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異能と青春  作者: 成海由華
もう一人のティア編
75/100

閑話 ティア? とデート

 とある夏の日。

 チームLのシェアハウス。

 そのリビングにはティアと礼夏がいた。


 ティアと礼夏。

 2人の見た目はそっくりだった。


 目も耳も鼻も口も身長もスタイルも。

 髪型まで一緒のため、見た目だけで2人を見分けるのは至難の業だった。


 だが内面、性格や好みは真逆だった。


 無口かつ無表情なティアと喜怒哀楽の激しい礼夏。

 シンプルな服装のティアとこだわりコーデの礼夏。

 流行を気にしないティアと流行を追いかける礼夏。


 2人は瓜二つでありながら、対になる存在でもあった。


「どうしたのよ、そわそわして。あんたらしくない」


 読書中の礼夏がティアに言った。


 いつもは冷静なティア。

 そんなティアが珍しく落ち着かない様子だった。


「これから到極君と出かけるの」


 ティアが言った。

 ティアにとって到極は特別な存在だった。

 そんな相手と、2人きり。

 ティアはそんな状況に緊張していた。


「ふーん。だからか」


 礼夏があいづちを打った。


「光に相談してくる」


 ティアはそう言って光の部屋に向かった。

 今回のこの一大イベント。


 どこに行くか。

 どんな話をするか。

 どんな服を着ていくか。

 相談したいことは山ほどあった。


 ティアが光に相談している間。

 礼夏はティアの部屋を訪れていた。


 礼夏とティアは本の貸し借り等で、よく互いの部屋を行き来していた。

 それは本人が部屋に居ない場合でも関係なく。


 礼夏は借りていた本をティアの部屋に返しに来ていた。本を棚に戻し、立ち去ろうとする礼夏。

 だが。


 ティアのベッドの上。

 そこには一着の白いワンピースが置かれていた。


「よく着れるわね、こんな服……」


 それを見て、礼夏が独り言を言った。

 その横には麦わら帽子も置いてあった。

 礼夏とは真逆のファッションセンスだった。


 だが今日は、何故かその服が気になった。


「…………」


 ワンピースと麦わら帽子を見つめる礼夏。




――――――。


――――。


――。




 数分後。

 そこには白いワンピースと麦わら帽子を身につけた"礼夏"の姿があった。


 ちょっとした好奇心で、礼夏はティアの服を着てみた。姿見で自身の格好を確認する礼夏。


 一瞬、ほんの一瞬だけ有りかもと思った。

 だがすぐに。


(い、いやいや、やっぱおかしいわよこんな格好。こんなのが許されるのは映画とかドラマの中だけなんだから!)


 やはりティアの感覚は私とは合わない、私にこの格好は恥ずかし過ぎる。

 礼夏はそう思った。


 すぐに服を脱ごうとする礼夏。

 だが。


「ティア、準備できた?」


 到極の声だった。


(ま、まずい――!)


 焦る礼夏。


「大丈夫? 開けるよ?」


 そう言って扉を開ける到極。

 到極と礼夏の目が合った。


「っ! あ、あの、これは――」


 この状況の言い訳を必死に探す礼夏。

 だが。


「可愛い、すごく良く似合ってるよ!」


 到極が言った。


「……へっ?」


 礼夏の口から思わず間抜けな声が漏れた。


(う、嘘!? 到極ってこういうのが好きなの? こういうのがいいの?)

(ってか到極、私が"礼夏"だって気付いてない?)


 礼夏が思った。


「じゃあ、そろそろ行こうか」


 到極が言った。


(まずい、早く私は"礼夏"だって言わないと!)


 だが。

 礼夏にとっても、到極は気になる異性だった。


……。

…………。

………………。


 無言で考え込む礼夏。

 そして。


「……そ、そうね。行きましょう」


 礼夏が"ティアの喋り方"で言った。

 礼夏は今日一日、ティアになることにした。


(ごめん、ティア!)


 礼夏が心の中で言った。

 到極と礼夏はそのまま買い物に出発した。

 礼夏の、ティアとしての一日が始まった。




 ◇ ◇ ◇




 到極と礼夏は街中を歩いていた。

 今日の街中はとても人が多かった。


「はぐれたら困るし、手繋ごっか?」


 到極が言った。

 ティアや桜とはよくそうしていた。

 だが。


「――――っ!」


 礼夏は動揺していた。


(は、恥ずかしい……!)

(でも動揺を見せたら怪しまれるし……)


 そして。


「……そ、そうね。繋ぎましょう」


 礼夏がティアの口調で言った。

 2人はまずクレープ屋に立ち寄った。


「はい、ティア。あーん」

「ん…………っ///」


 クレープを買い、食べさせ合う2人。


「口にクリーム付いてるよ、ティア」


 そう言って()()()の口元を拭こうとする到極。


「……じ、自分で拭けるわ///」


 到極に照れながら、ばれないよう奮闘する礼夏。

 そんな2人のデートはこの後も続いた。




 ◇ ◇ ◇




 その後、ショッピングモールを訪れた2人。

 手を繋いで店内を散策していると。


「でも良かったなー」


 ふと、到極が言った。


「……どうしたの?」


 到極の方を向き、礼夏が聞いた。


「今日のティア、いつもより楽しそうだから」


 到極が笑顔で言った。


(嘘でしょ!? これで!?)

(あの子、普段どんだけ無表情なのよ)


「ティアが楽しそうだと、僕まで嬉しい気持ちになるよ」


(縁くん、すごく嬉しそう)

(でも、だからこそ、やっぱり悪いよね。こんな事……)


(よし。もう辞めよう。言おう、私は"礼夏"だって)


「あのね、到極君。実は……」


 だが、そんな時だった。


――バーン! と。


 突如、銃声が鳴った。


「な、何!?」


 慌てて音のした方を見る2人。


 そこには一人の男がいた。

 異能銃を天井に向けて発砲したようだった。


 異能銃。

 異能を弾丸にして撃ち出すこの時代の銃器だ。

 男から逃げるように、客が一斉に走り出した。


「動くな! 動いたら撃つ!」


 男はそう言ってもう一度発砲した。

 男の死角に隠れる到極と礼夏。


(被害が大きくなる前になんとかしないと)


 銃は、ほとんどの異能者にとって脅威だ。

 それは到極とて例外ではない。

 いくら異能で身体を強化できるといっても、さすがに銃撃を耐えられるほどではなかった。


(銃弾を躱すことなら出来るだろうか?)


 到極の場合、肉体だけでなく五感も強化されている。

 銃弾を耐える防御力はなくても、回避できる可能性ならあるかも知れない。到極はそう考えた。


「ティア、隠れてて」


 到極が小声で言った。

 そして物陰から姿を現し、一気に走り出した。


「ちょ、待っ――」


 礼夏のそんな言葉は、到極の風圧と気迫にかき消されていた。


「うおおおおーっ!」


 一気に距離を詰める到極。

 そんな到極に向かって、男が銃口を向ける。


(馬鹿め。そんなレベルじゃ弾丸の方が全然速えっつーの!)


 対して。


(くっ、間に合わない!?)


 到極が思った。

 だが、その時。


――ピュン、と。


 紫色の光線が、男の銃を撃った。

 礼夏の異能だった。


「ぐああああーっ!」


 光線の当たった銃と右手の一部が消失した。

 叫びながら出血した右手を押さえる男。


「え?」


 到極が()()()の方を見る。

 そこではティアが礼夏の異能を発動していた。

 一瞬困惑する到極、だが。


「【第三艤装】爆拳(バグパンチ)!」


 すぐ気を取り直し、必殺の一撃を打ち出した。


「ぐ、ぐわああああーっ!」


 叫び声と共に、男は勢いよく吹き飛んだ。




 数分後。

 警察が到着し、男は警官に逮捕された。


 そこから少し離れたところで到極とティア、いや礼夏が向き合っていた。


「礼夏、だったんだね」


 到極が言った。


「……うん。騙しててごめん」


 礼夏が言った。


「その、何ていうか、気付かなかった僕も悪いというか。こっちこそ、ごめん」


 到極が言った。

 2人の間に気まずい沈黙が流れる。


「でもさ――」


 そんな沈黙を打破しようと到極が口を開いた。


「――少しの時間だったけど、礼夏と一緒に過ごせた時間、すごく楽しかったよ」


 到極が笑顔で言った。

 そう言ってもらえて、礼夏も少し安心した。


「帰ろうか」

「うん」


 その帰り道。


『礼夏と一緒に過ごせて、すごく楽しかったよ』


 礼夏の脳内では到極の言葉が反響していた。

 礼夏の顔はしばらく紅潮しっぱなしだった。




 ◇ ◇ ◇




 シェアハウスの玄関。


「ただいまー」


 到極と礼夏が帰宅した。

 すると。


「……おそい、2人とも」


 そう言ったのは廊下に無表情で立つティアだった。

 珍しくすぐに感情が分かった。


((絶対怒ってる!))


 到極と礼夏が思った。


 約束をすっぽかされ、半日待ちぼうけ。

 ティアが怒るのは当然のことだった。


 ティアの後ろから桜が手を合わせ、申し訳なさそうに到極たちを見つめていた。

 おそらく色々と説得してくれていたらしい。


(迷惑かけたみたいだな、桜にも……)


 到極がそう思った。


「ティア、これは違うのよ、その……」


 礼夏が焦った素振りで言った。


「礼夏は黙ってて」


 そんな礼夏に対して冷たく告げるティア。


「は、はい!」


 礼夏が返事した。

 初めて見るティアと礼夏だった。


「ごめん、ティア」


 到極が言った。


「……到極くん、わたしは到極くんがこんな酷いことをするような人じゃないって思ってる。だから、訳があるなら正直に話してほしい」


 ティアがくれた慈悲。最後の弁明の機会。

 それに応えるため到極が口を開く。


「実は――」


 そんな時だった。

 フラっ、と到極の横で何かが揺らめいた。


 礼夏だった。

 倒れそうになる礼夏を咄嗟に支える到極。


「おっと」

「あ、ありがと」


 異能を使った疲れが足に来たようだった。

 幸い、大したことは無さそうで安心する到極。


 だがそれは。

 はたから見ると2人が急に抱き合い、微笑み合ったように見えた。


「……そう。それが答えなのね」


 ティアが言った。


「あ、いやこれは違くて」


「……問答無用」


 次の瞬間、2人の頭上に巨大な異能の拳が出現した。

 ティアの鉄拳が、2人に炸裂した。











※この後、2人は滅茶苦茶謝って許してもらった。




 ◇ ◇ ◇




 海野礼夏。

 彼女が髪を伸ばし始めたのは、この日からだった。ティアと話し合い、見た目で区別できる目印をつくることに決めたのだ。


 ティアはショートヘアー。

 礼夏はロングヘアー。


 当分の間、2人はこれでいくことにした。

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