6.任務
模擬戦闘室。
扉を開け、桜が飛び込んできた。
「大丈夫ですか、到極さん!?」
桜が言った。
「うん、大丈夫だよ。なんとかね……」
到極が答えた。
到極の体は全身傷だらけだった。
だが、もう出血は止まっていた。
自己回復能力のおかげで、大事には至らずに済んでいた。
といっても、到極の自己回復能力は応急処置のようなもので、痛みや傷自体を治すことは出来なかった。
「今、治してあげますからね!」
だが、桜の異能は違った。
◇ ◇ ◇
オペレーター室。
「あの子は……」
本崎がデータベースの次のページを開いた。
『No.3 桜波姫。
アーク名 癒やす者。
手をかざした相手の怪我や傷を治癒させる。
治せる怪我には限度があり、許容量を超えるものは治療できない』
◇ ◇ ◇
模擬戦闘室。
「だ、大丈夫だよ。桜」
「大丈夫なはずないです!」
到極の制止を振り切り、桜が到極の頬に触れた。
温かい光が到極に流れていく。
すると頬の切り傷はみるみる回復していった。
頬だけではない。
全身の傷が十秒ほどで完全に回復した。
「あ、ありがとう。桜」
「どういたしまして♪」
そう言って桜はにこっと笑った。
「おーい、大丈夫か!」
桜から少し遅れて。
隼人も模擬戦闘室に入って来た。
「大丈夫だよー!」
到極が手を振った。
三人が笑顔で合流した。
◇ ◇ ◇
オペレーション室。
「到極くんが近距離の敵と、ティアさんが遠距離の敵と戦うことができる。それに桜さんという回復役まで。やはり侮れないわね、チームL」
そう言って本崎はデータベースの閲覧を続けた。
『No.4 松島隼人。
アーク名 加速する者。
触れた物体を加速させることができる』
No.5、6、7、8は別行動中につき省略。
『No.9 海野礼夏。
アーク名 抹消する者。
アークの光を飛ばし、それに触れた物体を消滅させることができる。
消された物体は異空間に飛ばされたとする見方もある。
今は物体のみだが、いずれは記憶や概念など形の無いものを消すことも可能になるのではないかと言われている』
異能者には、チームに所属した順に番号が振られていた。
「松島くんが一人いることで戦闘の幅が広がる。海野さんの力は人に使うには危険すぎるけど、武器や機械に対しては圧倒的。"最強の一人"はいないけど、チームとしては良いバランスなのかもね。今のチームLは」
最新の番号、礼夏のページまで見終えると本崎はデータベースを閉じた。
◇ ◇ ◇
一方、その頃。
とある日本家屋。
ふすまを開けても開けても次の和室が広がっている。
終わりの見えない広さだった。
巨大な庭まであるその建物は、まさに豪邸と呼ぶにふさわしかった。
そんな和室の一室で。
和服姿の老人が、長髪の男性と話していた。
「計画の方はどうだ、辰巳」
「はっ! 順調です」
辰巳と呼ばれた男性が答えた。
「油断するなよ。他の組織に"文書"を奪われる事態などあってはならないのだからな。もしそのような事態が起こった時は、――わかっているな?」
老人が辰巳を睨みつけた。
「――! 心得ております」
男は平静を装いながら言った。
「話は以上だ」
そう言って老人は席を立った。
「外にお出になられるのですか?」
辰巳が聞いた。
「私はこれから"委員会"に出席しなければならない」
「――! お気をつけて!」
老人が部屋を出ていった。
辰巳は老人が見えなくなるまで、深々と礼をしていた。
◇ ◇ ◇
数日後。
シェアハウスのリビング。
礼夏、ティア、桜、到極がくつろいでいた。
「はぁ〜! 美味しそう!」
礼夏がテレビを見て言った。
テレビではスイーツ特集が放送されていた。
海野礼夏。13歳。
ロングヘアーの美少女で、勝ち気でツンツンとした性格の持ち主。
そして。
髪型以外の見た目が、ティアとそっくりだった。
目も、耳も、鼻も、口も、身体も、スタイルも。
しかし内面は、性格や好みは正反対だった。
だが、今回は違った。
「……同意」
ティアが言った。
珍しく礼夏とティアの意見が一致した。
「『パティスリー・ビルド』のバームクーヘンじゃないですか! いいなー、私も一度でいいから食べてみたいです」
桜が言った。
ヒロイン三人の意見が合う事は滅多になかった。
「そんなに有名なの? このお店」
到極が聞いた。
「あんた流行りには本当疎いわよねー。『パティスリー・ビルド』っていったら予約半年待ちは当たり前の、超人気店じゃない!」
礼夏が鼻息を荒くして言った。
「へ、へぇ。そうなんだ……」
到極が若干引き気味に言った。
『――2065年最新スイーツランキング!』
礼夏は食い入るようにテレビを見ていた。
『続いてのお店は――』
だが、礼夏が次の店を聞くことはできなかった。
――室内にサイレンが鳴った。
――テレビが特殊な回線に切り替わる。
――外から見えないよう窓が変化する。
シェアハウスの雰囲気が一気に変わった。
『チームLの皆さん。聞こえていますね。オペレーターの本崎早紀です』
テレビに本崎の姿が映し出された。
オペレーション室からの通信だった。
「本崎さんの通信ってことは、"任務"ですか?」
到極が言った。
E.D.Oに所属する異能者は、本部からの要請で任務を行うことがあった。
ボランティア活動やイベントから戦闘に至るまで、その内容は様々だった。
『えぇ。今回の任務は"毒島れんげの手記"の回収です』
「毒島れんげ? 誰よそれ、聞いたことないわ」
礼夏が言った。
礼夏はテレビの邪魔をされ、少し不機嫌だった。
『毒島れんげは性別も年齢も不明の人物です。海野さんが知らないのは当然です』
「なんか癪に触る言い方ね」
『毒島は現在行方不明です。貴方たちには毒島の潜伏しているであろう場所に向かっていただき、毒島から手記を手に入れてもらいます』
「……何故私たちなんですか。重要な任務ならAやBが出動するはずです」
ティアが言った。
『無論、出動可能なチームには既に要請しています。毒島の潜伏している可能性の高い場所から、順に人員を配置しています。チームLの皆さんには、最も可能性の低い場所に向かってもらいます』
「一つ、聞いてもいいですか?」
到極が言った。
『なんでしょう?』
「その毒島れんげさん、って人の手記には、一体何が書かれているんですか?」
本崎は答えた。
冷静に、顔色一つ変えずに。
『――――"未来"ですよ。この世界の』




