2.王女
シルヴィア=ケツァール=ヴァルデリウス。
それがこの高貴な王女の名前だった。
スタイルの良い金髪碧眼の少女。
年齢は到極と同じか少し高いくらいに見えた。
「貴方たちが今回の護衛ですか」
「はい、到極縁です」
王女シルヴィアの言葉を受けて到極が言った。
到極に続いてティアたちも名乗った。
「詳しいことは中で話しましょう」
シルヴィアが言った。
振り返り、宮殿の中へ進んでいくシルヴィア。
「さぁ、皆さまもこちらへ」
老執事が言った。
宮殿は内部も豪華だった。高い天井、いくつもの彫刻や絵画、メイドや執事が行き交う廊下。
シルヴィアがある部屋の前で足を止めた。
そこは応接間だった。
中に通される到極たち。
老執事の案内はここまでだった。
中には別の若い執事が待っていた。
シルヴィアと5人が席に着く。
若い執事はシルヴィアの後ろに立った。
「改めまして、シルヴィアと申します」
そして。
「――スコーピウス」
王女が後ろの執事に向かって言った。
「はい、シルヴィア様」
執事が返事をした。
「スコーピウスと申します」
到極たち5人に執事が名乗った。
スコーピウス。
それがこの執事の名前だった。
歳は到極やシルヴィア王女より少し上。
10代後半から20代くらいの長身イケメンだった。
スコーピウスが改めて今回の任務の説明を始めた。
期間は10日間。
内容はシルヴィア王女の護衛と町の巡回。
それと演説会場の警備だ。
8日目、シルヴィアは国民の前で演説を行うことになっていた。
「本当に、僕たちでよかったんですか?」
到極が言った。
そのような重要な任務に、チームLが選ばれた事。
到極にはそれが疑問だった。
E.D.OにはLより優秀なチームがいくつもある。
王女なら当然、最上級のチームを雇えたはずだ。
そんな到極の疑問に王女が答える。
「えぇ。だって貴方たちは『巨大な悪の組織』を倒した方たちなのでしょう?」
王女の言葉を聞いて、到極は合点がいった。
2065年7月7日の事だ。
到極たちチームLは『ティアを狙っていた組織』と戦い、そして勝利した。
王女はその実績を重視した、という事らしい。
――。
――――。
話を終え、応接間を出る到極たち。
シルヴィアとは一旦ここで別れた。
廊下を進む5人。自分たちが泊まる部屋を目指していた。荷解きをし、いつもの服に着替え、巡回の任務に向かう。そのためだ。
「私たちの部屋、どんな感じだろうね」
光が言った。
「そりゃ、どーんと豪勢な部屋だろうな」
隼人が言った。
そんな話をしていた時だった。
「――きゃっ!」
厨房から一人の少女が飛び出してきた。
水の入ったコップを数杯、トレーに載せて。
「うわっ!」
到極と少女がぶつかった。
トレーが大きく傾く。コップがひっくり返る。
数杯分の水が到極の服を濡らした。
「わわわ、すみません!」
少女が言った。
「いえ、僕の方こそ」
到極が返した。
「いいえ、私が悪いんです。お洋服もこんなに濡らしてしまって」
そう言って濡れた到極の服を拭き始める少女。
一方、少女の服装は。
黒いワンピースに白いエプロン。
頭にはカチューシャ。
その全体にフリルの装飾が施されていた。
少女はこの王室のメイドだった。
「気にしないでください、ちょうど着替えるところでしたから。はい、これ」
そう言って床に落ちたコップを拾い渡す到極。
「ありがとうございます。本当に、すみませんでした!」
そう言って深々と頭を下げるメイドの少女。
メイドは到極たちが見えなくなるまで、頭を下げ続けていた。
――。
――――。
メイドの少女と別れ、少し進んだところで隼人が口を開いた。
「なんつーか。さすがだよ、到極」
「何のこと?」
聞き返す到極。
「だって異国の王女様だけに留まらず、ドジっ子メイドとまで出会っちゃうんだぜ。ほんとギャルゲー主人公の素質あるよ、お前」
やれやれといった感じで隼人が言った。
「ぎ、ぎゃるげー……」
相変わらずの隼人に苦笑いする到極。
「ほら、馬鹿なこと言ってないで行くよ。任務に遅れるわけにいかないんだから」
そう言って後ろから隼人の肩を掴む光。
「わかった、わかったから押すなってーの」
光に押されながら隼人が言った。
そんなやり取りをしながら5人は部屋に向かった。
◇ ◇ ◇
数時間後。
ヴァルデリア王国の街中。
到極と光は2人で大きな通りを歩いていた。
2人は巡回の任務中だった。
「到極くんと2人って、なんだか珍しいね」
光が言った。
「言われてみればそうだね」
到極が返した。
巡回に出発する前。
部屋を確認し、荷解きした後。
「せっかくだしジャンケンで組分けしようぜ!」
隼人が提案した。
隼人の提案に乗ることになった4人。
「最初はグー、じゃんけんポン!」
そして、ジャンケンの結果。
到極、光の2人。
ティア、桜、隼人の3人に分かれる事になった。
到極と光。
巡回中の2人の雰囲気は和やかなものだった。
反対に。
別の大きな通りでは。
「いやー。両手に花、って奴だな!」
隼人がウキウキしながら言った。
だがご機嫌なのは隼人だけだった。
ティアと桜はどんよりした雰囲気で歩いていた。
(……到極君は今頃どうしているかしら)
(到極さんと同じ班がよかったです……)
ティアと桜が思った。
そして。
「「はぁ……」」
ティアと桜が同時に小さくため息をついた。
その頃、到極と光の2人は。
"何か"に集まる群衆に遭遇していた。
「ちょっとすいません」
「通してください」
到極と光が群衆をかき分け進む。
そして。
2人は何かの正体を見た。
それは"1羽の鳥"だった。
だがただの鳥ではない。
羽根をもがれ、胴体には釘が刺さっていた。
到極の顔が引き攣った。
「ひどい……」
光の口からそんな言葉が漏れた。
悪質なイタズラでは済まされなかった。
勿論、犯罪である。
だが、それだけではなかった。
それはここが『ヴァルデリア王国』だからだ。
この国にとって、鳥は神聖な動物だった。
国民のほとんどが鳥を崇める宗教、バード教を信仰し、国旗や紙幣などあらゆるものに鳥が描かれているこの国。
そんな国で鳥を傷つけるという行為は、国家に対する反逆と疑われかねない重罪だった。
「あぁ、なんということを……!」
群衆の一人、老婆が言った。
「最近多いわよね」
「今月だけでもう3度目だ」
「一体誰がこんなことを」
群衆は口々にそんな話をしていた。
鳥はその後、動物病院へと運ばれていった。
到極は群衆の話から手がかりを掴もうとしたが、事件の核心には迫れなかった。
◇ ◇ ◇
到極と光。
2人が街角を曲がる。
すると、そこには一人の青年が立っていた。
背が高く、冷たい印象の青年。
数メートル離れた位置で2人と青年の目が合う。
青年が静かに言った。
「お前たちか、――レイラを襲ったのは」
この日、到極は思わぬ強敵に遭遇した。




