2.転校生
新学期が始まってから一週間。
朝。
シェアハウスの玄関。
到極とティアが靴を履いていた。
「いってきます」
到極が言った。
到極は制服姿だった。
「……いってきます」
ティアが到極を真似して言った。
今日はティアも制服姿だった。
到極が玄関を出る。
今日からはティアも一緒だった。
2人は中学校に向かって歩き出した。
◇ ◇ ◇
東京都贈ヶ丘中学校。
2年2組の教室。
「ティア、です。よろしくお願いします」
教室の前でティアが自己紹介した。
言い終わると同時に、水沢先生の時と同じように、教室に歓声が鳴り響いた。
やはり声の中心は吉田、加藤、小森の3人だった。
(す、すごい声だな……)
(まあ、こんな美少女が転校してきたんだ。無理もないか)
3人の熱狂には若干引きつつも、到極は納得した。
休み時間。
チャイムが鳴ると同時に、ティアはクラスメートに囲まれた。
どうやら質問攻めに遭っているようだった。
「どこから転校して来たの?」
「好きな食べ物は?」
「部活は何をやってたの?」
「好きな芸能人は?」
「好きなタイプは?」
その回答のほとんどは「わからない」だったが。
質問が落ち着いてきた頃。
一人の少女がティアに話しかけてきた。
「転校して来たばかりで分からない事も多いと思うけど、私でよかったらなんでも聞いて」
少女が笑顔で言った。
少女の名は夏目カナ。
このクラスの学級委員だった。
「……ありがとう」
ティアが返した。
次の時間のチャイムが鳴った。
次の授業が始まった。
数学の授業。
黒板の前で先生が首を傾げていた。
「あれ、おかしいな……」
先生が言った。
「先生、式の方に誤りがあります」
ティアが先生のミスを訂正した。
理科の授業。
教室に入って来るなり、先生が口を開いた。
「今日は抜き打ちテストをします」
「「「えぇーっ」」」
生徒たちのブーイングが響いた。
数分後。
テストと答え合わせが終わった。
「全問正解者は、ティアさんだけか」
先生が言った。
今度は生徒たちの驚きの声が響いた。
(ティアってこんなに頭が良かったのか)
到極も心の中で驚いていた。
再び休み時間。
ティアは再びクラスメートに囲まれていた。
「すごいよ、ティアちゃん」
「今度わたしに勉強教えて!」
「俺にも!」
「私も!」
クラスメートたちが言った。
ティアはあっという間に2組での人気を獲得した。
◇ ◇ ◇
みたび休み時間。
転校生の噂は他クラスにも広がっていた。
ティアを見にたくさんの生徒が2組の教室の前に来ていた。
「あの子だ、かわいいなー」
「俺、話しかけてみようかな」
他クラスの生徒たちがはしゃぐ中。
一人の男が近づいてきた。
「おい、どけろ。邪魔だ」
そう言って人混みを割り、進む男。
男はとうとう2組の教室に入って来た。
男の名は鮫島大吾。
大柄な体格で傲慢な性格。
2年5組の生徒で、学年一の不良だった。
強ばる2組の生徒たち。
「転校生ってのは、どいつだ?」
鮫島が言った。
2組の何人かがティアの方を見た。
「へえ、お前か。なかなか美人じゃねぇか」
そう言ってティアに近づいて行く鮫島。
だがティアも嫌な予感がしたようで、さっと到極の横に寄った。
「ティアに何か用ですか?」
到極が聞いた。
「あ゛ぁ、お前には関係無えだろ」
そう言ってティアに手を伸ばす鮫島。
だがティアに触れる事は出来なかった。
ティアが到極の後ろに隠れたからだ。
「おいお前、どけろ」
鮫島が言った。
以前の到極ならすぐに避けていたかも知れない。
だが今は違った。
(戦ったら、互角に持ち込めるか)
到極はそんな事を考えていた。
今の到極には異能がある。
「どけろって言ってんだよ!」
鮫島が到極の胸ぐらを掴んで言った。
2組の教室に緊張が走った。
(どうする、使うか?)
到極が異能の力を纏い始める。
同時に鮫島が拳を構えた。
だが。
「そこで何をしている!」
廊下から大声が聞こえた。
鮫島の動きが止まった。
「やべ、藤山だ。逃げろ!」
廊下にいた生徒の誰かが言った。
その声を聞いて廊下にいた生徒たちが逃げ出した。
藤山先生。20代。
竹刀を持ったジャージ姿の女性教師。
髪型はポニーテール。
生活指導の担当でもあった。
藤山先生の厳しさは生徒の間でも有名だった。
「ちっ」
鮫島も到極を離し、去っていった。
(助かったぁ)
到極はホッと胸を撫で下ろした。
到極が振り返ると2組の生徒たちが到極を見ていた。
「鮫島相手に引かないなんて、お前すげぇよ」
「ティアちゃんを守る為に盾になるなんて素敵」
「かっこよかったよ、君」
生徒たちが言った。
到極の2組でのポジションは、何とか悪いものにならずに済みそうだった。
◇ ◇ ◇
放課後。
続々と生徒たちが下校して行く。
そんな中、一人だけ学校に向かって来る者がいた。
「ここか、ティアがいるのは」
その人物が言った。
ティアを狙う魔の手は、すぐそこに迫っていた。




