5.決戦
とある物陰。
到極とミラはそこに隠れていた。
地面に座る到極にミラが言う。
「どう、そろそろ歩けそう?」
「うん、もう大丈夫。ありがとうミラさん」
そう言って立ち上がる到極。
ミラに肩を貸してもらいながら、到極が再び歩き出した。
少し歩いた所で、到極が後ろを確認した。
グラーズの姿はなかった。
「逃げ切れた、みたいだな」
そうつぶやきながら前を向く到極。
だがそんな到極を死角から一撃が襲った。
「ぐあっ!」
吹き飛ばされる到極。
到極が地面に転がった。
起き上がり、辺りを見回す到極。
大きな建物と広い土地。
そこは学校だった。
北斗七星学園。
到極はその敷地内に飛ばされていた。
到極が先ほどまで歩いていた場所を見る。
学園の前の歩道。
そこにはグラーズがいた。
「どうして、撒いたはずじゃ……」
唖然とする到極。
(とにかくここで戦うのはマズい)
夏休みとはいえ学園内には何人もの生徒がいた。
生徒たちを巻き込まないよう、学園の敷地を出ようとする到極。
だがそんな到極にグラーズが迫る。
グラーズの蹴りが到極を襲った。
「ぐあっ!」
蹴り飛ばされる到極。
ミラも異能を発動する。
グラーズに飛びかかるミラ。
だが返り討ちに遭い、学園側に投げ飛ばされた。
到極の思いとは裏腹に。
戦いの場がどんどん校舎に近づいていく。
そして遂に。
「ぐわあああー!」
グラーズの追撃が到極を捉えた。
勢いよく吹き飛ぶ到極。
そして。
到極が校舎の窓ガラスを突き破った。
到極はそのまま校内に転がった。
到極を追って、グラーズが校内に侵入する。
「きゃー!」
「助けてー!」
部活や補習で来ていた生徒たちが逃げ出した。
向かい合う到極とグラーズ。
到極の身体にはいくつもの切り傷ができていた。
到極がグラーズに向かって走る。
拳を振るう到極。
それをいなすグラーズ。
そして隙を見て。
グラーズが到極の首や関節を狙った。
「――――っ!」
慌てて距離をとる到極。
(コイツ、やっぱり今までの敵と違う)
そして到極は気づいた、この男の特異性に。
(コイツは、人を殺す術を知っている!)
到極が今まで戦ってきた相手。
そのほとんどは学生や社会人だった。
異能を持っている以外は普通の人間だった。
だが、この男は違う。
特別な訓練を受け、命の奪い方を習得している。
そのことに、戦って気づいた。
(勝てるのか、僕は。戦闘のプロに……)
今まで戦ったことのない相手に警戒する到極。
到極の身体がこわばる。
そんな到極にゆっくりと向かってくるグラーズ。
だがそんなグラーズに、何かが激突した。
ミラだった。
ミラが翼で加速し、外から飛び込んできたのだ。
廊下に倒れるミラとグラーズ。
ミラに駆け寄ろうとする到極。
だがそのゆく手を一人の少女が阻んだ。
エントランスだ。
エントランスが到極に飛びかかる。
彼女の拳や蹴りを受け止め、いなす到極。
グラーズほどではないが、彼女も訓練された戦い方だった。
(このままじゃミラさんに近づけない)
到極が足止めをくっている間に。
ミラとグラーズは立ち上がっていた。
2人の戦闘が始まった。
「ミラさん気をつけて!」
到極が叫んだ。
その声を受けて、ミラが異能の力を全開する。
翼だけじゃない。
眼は紅く、爪や牙は鋭く。
戦闘能力も格段に上がっていた。
空中を舞いながら、ミラがグラーズを攻撃する。
対するグラーズもナイフを取り出し応戦した。
ミラとグラーズ。
2人の戦いは互角だった。
(強い! ミラさんってこんなに強かったんだ)
ミラがグラーズを引き受けている間に。
到極はエントランスの相手をする。
「僕は君と戦いたくないんだ。頼む、止めてくれ!」
必死に説得する到極。
だがエントランスはその手を止めなかった。
そんな時だった。
「危ない!」
到極が言った。
そしてエントランスに向かって飛びかかった。
一瞬、目を閉じるエントランス。
――。
――――。
エントランスが目を開ける。
そこには傷だらけの到極がいた。
床にはナイフが落ちていた。
グラーズが投げた物だった。
到極が覆いかぶさり、エントランスを守っていた。
到極が守らなければナイフは彼女に当たっていた。
「……どうして」
エントランスが言った。
「どうして私を助けたの? 私たち、敵同士なのに」
彼女は困惑していた。
(グラーズは私を身を挺して守ったりしない)
(それなのに、この人は私を助けてくれた)
それも自分の身を顧みずに。
到極が口を開く。
「敵とか味方とか、だからじゃない。命だから、君も一つの命だから……」
そう言われて。
エントランスの心が揺らいだ。
何とか立ち上がろうとする到極。
だがそんな到極を、グラーズが蹴り飛ばした。
廊下を転がる到極。
到極はしばらく起き上がれそうになかった。
向こうにはミラも倒れていた。
グラーズがエントランスに近寄る。
そして彼女の胸ぐらを掴んだ。
「いい加減にしろ、エントランス!」
グラーズが怒鳴った。
「俺がナイフを投げて奴の注意を逸らしたのに、なぜその隙に攻撃しなかった!」
グラーズがエントランスを責め立てる。
そして。
グラーズがエントランスを殴った。
廊下に倒れ込むエントランス。
「戦えない道具はいらない。本気で戦え、処分されたくなかったらな!」
グラーズが言った。
エントランスが、到極とグラーズを交互に見る。
彼女の心の中はぐちゃぐちゃになっていた。
そして、次の瞬間。
――廊下の端に巨大な穴が出現した。
穴がブラックホールのように、廊下にある物を次々に飲み込み始めた。
アーク名 赤い空への招待。
亜空間へと繋がるワームホールを作り出し、相手をそこに引きずり込む異能。
エントランスのもう一つの異能だった。
彼女の異能が、暴走していた。




