された事を。
「あれはただの事故じゃない、アイツに仕組まれたんだ」
(その仮面の男かその仲間だと、僕たちは思われてたってことか。とんだ濡れ衣だったな)
到極が心の中でそう思った。
それから。
(仮面の男……。もしそいつが本当にレイラさんに大怪我を負わせた犯人なら、僕もそいつを許せない!)
到極は静かに拳を握った。
話を終えると到極と光は2人と別れ、巡回へと戻っていった。




