5.異変
到極の背後に忍び寄る男。
男は手に鉄の棒を持っていた。
男が棒を振り上げる。
勢いよく、男が棒を振り下ろした。
「――っ!」
間一髪、到極が気づいた。
身体を捻る到極。
だが完全には避けきれなかった。
棒は到極の左肩に直撃した。
「ぐうっ……!」
到極の口から声が漏れる。
追撃するべく、また棒を振るう男。
振り返り、追撃をかわす到極。
後方に大きく飛んで、一度距離をとる。
男の正体は軍馬だった。
「なんだよ、あの写真」
到極が言った。
「見てしまったんだな。だったら、このまま帰すわけにはいかないな!」
そう言って、軍馬が迫る。
軍馬が鉄の棒を振り回す。
軍馬の攻撃をかわしながら、隙を探す到極。
「今だ、おりゃあ!」
軍馬の動きの隙を突いて、到極が一撃を入れた。
吹き飛ばされ、軍馬は壁にぶつかった。
急いで部屋の奥に向かう到極。
一つ、明かりの点いた部屋を発見した。
中を覗く到極。
その部屋の中央に配置されたベッド。
ティアはそこに眠っていた。
ティアの近くには背の高い男、籠島がいた。
意を決して部屋に飛び込もうとする到極。
だが、その瞬間。
バチッ! という大きな音が鳴った。
その音と共に、到極の身体に衝撃が走った。
「がはっ!」
到極の後ろ、そこには軍馬がいた。
その手にはスタンガンのような物が握られていた。
全身の力が抜け、到極はその場に倒れた。
「ふぅ。こいつ、どうする」
軍馬が言った。
「閉じ込めておけ。記憶は後で消去すればいい」
籠島が言った。
「そうだな」
その言葉を受けて、軍馬が到極を運ぶ。
普段、実験で使っている設備の前までやってきた軍馬。
それは鉄で出来た箱のような設備だった。
その中に到極を入れる軍馬。
そして分厚い鉄の扉を閉じた。
籠島の元に戻る軍馬。
「じゃ、早く済ませちゃおうぜ」
「あぁ」
だが、そんな会話をした時だった。
ガシャン、ガシャン、ガシャン!
という金属音がラボに鳴り響いた。
「な、何だ!」
慌てて音のする方へ向かう軍馬と籠島。
実験で使う設備、鉄の箱の前。
「嘘、だろ」
2人が驚愕した。
2人の視線の先で、鉄の箱が歪んでいた。
「中で到極が暴れているのか」
「馬鹿な、アイツは気を失っているはずだ」
動揺する2人。
「扉をこじ開けようとしているのか」
「あの分厚さだぞ、破壊できるはずがない!」
だが、その予想とは反対に。
分厚い鉄の扉は引きちぎられた。
中から到極が姿を現す。
「何だ、この姿は」
その姿は先ほどまでとは大きく違った。
紅い眼、不気味なオーラ、野生的な雰囲気。
到極の異能が暴走していた。
ギロッ! と2人の方を見る到極。
「ひぃ!」
恐怖に怯える2人。
そんな2人に、到極が飛びかかった。
そこから先のことを、到極はよく憶えていない。
気がついた時にはもう勝負はついていた。
到極の目の前には軍馬と籠島が倒れていた。
異能における最強の力《昇華》。
その片鱗。
6月に桜を助けた時と同じものだった。
《昇華》。
その力の全貌は、まだ未知数だった。
◇ ◇ ◇
「大変だったみたいね、この間は」
礼夏が言った。
あれから数日後。
ティアと礼夏が公園で会っていた。
話題は本部で起きた事件のことだった。
軍馬と籠島による事件。
あの後、2人は駆けつけた職員によって取り押さえられた。
現在は逮捕され、取り調べを受けている。
写真は売り捌く予定だったらしい。
「もちろん撮影されたことは辛いでしょうけど、それでも貴女の身体に何もなくて……本当によかった」
「心配、してくれるのね」
礼夏の言葉にティアが言った。
「当たり前でしょ、姉妹なんだから」
礼夏が顔を赤らめながら言った。
――。
――――。
「また、到極君に助けられた」
ティアがぼそっと言った。
「到極君は私を何度も助けてくれる。でも私は到極君にその半分も返せていない、助けられてばかり……」
ティアが下を向く。
ティアは思い出していた。
到極と出会ってから今までの事を。
その思い出を礼夏に話している時だった。
「けほっ、けほっ」
ティアが咳き込んだ。
口元を手で隠すティア。
「ちょっと大丈夫?」
そう言ってティアの背中をさする礼夏。
口元を覆っていた手を離すティア。
「あんた、それ……!」
礼夏が言った。
ティアの手。
先ほどまで口を覆っていた手。
その手には血が付いていた。
ティアは吐血していた。
「何よそれ!」
礼夏が言った。
「大丈夫、私は大丈夫だから」
「そんなわけないでしょ! 早く病院に行くわよ」
ティアの言葉を拒否し、病院に連れて行こうとする礼夏。
そんな礼夏の手を掴み、ティアが言う。
「この事、到極君には伝えないでほしい」
これ以上到極に迷惑をかけたくない。
ティアはそう思っていた。
「馬鹿、こんな時に何言ってんのよ!」
「……お願い」
礼夏の目を見つめるティア。
「くっ、分かったわよ。だから早く行きましょう」
ティアの望みを聞き入れる礼夏。
「……ありがとう、礼夏」
ティアが言った。
病院ではなく本部の医務室がいいと伝えるティア。
その言葉を聞き、礼夏はティアを連れて本部へ向かった。




