4.脱出
「何っ!?」
到極の一撃を喰らっても。
グラーズは一歩も下がらなかった。
威力が相手の体内まで到達しない。
そんな感覚だった。
今までの相手とは手ごたえが違った。
グラーズが拳を振るう。
「ぐわあっ!」
到極が吹き飛ばされた。
地面に転がる到極。
すぐさま追撃しようと向かってくるグラーズ。
だが到極もすぐに起き上がり、そして。
「爆拳――!」
不意を突いて、到極が必殺技を放った。
「ぐおおおおっ!」
さすがにこの一撃には耐えきれず、部屋の奥まで吹き飛ぶグラーズ。
「はぁ、はぁ……」
突き出した拳を下ろし、到極が呼吸を整える。
そしてミラの元に駆け寄り、ロープをほどく。
「怪我はない? ミラさん」
「大丈夫。ありがとう、到極くん」
到極の言葉にミラが返した。
この場から逃げようとする2人。
だがその前に。
「君も一緒に逃げよう」
そう言って、到極が壁際の少女に手を差し伸べた。
壁際に座る10歳くらいの少女、エントランス。
彼女が到極の方に向かって歩いてきた。
だが。
エントランスは到極の手を握らなかった。
到極の腕を両手で引くエントランス。
到極を逃がさないように、体重をかけて引っ張っていた。
「何っ、どうして――」
到極がエントランスに言う。
だがエントランスは答えなかった。
「ちょっとあなた、一体どういうつもり!?」
ミラもエントランスに言った。
「僕たちは君の味方だよ、だから落ち着いて」
エントランスの説得を試みる到極。
だがエントランスは説得に応じなかった。
そんな中。
エントランスの手を振り払い。
ようやくエントランスを引き離した到極。
だが次はミラの番だった。
エントランスがミラに掴みかかろうと走ってくる。
一方、部屋の奥で物音がした。
グラーズが再び動きだそうとしていた。
(やむを得ないか!)
ミラがエントランスを蹴り飛ばした。
エントランスが後ろの壁にぶつかる。
その隙にミラが到極の手を掴んだ。
「行こう到極くん!」
そう言って、ミラが到極の手を引いた。
一瞬、エントランスの方を見て迷う到極。
出来ることなら、彼女も助けたい。
だが。
(今は仕方ないか)
迷いを振り切る到極。
急いで部屋を出る2人。
階段を駆け降り、扉を開け。
到極とミラがビルから抜け出した。
2人の前に明るい町の風景が広がる。
暗く冷たい空間からようやく脱出した2人。
「はぁ、はぁ、はぁ」
ビルから離れ、呼吸を整える2人。
だがその後ろから、グラーズとエントランスが追って来ていた。
後方に近づくグラーズたちに気づき。
到極とミラは再び走り出した。
◇ ◇ ◇
東京都贈ヶ丘、その街中で。
「何なんだ、あの男」
到極が走りながらグラーズを見て言った。
「ごめんミラさん、こんな事になっちゃって」
「ううん、到極くんのせいじゃないよ」
到極の言葉にミラが返した。
通行人を避け。
歩道に置かれた荷物を飛び越え。
逃げ続ける2人。
(なにか良い手はないのか)
グラーズを倒す方法。
あるいはグラーズから逃げ切る方法。
それらを考える到極。
だが良い案が思いつかず、到極は焦り始めていた。
そんな時だった。
『何かあったら声かけてね』
到極は以前、光に言われたことを思い出した。
(仕方ない、か)
このまま戦ったとしても、奴に勝てる見込みは少ない。
到極が光に電話をかけた。
『もしもし、到極くん。今ちょうど到極くんのこと話してたんだよ』
「あのさ光、すまないけど――」
到極が現在の状況を説明する。
そして光に助けを求めた。
『わかった、すぐ向かうね。ティアも誘ってみる』
「ありがとう、光」
光が到極の頼みを聞き入れた。
到極が電話を切る。
フラっ、と到極がよろける。
そんな到極をミラが支えた。
「大丈夫、到極くん?」
ミラが聞いた。
「う、うん」
そう答える到極。
だが先ほどまでと比べ、到極は明らかに弱っていた。
ミラに血液を分け与えたこと。
それから必殺技の【第三艤装】を使ったこと。
さらに街中を走り回ったことで、到極の体力は大幅に削られていた。
「少し待ってて」
そう言って、ミラが異能を発動した。
ミラの背中から翼が生えた。
「私につかまって」
「うわっ!」
ミラが到極を抱えた。
翼をはためかせ、空中へ舞い上がるミラ。
ミラはグラーズから逃げ切るため、どこかへ飛び去っていった。
◇ ◇ ◇
一方、グラーズは。
通行人を押しのけ。
歩道に置かれた荷物を蹴散らし。
到極たちを追っていた。
そんなグラーズの後を、必死に追いかけるエントランス。
「早く来い、エントランス!」
後ろを振り返り、グラーズが叫んだ。
再び前を向き、走るグラーズ。
その前に、2人の警察官が立ちはだかった。
「そこの君、止まりなさい!」
警官の一人が言った。
だがグラーズは止まらなかった。
むしろ勢いをつけて、警官に向かっていった。
身構える警官2人。
グラーズが警官たちに飛びかかった。
1対2をものともせず、グラーズは互角以上の戦いを繰り広げた。
荒っぽく見えて、その攻撃にはほとんど無駄な動きがなかった。
そして遂に。
一人を蹴りで、もう一人を絞め技で倒すグラーズ。
「ふぅ」
その場で息を吐くグラーズ。
その後ろから、エントランスがようやく追いついた。
「行くぞ」
そう言って再び走り出すグラーズ。
グラーズがじわりじわりと、到極たちに迫っていた。




