閑話 浜松理のいる日常
2065年7月。
到極、ティア、桜、隼人、光。
現在シェアハウスには5人。
だけではなかった。
6人目の同居人。
浜松理。
今は彼女も一緒に暮らしていた。
◇ ◇ ◇
チームLのシェアハウス。
到極の部屋。
いつもなら学校に行っている時間でも今日の到極はまだベッドの上にいた。
今日は休日だった。
ベッドの上でスヤスヤと眠る到極。
今日は7月にしては涼しく、寝心地が良かった。
そんな中、ふと人の気配を感じた。
寝ぼけ眼で起き上がる到極。
ぼんやりした視界が徐々に鮮明になっていく。
そこには。
「おはよう、到極君。いい朝だね」
到極と同い年の少女がいた。
浜松理。14歳。
ショートヘアーの髪型。
ボーイッシュな見た目。快活な雰囲気。
隼人による評価では「美少女を発掘するコンテストでグランプリを受賞し、映画やドラマに引っ張りだこな大人気清純派美少女のよう」とのことだった。
浜松は扉の前に立っていた。
今入って来たばかりのようだった。
「ごめんごめん、起こすつもりなかったんだけどさ」
浜松が言った。
到極が聞く。
「どうして僕の部屋に?」
普段ならノックする浜松が、ノックせずに部屋に入っていた事が気になった。
「到極君、いつも洗濯してくれてるでしょ?」
浜松が言った。
確かに、このシェアハウスでは洗濯は到極が担当することが多かった。
浜松が続ける。
「だからさ、たまには私が代わりに洗濯しようと思って」
そう言って部屋に積まれた洗濯物を抱える浜松。
「あ、ありがとう」
到極が言った。
部屋を出て行く浜松。
浜松のペースに飲まれ、到極はベッドの上から見送ることしか出来なかった。
――。
――――。
それから少し経って。
到極が完全に目を覚ました。
ベッドを出て、リビングに向かう。
「おはよう到極くん」
リビングには光がいた。
光に挨拶を返し、洗面所に向かう到極。
諸々を済ませ、リビングに戻ると。
「朝ごはん出来てるよ」
光が言った。
「いつもありがとう、光」
「ふふ、どういたしまして」
光に感謝し、食卓に座る到極。
「いただきます」
到極が朝食を食べている間も、光はキッチンで片付けなどをしていた。
すると。
扉を開け、浜松が入ってきた。
そして光の方を見ると。
「わたしも手伝うよ」
浜松が言った。
「いい? じゃあそっちをお願いできる?」
「うん、任せて」
そう言って光を手伝う浜松。
2人はまるで姉妹のような関係でもあった。
◇ ◇ ◇
とある日。
E.D.O本部。
その講義室。
ティアと浜松が異能にまつわる講義を受けていた。
2人はチームの中でも特に勉強熱心だった。
故によく本部に講義を受けに来ていた。
「では、新たな【艤装】を習得するには何が必要か。それじゃあ、ティアさん」
講師がティアをさして言った。
ティアが発言する。
「最も大切なのは自分の異能をよく理解すること」
「それからトレーニングによって習得する方法」
「中には偶然習得できた事例もある」
お手本のような解答だった。
「さすがティアさんですね」
講師が言った。
そして続ける。
「では、例外の事例はどんなものがあるか、分かる方はいますか?」
講師が受講者たちに問いかけた。
何人かの手が挙がる中。
浜松が勢いよく手を挙げていた。
「では、浜松さん」
講師が浜松を当てる。
「はい。ごく稀に、自分の異能を理解していないことで、逆に発現する事例もある。――ですよね?」
そう浜松が説明した。
「お見事です」
浜松の解答に対して、講師が言った。
浜松が得意げにティアの方を見る。
ティアもそれに気づき、浜松の方を見た。
浜松はティアと、異能にまつわる事柄でよく競い合っていた。
ティアと浜松。
2人はライバルのような関係でもあった。
◇ ◇ ◇
とある日。
到極と浜松は街中を歩いていた。
すると。
「おい兄ちゃん、ちょっと待ちな」
到極の前に3人の男が現れた。
年は高校生か20代くらい。
3人ともあまり素行が良さそうには見えなかった。
「可愛い子連れてるじゃねぇの」
「お前には勿体ないくらいの美女だぜ」
「ねぇ君、こんな奴ほっといて俺たちと遊ばない?」
3人が到極を威圧し、反対に浜松を誘う。
浜松の表情が一瞬ムッとした。
だがすぐに笑顔に戻った。
そして。
「お断りします。行こう、到極くん」
そう言って、浜松が到極の手を引いた。
不良たちの誘いは、あっけなく断られた。
そのまま不良たちの間を通り抜けようとする浜松。
だが。
「チッ、調子に乗りやがってー!」
断られた3人が逆上した。
そして、その怒りの矛先は浜松ではなく到極に向いていた。
その内の一人が到極に殴りかかる。
「はぁ……」
あきれたように、息を吐く浜松。
そして。
浜松が不良を睨む。
その目は珍しく怒っていた。
次の瞬間。
――浜松の異能が発動した。
すると。
不良たち3人が、一瞬でパンツ一枚の姿になった。
その足元には、先ほどまで服だった布が散乱していた。
アーク名 切断因子。
その【第一艤装】は相手を切り裂く光線を出すことが出来るものだった。
今回浜松が使ったのはその【第二艤装】。
【第二艤装】は異能の力を当て、当たった物体を切り裂かれた状態にする。
状態を固定する力。
細断を確定する力。
この力の前では、どんな硬い物体も、どんな弾力のある物体でも必ず切り刻まれる。
「今のでも、だいぶ手加減したんだよ」
浜松が不良たち3人に向けて言った。
その言葉は決してハッタリなどではなかった。
今回不良3人が無事だったのは、浜松が最初から服に狙いを定めていたからだ。
「あんまり私の友だちを、いじめないで欲しいんだけど」
そう言って、今度は"不良たちそのもの"に狙いを定めるジェスチャーをする浜松。
「ひ、ひぃ」
不良たちが逃げ出した。
到極と浜松は不良たちが見えなくなるまで、その場に立っていた。
「ふぅ。行こう、到極くん」
浜松が到極の方を向き直って言った。
「え、あ、うん」
到極が答えた。
並んで歩く2人。
到極も浜松も、先ほどの事を思い出していた。
『お前には勿体無い』
『こんな奴ほっといて』
(そんな事ないのに)
浜松が到極の横顔を見ながらそう思った。
そして。
「えいっ!」
そう言って、浜松が到極の腕に抱きついた。
「えっ、ちょっと、浜松さん?」
戸惑う到極。
「ほら、行こ行こ!」
反対に笑顔の浜松。
到極と浜松。
2人の関係は恋愛、とまでは行かなかった。
到極が浜松に振り回されることが多かった。
少なくとも、今のところは。
この先、2人がどうなって行くのかは、本人たちにもまだ分からなかった。




