4.贖罪
南十字星学園。
贈ヶ丘にある中学校の一つ。
特にスポーツに力を入れている高校だった。
再会の翌日の放課後。
到極はその学園の校門の前にいた。
前回、番と会った際。
番が着ていたのはこの学園の制服だった。
到極はその事を思い出し、番に再び会うため、この学園を訪れていた。
(もう会わないつもりだったのに……)
(来てしまった……)
到極は葛藤していた。
ゆえに昨日の自分の決断とは真逆の行動をとってしまっていた。
そして、葛藤の末。
(やっぱり良くないよな……)
(よし、今からでも帰ろう!)
だが、そう思った時だった。
番が姿を現した。
「莉奈ちゃん!」
思わず声をかける到極。
「……何?」
番が素っ気なく返した。
「あ、あ、あ、あの……!」
4年分の感情が溢れ出す到極。
一方、学園の教室の窓からは。
「誰だろ、あの子?」
「あの制服、贈ヶ丘中学校の生徒だよな」
「もしかして告白とか? 番さん美人だし」
南十字星学園の生徒たちが二人の様子を見ていた。
「場所、変えようか……」
番が言った。
番としても、このまま注目を浴び続けるのは恥ずかしかった。
「う、うん!」
到極が言った。
二人は近くの公園に移動した。
◇ ◇ ◇
近くの公園。
「ごめん、莉奈ちゃん」
到極が言った。
「もういいの」
番が言った。
そんな言い方しか出来なかった。
(なんで、なんでなのよ……)
(到極くんに伝えるんでしょ、本当の気持ちを!)
番が自分に言い聞かせていた。
だが出来なかった。
いじめられていた事によるトラウマ。
番は誰かに本心を伝える事に、臆病になっていた。
結局、番も昨日の自身の決断とは真逆の行動をとってしまっていた。
そんな時だった。
三人組の不良が通りかかった。
この間、番と一緒にいたのと同じ人達だった。
「お前、この間の!」
不良の一人、犬山が言った。
「莉奈に何の用だ」
犬山が続けて言った。
犬山が到極に詰め寄る。
「ぼ、僕は何も――」
到極がそう話し始めた時だった。
「おらっ!」
犬山が到極を殴った。
腹を軽く殴っただけだった。
だが。
「うぐっ、かはっ……」
到極は地面に両膝をついてうずくまった。
いつもと違い、異能という鎧を着ていない。
さらに筋力が衰え、肉体が弱体化している状態。
まさに最弱の状態だった。
「なんだこいつ、めちゃくちゃ弱ぇじゃん!」
不良たちが到極を笑う。
(異能さえあれば、こんなパンチ効かないのに!)
そう思いながら。
到極はただ屈辱に耐える事しか出来なかった。
「莉奈、行くぞ」
犬山が言った。
「お、おう……」
番が犬山に返事した。
不良たちに連れられて、番が去って行く。
その去り際。
「本当、もういいから」
番が到極に言った。
番と到極。
この日、二人の本心はすれ違ったままだった。
互いの本当の気持ちが伝わるのがいつになるのか。
それはまだ分からなかった。
到極はそのまましばらく公園でうずくまっていた。
◇ ◇ ◇
数日後。
シェアハウス、到極の部屋。
到極の携帯が突然鳴った。
到極が慌てて電話に出る。
「もしもし到極くん?」
電話の相手は蔦谷だった。
蔦谷星子。
到極と同じ2年2組のクラスメート。
校内外に広い交友関係を持っている生徒だった。
そしてクラスの中心的な立ち位置の女子でもあった。
(蔦谷さんから電話? 珍しいな)
到極は思った。
蔦谷が用件を告げる。
「到極くん。"番莉奈さん"って人、知ってる?」
蔦谷が言った。
「――! う、うん!」
到極が思わず頷いた。
「よかったぁ」
蔦谷は安堵したようだった。
蔦谷が続けて言う。
「その番さんって子が"怪しいって噂の集まり"に呼ばれて、行っちゃったみたいなの!」
「――!?」
到極は驚いた。
番と蔦谷。
この二人に直接の接点はかった。
大江ココ。
この少女を通じて二人は知り合いだった。
今回も、大江からの連絡を受けた蔦谷が到極に連絡をくれた、という流れだった。
冷静を装い、到極が聞く。
「で、でも、それをどうして僕に?」
「到極くんって"異能者"でしょ? 異能の力があればもし何かあっても番さんを助けられるかなって」
蔦谷が言った。
到極は異能の力を失った事を周りに公言していなかった。
それはチームL以外は数名しか知らない事実だった。
出来るだけ混乱を招かないため。
そんな理由からだった。
しかし今。
その秘密をばらす必要に迫られていた。
到極が考える。
(どうする、言うか? 今は異能を使えない事を)
だが。
「わかった、何とかするよ」
到極が言った。
「よかったぁ!」
蔦谷が言った。
「だから安心して待ってて」
到極が言った。
それから番の向かった場所を聞き、電話を切った。
(喧嘩なんて、生まれて初めてだ。嫌だなぁ……)
蔦谷の話によると。
怪しいと噂される集まりは、暗木という男が主催する集会らしい。
もしもその集会から番を取り戻すとなると、犬山やその手下、更には暗木と戦わなければいけなかった。
到極は考える。
(いつもなら相手の弱点を対策したり、相手の異能を逆に利用して戦っているけど……)
だが今回は違った。
(相手は異能者じゃないし、僕も異能を使えない)
蔦谷の話によると。
犬山もその手下も暗木も、異能者ではないらしい。
と、なると。
(素手と素手の戦いで、僕に勝ち目があるのか?)
シンプルな体力勝負。
さらに今回の相手には付け入る隙がない。
(どうすれば勝てる? どんな方法がある?)
(相手より自分が優っている点はどこだ!?)
ぱっと思いつくのは。
到極は不良たちよりも真面目に生きてきた。
犯罪など犯すことなく慎ましく生きてきた。
それくらいだった。
だが今回の対決において。
その真面目さが、何になるというのか。
真面目さでは、喧嘩には勝てない。
(どうすれば、どうすれば良いんだ!?)
結局この段階では。
到極はその答えを見つけられなかった。
(とにかく、何とかしないと!)
頭の中だけで考えていても仕方がない。
そう思い、到極はとある場所へと向かった。




