5.対抗戦
異能者研究開発機構(E.D.O)本部。
そのオペレーション室。
(模擬戦闘室の周りが、なにやら騒がしいわね?)
施設内の監視カメラの映像をチェックする、一人の女性がいた。
本崎早紀。
E.D.Oの職員だった。
「また到極くんか……」
本崎は到極を知っていた。
何度か話をしたこともあった。
それゆえにこの対戦のことが気になった。
「どれどれ、相手は……。え、山田くん!?」
◇ ◇ ◇
模擬戦闘室。
「準備はいいか、欠陥品」
「欠陥品、か……。あぁ、できてるよ」
山田が到極を挑発した。
到極は冷静に返した。
「あの山田って人、今到極さんを欠陥品って!」
桜が言った。
到極よりも桜の方が取り乱していた。
模擬戦闘室の側壁は透明で、一階か二階から様子を見ることができるようになっている。
桜と隼人は二階から模擬戦闘室を見ていた。
二人以外にも、他チームの異能者たちが数十人ほど見に来ていた。
どうやら到極の敗北ぶりを見に来たようだった。
「もう、到極さんは見世物じゃないのに……」
その光景を見て、桜がぼそっと言った。
『――3、2、1』
電子音声がカウントダウンを開始した。
桜は祈るように到極を見守っていた。
『――スタート!』
試合開始の合図が鳴った。
合図と共に、山田が大量の斬撃を飛ばした。
◇ ◇ ◇
オペレーション室。
本崎はE.D.Oのデータベースを閲覧していた。
チームLの異能にまつわるページだった。
『No.1 到極縁。
アーク名 解放因子。
アークで作ったエネルギー体を飛ばし攻撃を行う』
いわゆる、かめ○め波や波○拳に近いものだった。
だが到極はこれを使えなかった。
(じゃあ到極くんのアークって何なんだろう……)
本崎が資料を読み進める。
(なんだ、ただの単純な肉体強化か。これじゃあ山田くんに勝つのは難しそうね……)
本崎はそのまま次のページも閲覧した。
『No.2 ティア。
アーク名 解放因子』
アークの本質は到極と同じものだった。
だが、到極が欠陥品ならこちらは完成品だった。
『【第二艤装】天使の手のひら。
アークで作ったエネルギー体を複雑に加工し、精密に遠隔操作することができる』
アークには【艤装】という概念がある。
いわゆる異能の段階でティアはすでに【第二艤装】を習得していた。
解放因子はただエネルギー体を飛ばすだけの単純な異能だが、【第二艤装】になると複雑な操作が可能になる。
ティアの場合、エネルギー体を巨大な手の形に加工し、それを自分の本当の手のように自在に操ることができた。
◇ ◇ ◇
模擬戦闘室。
「オラオラオラ! ティアに比べて簡単な肉体強化しか使えないお前が、俺に勝てるわけねぇだろうが!」
山田が斬撃を飛ばしながら言った。
アーク名 鎌鼬。
周囲の空気を操り、鎌鼬を作り出す異能だった。
「お前はさしづめ、銃弾を飛ばせないピストルだ! そんなお前に何ができる!?」
到極を無数の斬撃が襲っていた。
体にはいくつもの切り傷ができていた。
到極は両腕で攻撃を防ぐのがやっとだった。
到極が敗北するのは時間の問題のように思えた。
――――その、はずだった。
本来ならもうダウンしてもいい頃だった。
だが、到極は倒れなかった。
それどころか。
到極が一歩ずつ、前に進んできていた。
一歩、また一歩。
到極が山田に向かって進んでいく。
二人の距離はあと数メートルまで近づいていた。
◇ ◇ ◇
オペレーション室。
本崎は対戦の映像を見て驚愕していた。
(簡単な肉体強化くらいで、山田くんの鎌鼬に耐えることは出来ないはず。一体、何が起きているの?)
本崎は慌ててデータベースを読み直した。
すると肉体強化の文字の下に、まだ文章は続いていた。
(……ん? 感覚強化に、自己回復まで!?)
「どういうこと?」
本崎は考えた。
そしてひらめいた。
「そういうことか!」
(到極くんは【第一艤装】を上手く使えない。でもそれはエネルギーを作り出せないわけじゃない。作り出したエネルギー体を遠くに飛ばせないだけなんだ!)
本崎の思考は続いた。
(そして、作り出したエネルギーは身体の周りや体内にとどまり、それが自らを強化しているのね!)
◇ ◇ ◇
模擬戦闘室。
「クソッ! 止まれ、止まりやがれ!」
山田が叫んだ。
だが到極は止まらなかった。
そして、到極の異能は、変則的な【第一艤装】だけではなかった。
【第三艤装】爆拳。
ティアも習得していない第三の【艤装】だった。
作り出したエネルギーを一点に圧縮し、一気に解放する必殺技だった。
到極の場合、その力を拳に集め、一気にぶつける。
「覚悟はいいですか、山田さん?」
「ひぃ!?」
到極が山田を射程に捉えた。
山田は恐怖で身体が動かなかった。
「――――爆、拳っ!」
ドゴッ! という音と共に、山田が吹き飛んだ。
直後、電子音声の試合終了の合図が鳴った。
周りの異能者たちは一瞬、静まりかえった。
そして、一斉に歓声をあげた。
それと同時に到極はその場にへたり込んだ。




