8.姉妹
数日後。
海野家のダイニング。
「さぁティアちゃん、たくさん食べて。おかわりもあるわよ」
海野母が言った。
食卓には大量のご馳走が並んでいた。
今日は家族4人揃って初めての食事だった。
「……ありがとう、ございます」
ティアが海野母にお礼を言った。
あれから数日、ティアの身体も回復していた。
だが、どこかぎこちない喋り方だった。
そんなティアに向かって。
「もっと他の言い方はないわけ? 家族なんだけど、私たち」
礼夏が言った。
それを受けて。
「……ありがとう、お母さん」
ティアが言った。
うんうん、と頷く礼夏。
海野母も嬉しそうだった。
「それじゃあ、いただきましょうか」
母の言葉を受けて、手を合わせるティアと礼夏。
「「いただきます!」」
――。
――――。
30分後。
ご馳走が乗っていた皿は、ほとんどが空になっていた。
そんな中。
「……ここは妹である私に譲るべき」
「あんたこそ、もっとお姉ちゃんを敬いなさいっ」
一つだけ残っていたクリームコロッケをめぐって。
ティアと礼夏が火花を散らしていた。
「喧嘩するほど仲がいいって言うけど」
「ほどほどにね、2人とも」
両親が2人に言った。
ところで、と海野母が話し始めた。
「今回は随分とあの子に助けられたわね」
あの子とは到極のことだ。
「そうだな、彼にはいつかお礼をしないとな」
海野父が言った。
「……わたしもお父さんの意見に賛成です。次の食事の時に到極君を呼ぶのはどうでしょう」
「あらティアちゃん積極的ね、ティアちゃんは到極くんのことが大好きなのね」
ティアの言葉に海野母が言った。
「到極君は私の大切な人ですから」
好きの意味をlikeと解釈し、淡々と答えるティア。
「礼夏はどう?」
「何が?」
「到極くんのこと」
今度は海野母が礼夏に聞いた。
「べ、別に!」
「……礼夏も好きなのではないの? 到極君のこと」
ティアが淡々とした口調で言った。
「は、はぁ! なに言ってんのよ!」
「……違うの?」
「だ、誰があんな奴のことなんか!」
「……そう。ここ最近、口を開けば到極君の話ばかりしているから」
「そ、それは……っ!」
真っ赤に染まる礼夏の顔。
言葉に詰まる礼夏。
その様子を微笑ましく見つめる海野母。
礼夏がそれ以上答えなくても、もう答えは明らかだった。
4人での食事を通して、海野家も少しだけ前に進めたのかも知れなかった。
◇ ◇ ◇
とある建物。
その中は薄暗かった。
戸棚にはたくさんの実験器具や薬品が並んでいた。
「まだだ、まだ終わってない」
本部の研究者だった男、湯神が言った。
ここは湯神の隠れ家だった。
水槽を見つめる湯神。
水槽の中には"オーガの元"が浮かんでいた。
「次こそは君たちを外に出してあげるからね」
湯神が生み出した新しい生命体。
それに向かってうっとりした表情で湯神が言った。
湯神狂介。
新しい生命の創造に没頭する青年。
誰にも知られる事なく、湯神の研究はひっそりと続いた。
◇ ◇ ◇
翌日。
チームLのシェアハウス。
「うわあ! 何だこの荷物!」
玄関に置かれた大量の荷物。
それらを見て到極が言った。
「何って私のよ、私の」
そう言って荷物の陰から姿を現す礼夏。
「私、今日からここに住むことになったから」
平然と礼夏が言った。
「――っ!?」
驚きを隠せない到極。
「礼夏、両親と一緒に住むんじゃないの?」
到極が聞いた。
「別にそういうわけじゃないけど?」
「それじゃあ、僕の説得は一体……」
礼夏の選択に少しショックを受ける到極。
「安心しなさい。私もティアもそれなりに帰るから」
そう言って到極を慰める礼夏。
そう。今度は両親に内緒の別れではなかった。
今回の件は両親も認めてくれていた。
それを聞いて少し安心する到極。
礼夏の荷ほどきを手伝うティアと到極。
到極が荷物を運んでいる隙に、礼夏とティアが話していた。
「その、この間の話だけど」
「……何のこと?」
「あんたが到極にいつも助けられてばっかりって話」
「……」
「あいつ言ってたわよ。「僕はいつもティアに助けてもらってる」って。気付いてないだけでお互い様なんじゃない、あんたたち。だから、あまり気にしなくていいんじゃない?」
「……わざわざ聞いてくれたの?」
「べ、別に! この間たまたま話の流れでそうなっただけよ!」
礼夏が顔を赤らめて言った。
その様子を到極は不思議そうに見ていた。
荷ほどきがひと段落した頃。
リビングで礼夏が言った。
「というわけで。これからよろしくね、縁!」
満面の笑みで言う礼夏。
チームLにとって9人目のメンバー。
6人目の同居人。
それは海野礼夏。
ティアの双子の姉だった。
シェアハウスが一段と騒がしくなりそうな気がした。
【第8章 もう一人のティア編 完】




