7.新しい生命
その頃、ティアは。
E.D.O本部の廊下にいた。
1週間ほど前から、ティアはいくつもの病院を受診していた。
謎の症状の原因を明らかにする為だ。
もちろん到極には内緒だった。
最近、到極の誘いを断りがちだったのはこれが理由だった。
だがどれだけ検査しても、原因は明らかにならなかった。
現在ティアは桜と光に付き添われながら、本部の廊下を歩いていた。
E.D.O本部ならば、ティアを治療できる異能者や研究者がいるかも知れないからだ。
こうなった原因は何なのか、考えるティア。
だがその答えにたどり着く前に。
「うぐっ……」
ティアはその場に座り込んだ。
身体の限界が近づいていた。
「ど、どうしましょう!?」
「とにかく人を呼んでくるわ!」
混乱する桜に光が言った。
走り出そうとする光。
だが、その時。
カツ、カツ、カツ、と。
3人の元に足音が近づいて来た。
「ティア、探したよ」
足音の主は湯神だった。
「湯神さん大変なんです、ティアが!」
光が言った。
だが次に湯神が口にした言葉は意外なものだった。
「――順調みたいだね」
「え?」
ティア、桜、光の3人が一瞬困惑した。
◇ ◇ ◇
「もうすぐだね。もうすぐ生まれるんだ、新しい生命が――」
湯神が言った。
《純白生物》。
それは湯神の造った新しい生命体だった。
人の体内で異能の力を吸収しながら、それを栄養に成長するらしい。
4月、湯神はこの"新しい生命の種"をティアの身体に植えつけた。
そして新しい生命体が誕生するこの日をずっと心待ちにしていた。
この生命体、通称《オーガ》は溶けた状態で身体の中に広がっている。
そして栄養を充分に蓄えたタイミングで宿主の身体を飛び出し、誕生する。
宿主の異能、生命力を喰らい尽くして。
今まさに、オーガは誕生の段階に入っていた。
「――という事なんだ」
湯神が3人に説明した。
「そんな……」
ティアが言った。
ティアの心が悲しみで染まる。
自身の体内にオーガが存在している事を知ったから、だけではない。
信じていた湯神に裏切られたからだ。
ティアの身体を支える桜と光。
ぐったりとしているティア。
2人とも心配そうにティアを見つめていた。
「とにかく、何とかしないと」
光が言った。
桜もそれに頷いた。
「無駄だよ、君たちにはどうすることも出来ない」
湯神が言った。
そう言われ、湯神を睨む桜と光。
「うぐっ、がああああ!」
ティアが再び苦しみだした。
ティアの顔に汗がにじむ。
「いいぞ。もうすぐ、あと少しだ!」
ティアと対照的に湯神は嬉しそうだった。
ティアの身体に溶けていたオーガが、光となって身体を抜け出し一つに集まっていく。
異能の力、生命力を吸収しながら。
ティアから少し離れた所。
オーガが徐々に実体化していく。
これが完了した時、ティアの身体は限界を迎える。
「がああああっ!」
叫び声をあげるティア。
ティアの限界が近づいていた。
だが、そんな時だった。
――――ヒュン、と。
オーガを紫色の光線が撃った。
ティアの身体から苦しみが消えた。
オーガは一瞬でその姿を消した。
「オーガが、消えた?」
湯神と3人が視線を移す。
そこには。
ティアそっくりの美少女がいた。
海野礼夏だった。
「何をした!?」
湯神が言った。
「私の異能でオーガとやらを消し飛ばしたのよ」
「物体を消し去る異能か、何という事を!」
礼夏の言葉に湯神が声を荒げた。
「ま、到極のおかげなんだけどね」
そう言って人を招く礼夏。
廊下の向こうから一人の少年が姿を現した。
「到極縁……!」
食いしばるように言う湯神。
あの後、ティアの不調に湯神が絡んでいると思いついた到極。
礼夏と共に本部に来ていた。
「なぜだ、到極君。君は私の研究をあんなに熱心に聞いてくれたじゃないか」
湯神が続ける。
「オーガの生成に成功すれば、これからの人類にとってとても価値のあるものになったというのに。未来の何十億という人類を救える研究だったというのに!」
湯神のそんな言葉に。
「例え未来の人類の為だとしても、それが今生きてる人間を犠牲にしていい理由にはならない」
到極が言い切った。
到極がティアの方を見る。
桜と光に寄りかかる、ぐったりした様子のティア。
それを見て、到極が拳を握る。
そして走り出す。
湯神との距離が一瞬で縮まる。
到極が湯神を射程に捉えた。
「おりゃあー!」
到極の拳が湯神の顔面を撃つ。
湯神は吹き飛び、廊下の突き当たりにぶつかった。
「ティア、大丈夫!?」
到極がティアに駆け寄って言った。
「ごめんなさい。私は、また到極君に助けてもらった」
また迷惑をかけてしまった事を謝るティア。
「そんな事はいいんだ。それより身体は大丈夫?」
そんな事など全然気にしていない様子の到極。
「えぇ、痛みは完全に消えたわ。ありがとう到極君」
「どういたしまして」
ティアの言葉に到極が返した。
「礼夏も、ありがとう」
ティアが礼夏の目を見て言った。
「べ、別に!」
礼夏が目を逸らして言った。
そっけない様に振る舞ったつもりだった。
だがその頬は軽く紅色に染まっていた。
そんな様子を到極は微笑ましく見守っていた。
◇ ◇ ◇
気がつくと廊下の奥に湯神の姿はなかった。
どうやら逃げたらしい。
だが彼の本性がバレた今、捕まるのは時間の問題といえた。
研究室は封鎖され、湯神は警察から追われる身となった。




