6.希望
《エントランス》。
彼女がそう呼ばれたのは、物心ついてすぐだった。
二重異能者。
世にも珍しい、2つの異能を使える者。
そんな彼女を欲しがる者たちは多かった。
最終的に彼女を手に入れたのは軍だった。
それ以来、彼女は兵器として育てられた。
牢獄のような部屋で暮らし。
異能に関する人体実験と過酷な訓練の毎日。
彼女は暗い闇の中にいた。
そんな彼女に、一筋の光が射した。
到極縁。
彼女が初めて会うタイプの人間だった。
彼女の心は、到極とグラーズの間で揺れていた。
そして。
彼女のもう一つの異能は暴走した。
◇ ◇ ◇
北斗七星学園。
その廊下では。
到極とミラが穴に吸い込まれそうになっていた。
壁や床に捕まり、必死に耐える2人。
それはグラーズも同じだった。
「エントランス! 異能を解除しろ、早く!」
グラーズが叫んだ。
だがその声はエントランスには届かなかった。
棒立ちのまま、異能を発動し続けるエントランス。
今の彼女に周囲の声は聞こえていなかった。
「まずい……、うわっ!」
「きゃああああ!」
遂に腕に限界が来た2人。
手が離れ、穴に飲み込まれていく。
だが、その寸前で。
「間に合ったぁ」
光が言った。
間一髪、光とティアが駆けつけた。
光が異能で壁を作り、到極を守る。
ティアが異能で手を作り、ミラを掴んだ。
2人と違い、捕まるものがないグラーズ。
どんどん穴に吸い寄せられていく。
遂にその身体が穴に入りかける。
「エントランス! おい、エントランス――っ!!」
グラーズがありったけの大声で叫んだ。
その声が遂に彼女に届いた。
暴走が止まり、気を失うエントランス。
エントランスがその場に倒れた。
だが急に異能が解除されたことで。
穴が急速に閉じ始めた。
「何っ」
グラーズが気づいた時にはもう遅かった。
縮んでいく穴に巻き込まれるグラーズの利き腕。
そして。
穴が完全に消えた時。
グラーズの右肩から先はもう無かった。
床には血溜まりができていた。
「があああああーっ!」
言葉にならない悲鳴を上げるグラーズ。
光とミラが思わず目を覆った。
その瞬間、到極が駆け出した。
一瞬でグラーズの元に詰め寄る到極。
そして。
「――爆拳っ!」
到極が二度目の必殺技を放った。
吹き飛ぶグラーズ。
今度こそ、グラーズは意識を失った。
戦闘不能だ。
その直後、到極も倒れた。
二度の必殺技を放ち、到極も限界だった。
血に濡れた学園の廊下。
倒れた3人の男女。
その光景をミラ、光、ティアが茫然と見ていた。
◇ ◇ ◇
数日後。
あの後グラーズは病院に運ばれた。
回復を待って逮捕されるらしい。
グラーズの襲撃の目的。
それが判明するのはもう少し先になりそうだった。
そしてエントランスは保護された。
現在はE.D.O本部で検査等を受けている。
そんな彼女の様子を見に、到極は本部を訪れていた。
E.D.O本部。
とある検査室。
「こんにちは《エントランス》、調子はどう?」
到極が言った。
「身体は問題ない。ただ、ここは"あっち"にいた時とあまり変わらない」
エントランスが言った。
「そっか……」
エントランスの検査が全て終了するのは数ヶ月後の予定だった。
そしてその間、エントランスは外出を制限されていた。
他国の軍が極秘に管理していた異能者とあって、検査は念入りに行われていた。
(仕方のないことかも知れないけど、やっぱり心苦しいな)
静かに拳を握りしめる到極。
「少しでも早く自由に過ごせるように、僕からも言っておくから」
到極が言った。
到極一人が何を言ったところで、本部の方針が変わるわけではない。
それでも悲しむ彼女に、何か言ってあげたかった。
「そう、ありがと……」
そんな到極の思いなど見透かしているかのように、エントランスが呟いた。
――。
――――。
「じゃあ、また来るから」
「うん、待ってる」
そう言って部屋を出る到極。
少し歩いたところで、到極はティア、光と遭遇した。
◇ ◇ ◇
とある国家、そのA。
その軍の基地内。
ある男が一人、モニターの前に立っていた。
グラーズが連絡をとっていた相手だった。
「グラーズを倒すとは、中々やるじゃないか」
そう言いながらも、男は余裕そうだった。
「《赤い空への招待》。その完全な"覚醒"の日は近い」
そう言って、男は不敵に笑った。
◇ ◇ ◇
E.D.O本部。
その廊下。
到極、ティア、光の3人が歩いていると。
向こうからも3人組が歩いてきた。
到極はその内の一人に見覚えがあった。
「あーっ!」
到極が驚きの声を上げた。
美しい銀髪。
ゴシックロリータの様な服装。
ミラージュ=シルバー=ウィークだった。
到極とミラ。
2人が今日、思わぬ形で再会した。
「到極くんもE.D.O所属の異能者だったんだね」
ミラが言った。
「うん、チームL。ミラさんも?」
到極が聞いた。
ミラが答える。
「うん、――チームG」
ミラの言葉に到極が再び驚いた。
チームGといえば。
到極たちよりも階級が5つも上の強豪だった。
(チームG、だからあんなに強かったんだ)
到極が先日の戦いを振り返って思った。
「これからもよろしくね、到極くん」
「うん、よろしく」
ミラの言葉に到極が返した。
すると。
ミラが到極に顔を近づけてきた。
そして。
「到極くんの"アレ"、また飲みたいなー」
到極の耳元でミラがささやいた。
「とっても美味しくて、私、クセになっちゃったぁ」
甘ったるい声で続けるミラ。
「ミラさん。もしかして最近、あんまり血吸えてない?」
到極が聞いた。
その言葉で我に返るミラ。
「うん。もしかして、また"出ちゃってた"?」
ミラが到極に確認した。
到極がそれに頷いた。
血が足りなくなると現れる、吸血鬼としての本能。
知らぬ間にそれが出ていたことを反省するミラ。
ミラが到極から離れる。
適切な距離で、ミラが言う。
「またね、到極くん。後ろの2人も」
「うん、またね」
その言葉に到極が返した。
ミラたちチームGの3人を見送る到極。
ミラたちが去った所で。
「到極くん、さっきは何を話してたの?」
ティアと光が聞いてきた。
「な、何でもないよ」
必死にはぐらかす到極。
そんな到極を不思議そうに見つめる2人。
ミラの加わった日常。
それは少し波乱の予感がした。
【第10章 吸血鬼少女編 完】




