6.罠
今は使われていない工場。
集会は終わった。
15人ほどいた他の不良たちが帰って行く。
番も帰ろうとしていた。
そんな時。
「莉奈、ちょっと来てくれ」
犬山が言った。
犬山の後ろには手下の二人もいた。
「うん」
番は返事をし、犬山たちに着いて行った。
廃工場の奥。
そこには暗木が一人で待っていた。
その時だった。
犬山の手下の二人が番の両手を掴んだ。
身動きが取れなくなる番。
「ちょっ、お前ら、何しやがる!」
番が吠えた。
だが手下二人は番を離さなかった。
「騙したのか!?」
番が犬山に聞いた。
「あぁ、騙してたさ。お前に初めて会った時からな」
犬山が言った。
そう、数ヶ月前から。
すでに犬山たちの計画は始まっていた。
犬山たちは最初から、とある目的のために番に近づいていた。
番と犬山たちとの間に友情など存在しなかった。
全ては暗木に番を捧げるため。
そのために犬山たちは行動していた。
すべてを聞いた番は落胆した。
「そんな……。でも何のために?」
番が言った。
その質問に、犬山も暗木もすぐには答えなかった。
暗木は何やらカバンの中をゴソゴソと探していた。
そして。
暗木が取り出したのは一本の注射器だった。
「ひっ……!」
番が思わず固まる。
薬物を使って番を依存状態にさせる事。
これが暗木の目的だった。
その為に犬山たちを使い、何人もの人間を集めていた。
そしてその中から暗木に選ばれたのが番だった。
番は激しく後悔した。
(ココの言う通りだった……っ!)
番は大江の忠告を思い出していた。
その忠告を聞いておけば良かったと心から思った。
だが全て番の自業自得という訳でもない。
全ての始まりは小学校時代のいじめだからだ。
それさえなければ、番は犬山たちと連む事などなかった。
暗木が番にゆっくりと近づいていく。
よく見ると暗木の足はふらふらしていた。
その様子を見て番が言う。
「まさかあんたも薬物を!?」
「ひっひっひ」
暗木はただ笑うだけだった。
だがそれが質問を肯定していた。
番は恐怖に怯えていた。
助けを求めようにも、15人ほどいた他の不良たちはすでに全員帰ってしまっていた。
(誰か、助けて……!)
心の中で祈る番。
――そんな時。
工場の外から、足音が聞こえてきた。
工場の入口を見る不良たち。
そこには。
到極縁がいた。
到極縁が、番を助けに駆けつけた。
◇ ◇ ◇
廃工場の入口。
到極が立っていた。
「到極くん……っ!」
番が叫んだ。
だがすぐに犬山たちも言う。
「ぷっ、ぐははははっ」
「何だよその格好、ヒーローのコスプレか?」
到極は全身に防具を纏っていた。
桂木博士と別れた後。
到極は可能な限りの装備を整え、この場所まで走ってきていた。
だが時間が無かったため、スポーツ用品やバイク用の品など、寄せ集めの不恰好な姿になっていた。
そんな到極の姿を見て、嘲笑う不良たち。
だがそんな事、今の到極にとってはどうでもいい事だった。
「うおおおおおーっ!」
到極が叫びながら不良たちに向かって行く。
一番手前には暗木がいた。
構わず体当たりする到極。
思いのほか暗木は軽く、暗木はそのまま吹っ飛んでいった。
到極が犬山を射程に捉える。
そして。
バチバチバチ!
「ぐわああああっ!」
犬山の体を電流が襲った。
スタンバトン。
射程距離の長いスタンガン。
桂木博士の発明品の一つだ。
到極はこれを左手に装備していた。
到極が犬山に向かって右手を突き出す。
右手に装備した武器からロープが発射された。
ロープは犬山に巻きつき、犬山を拘束した。
捕縛砲。
敵を拘束するロープを撃ち出す事が出来る。
これも桂木博士の発明品だ。
到極はこれを右手に装備していた。
犬山が拘束され、一瞬動揺する手下の二人。
だがすぐに調子を取り戻し、番を放り出して到極に向かってきた。
「きゃっ!」
廃工場の床に倒れる番。
「ふっ!」
「おらっ!」
到極に拳を当てようと突進する手下の二人。
(くっ、危ないっ!)
だが到極も必死にそれを回避する。
そして。
手下二人の攻撃を何とか躱しながら、スタンバトンを当てる到極。
「ぐわあああっ!」
「ぎゃあああっ!」
電撃を受け、倒れる手下の二人。
到極はすぐに捕縛砲を発射し、二人を拘束した。
だが。
「おらっ!」
到極に対して。
背後から鉄パイプが振り下ろされた。
暗木の仕業だった。
「――――っ!」
身体を捻り、直撃を避ける到極。
だが鉄パイプはスタンバトンに当たり、それを破壊した。
(まずいっ!?)
慌てて捕縛砲を構える到極。
だが撃つよりも早く、暗木が鉄パイプを振るう。
捕縛砲も、破壊されてしまった。
(くっ……!)
焦る到極。
ダメージ覚悟で暗木に掴みかかり、揉み合いの末、遂に鉄パイプを奪うことに成功する。
だが掴み合いの途中で、到極の防具も外れてしまっていた。
万が一また使われないように、鉄パイプを廃工場の奥に放り投げる到極。
鉄パイプは両者の手の届かない場所まで飛んで行った。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
「ひっ、ひっ、ひっ……」
互いに呼吸を整える到極と暗木。
もうお互いに使える武器は無かった。
ここから先は、素手対素手になる。
拳を構える両者。
廃工場の暗闇の中で。
到極と暗木が向かい合っていた。




