3.ティアの過去
海野家。
そこは庭付きの一軒家だった。
その家をティアが見上げていた。
「ティアってお嬢様だったのかな」
ティアの隣で、到極が言った。
礼夏から教えられた住所。
ティアはその場所を訪れていた。
ティアに頼まれ、到極も付き添いで来ていた。
インターホンを押し、名を名乗るティア。
いよいよ、ティアが家族と再会できる。
到極とティアが出会う直前。
ティアは『ティアを狙っていた組織』によって囚われていた。
その期間、およそ1年。
だが、それよりも前。
どこで生まれ、どんな人生を歩んできたか。
ティアの過去の大部分は、まだ謎のままだった。
それが今日、判明する。
ティアも到極も、不思議な気持ちだった。
――扉が開いた。
「おじゃまします」
「お、おじゃまします」
そう言って玄関に入るティア。
ティアの後を追って到極も入る。
玄関。その一段高い所から、一組の夫婦がティアを見下ろしていた。
ティアの両親だった。
両親の目には涙が浮かんでいた。
「――――っ!! 夏恋、夏恋っ!」
女性が堪らずティアに抱きついた。
そしてそのまま大声で泣いた。
ティア、そして海野夏恋の母だった。
その後ろでは父親も涙を流していた。
「おかえり、夏恋」
父親が優しく言った。
そんな父の言葉に応えるように。
「ただいま」
ティアが2人にそう言った。
◇ ◇ ◇
海野家のリビング。
ティアと到極、海野母と海野父。
現在4人はテーブルを挟んで、向かい合わせで座っていた。
「夏恋、お腹すいてない? なんでも言って! あなたの食べたい物、何でも作るから!」
海野母がティアに言った。
「ママ。この子は夏恋だけど今は"ティアさん"だって、礼夏が言ってたじゃないか」
海野父が母に言った。
ティアがこの家に来る前に。
両親への説明は礼夏がすでに行ってくれていた。
4月からE.D.Oに所属している事。
今は海野夏恋でなく"ティア"として生きている事。
などなど。
「ティアさんとは初対面なんだから。そんな勢いで喋ったら、彼女が困ってしまうよ」
海野父がティアを気遣って言った。
「そう……でしたね。ごめんなさい、ティアさん。嫌だったかしら」
「いえ、気にしないでください」
海野母の言葉にティアが答えた。
それから。
ティアと両親は積もる話をした。
――。
――――。
話の中で。
ティアは自分が聞きたかった事を聞いた。
「私は何歳までお二人と暮らしていたんですか?」
ティアが聞いた。
「9歳までだよ」
父が答えた。
「私はどんな娘でしたか?」
という質問には。
「優しくて、元気で、かわいくて、勉強も出来て。それからそれから――」
そう、母が答えた。
母の言葉は中々止まらなかった。
(よかった。愛されてたんだな、ティアは)
両親の話を聞きながら、到極が思った。
「私はなぜ、お二人と離れ離れになったんですか。9歳の時、私に何があったんですか?」
ティアがその質問をした時だった。
部屋の空気が変わった。
複雑な顔をする両親。
「到極君、少し席を外してくれるかな。3人だけで話したいんだ」
海野父が言った。
「は、はい」
そう言って到極が立ち上がる。
すると。
「……行かないで」
ティアが到極の手を掴んで言った。
「で、でも」
困る到極。
「しょうがないわ。彼にも聞いてもらいましょう」
海野母が言った。
父もそれに納得した。
そして両親が話し始めた。
「あれは不幸な事故だったんだ――」
と。
◇ ◇ ◇
5年前。
海野家。
両親の外出中の出来事だった。
この日、礼夏と夏恋は些細なことで喧嘩をした。
言い争う2人。
喧嘩は激化し、つかみ合いにまで発展した。
そして遂に、2人は異能を発動した。
礼夏と夏恋の異能がぶつかる。
異能が部屋を破壊していく。
その時だった。
異能が暴走したのは。
異能は激しい感情がきっかけで暴走することがあった。
礼夏の異能。
アーク名 抹消する者。
物体を消し飛ばす力。
その力は暴走すると、物体以外も消し飛ばしてしまうらしい。
(妹なんて――夏恋なんていなくなればいい)
つかみ合いの中で、礼夏は一瞬そう思った。
そんな一時の感情を、異能は叶えてしまった。
その日。
――夏恋から夏恋らしさが消えた。
思い出も、記憶も、性格も、人格も。
海野夏恋としてのすべてが消えた。
両親が帰宅した時、室内は荒れ果てていた。
壁は破れ、床には穴が開き、硝子は散乱していた。
礼夏と夏恋はその奥にいた。
2人とも怪我をしていた。
夏恋は倒れ、礼夏は茫然としていた。
すぐに病院に連れて行った。
幸い、怪我は治った。
だが、夏恋の記憶だけは戻らなかった。
それから、夏恋は入院した。
記憶に関する治療やリハビリを行うためだ。
だが、そんなある日。
――夏恋は何者かに誘拐された。
それが両親と夏恋との別れだった。
両親が知っているのはそこまでだった。
◇ ◇ ◇
両親の話を聞き終えた2人。
静まり返るリビング。
そんな時だった。
ガタッ、と。
階段の方で物音がした。
「礼夏、礼夏も降りてきて一緒に話さないか」
海野父が言った。
その言葉を聞いて、階段の方を見る到極。
階段の上の方に礼夏がいた。
だが。
廊下を走る音、そして扉を閉める音が聞こえた。
礼夏が自分の部屋に閉じこもった。
「まだ再会したばかりだもの。ゆっくりでいいわよ。時間はたくさんあるんだから」
「そうだな」
礼夏について言葉を交わす両親。
その後も、積もる話は続いた。
その中には両親から到極への感謝の言葉もあった。
両親とティアの話は、帰る時間まで続いた。




