5.下剋上
森林ステージの外。
「すごいよ光! ティアも!」
到極が2人を出迎えた。
到極は森林ステージの外にある観覧スペースから3人を応援していた。
「ありがとう! みんなのおかげだよ」
「私は、するべき事をしただけ」
光とティアが言った。
到極が少し離れた席を見た。
「もちろん、桜もね」
少し離れた席に運ばれていた、まだ眠ったままの桜を見て言った。
「ま、結構良かったんじゃねーの」
到極と一緒に3人を応援していた隼人が言った。
「相変わらず素直じゃないなぁ、隼人は」
光が笑顔で言った。
――。
――――。
――――――。
4人の談笑が少し続いた後。
光が少し真剣な顔をした。
「ごめんね、到極君。結局、戦わせる事になっちゃって」
光が言った。
「光のせいじゃないよ」
隣では隼人も珍しく申し訳なさそうにしていた。
「大丈夫、心配しないで」
到極が光と隼人に向けて言った。
◇ ◇ ◇
数時間後。
E.D.O本部の廊下。
これから模擬戦闘室で三回戦が始まる。
到極はそこに向かっていた。
そんな到極の前に一人の少年が立ち塞がった。
チームKのリーダー、立花尊也だった。
「やぁ、君に一つ話があってね」
立花が続ける。
「これからの対決、君にリタイアしてもらいたい」
「リタイア?」
到極が聞き返した。
「あぁ。負けると分かっている勝負をして、わざわざ恥をかく必要はない」
立花が言った。
到極が言い返す。
「二回戦はLが勝ちました」
「あんなのまぐれだよ」
「三回戦も、やってみなきゃ分かんないですよ」
「分かるよ。一つ教えてあげるよ」
立花が続ける。
「僕はね、生まれて一度も"挫折"した事がないんだ。僕はそれくらい優れた人間なんだ、君と違ってね。
だから今日も僕が勝つ」
2人の会話は平行線のままだった。
◇ ◇ ◇
数分後。
模擬戦闘室。
そこには立花と、そして到極がいた。
「へぇ、来たんだ。親切に忠告したのに」
立花が言った。
「弱い能力者は、みんな人の話を聞かないのかな?」
立花が到極を見ながら言った。
到極は何も返さなかった。
「まぁいいや」
「それじゃ、さっさと終わらせてあげるよ」
そう言って戦闘の準備に入る立花。
到極も腰を落とし、拳を構えた。
『――3、2、1』
電子音声がカウントダウンを始めた。
『――スタート』
試合開始の合図が鳴った。
合図の音と共に、立花がゆっくりと歩き出した。
迎え撃つように、到極も走り出す。
2人の距離が縮まる。
到極が拳を突き出す。
だが。
立花が攻撃を華麗に躱す。
そして到極の顔の前に手の平をかざした。
すると。
「う、うぐっ」
到極が苦しみだした。
立花が手を軽く振る。
それだけで到極が後ろに吹き飛んだ。
触れる事なく、立花が到極を吹き飛ばした。
アーク名 空気使い。
周囲の空気を操作する力。
これが立花の異能だった。
今回の場合。立花は到極の周囲の空気を奪い、到極を苦しめていた。
それだけではない。
空気の塊を撃ち出したり、風を起こす事も出来る。
吹き飛ばされ床に転がる到極に、立花が迫る。
そしてもう一度、到極の顔に手をかざす。
「うぐ、ぐ……」
苦しむ到極。
そしてまた到極を投げ飛ばす立花。
立花の一方的な攻撃が何度も続いた。
模擬戦闘室の外では。
チームLのメンバーが対戦を見守っていた。
「到極くん……」
窓越しに到極を見つめる光。
(くそっ、俺が一回戦で負けていなければ)
「負けるなー、到極ー!」
心の中で思いながら、エールを送る隼人。
ティアも、眠りから覚めた桜も。
4人全員が心配そうに到極を見守っていた。
模擬戦闘室。
到極は傷だらけで床に倒れていた。
「そろそろ終わりにしよう」
そう言って立花が動き出す。
ゆっくりと、到極に近づいて行く。
「トドメだ」
そう言って、到極の顔に手をかざそうとする立花。
だが。
――パチン! と。
到極がその手を弾いた。
「何っ!?」
一瞬動揺する立花。
その隙を逃さず、到極が立花を打つ。
「ぐはっ!」
到極の拳が立花を吹き飛ばす。
「何だ、何が起きたんだ!?」
混乱する立花。
何とか体勢を立て直し、再び到極に挑む。
だが立花の攻撃は二度と通用しなかった。
攻撃の全てを到極が躱し、往なし、捌いた。
「何故だ、なぜ攻撃が効かない」
立花が言った。
「"挫折"したからですよ」
立花の問いに、到極が答えた。
到極が続ける。
「挫折するからこそ、人は工夫し、策を練り、次に備えるんだ。今回も!」
失敗せず挫折の無い人生を送ってきた立花。
そんな立花は、異能の力は確かに到極以上だった。
だが対応力の一点で、立花は到極に負けていた。
空気の塊を乱射する立花。
だがその全てを到極がかわす。
そして一歩ずつ、立花に近づいて行く。
「ひ、ひぃ!」
立花が怯む。
到極が立花の前に立つ。
そして。
「爆拳――!」
到極の一撃が立花を打った。
吹き飛び倒れる立花。
『チームK、立花。戦闘不能』
『――勝者、到極縁』
電子音声がアナウンスした。
模擬戦闘室の外で歓声が上がった。
この日、到極縁はチームとして初めて格上に勝利した。
◇ ◇ ◇
数日後。
E.D.O本部の研究室。
到極はとある人物に呼ばれ、一人でこの場所に来ていた。
「検査は以上だ。帰っていいぞ」
一人の女性が到極に言った。
到極は検査のため、上半身裸になっていた。
「ありがとうございました、花咲さん」
到極が女性に言った。
女性の名は花咲影美。
ぼさぼさの髪に、気怠げな雰囲気。
E.D.O本部の研究員にして、花咲光の姉だった。
到極が服を着て帰る準備をしていた時。
「その、この間の試合、見たぞ」
花咲が言った。
花咲が続ける。
「最近、光が明るさを取り戻したように思う。
Kにいた時は随分と追い詰められていたからな。
光にはLが合っていたんだろう」
「それは、良かったです」
到極が言った。
「君のおかげもある。何か礼をした方が良いだろう。何か望みはあるか?」
花咲が聞いた。
到極が少し考えてから答えた。
「光さんに電話してあげてください。光、影美さんと話せるのがすごく嬉しいみたいで。時間に余裕のある時でいいので」
「そ、そうか。まぁ、考えておこう」
花咲がそう返した。
それから挨拶をして、到極は研究室を出た。
そしてシェアハウスに帰って行った。
シェアハウスに帰るとリビングに光がいた。
光は嬉しそうだった。
光の手には携帯電話があった。
到極はすぐに分かった。
影美がすぐに電話してくれたらしい。
「ねぇ、光。それって」
到極が聞いた。
光の携帯に目を向けながら。
「これ? 内緒、ふふっ♪」
光が笑顔で返した。
今度は屈託のない笑顔だった。
【第7章 チーム対抗編 完】




