5.美少女と共同生活
模擬戦闘室の外。
「一体何が起こったの!?」
「まさか、異能が発現した?」
「でもあんな異能見た事ねぇぞ!」
観衆たちの多くは混乱していた。
「解放因子に見えるが、違うのか?」
B級の大男が聞いた。
「いや、合ってると思うぜ」
A級の青年が返した。
「だが、その異能は"エネルギー体を飛ばして遠くから敵を攻撃する異能"のはず。それでは"あの力"の説明がつかないが?」
大男が言った。
「射程だよ」
「射程?」
青年の言葉に、大男が聞き返した。
青年は言う。
「あいつは今まで異能が使えなかった。
だが、こうは考えられないか?
異能自体は以前から発現していた。
だが射程距離が0メートルだった、と」
エネルギーは発生していたが、それを飛ばせなかった。
そのエネルギーを、体から上手く引き離せなかった。
それが今まで異能が使えなかった真相だった。
だから今回、苅谷に対して直接触れる事で異能の力をぶつけることが出来た。
青年の話を聞いて、大男は納得した。
到極は今、異能の力を全身に纏った状態だった。
迫力も、いつもより何段階もアップしていた。
「ひ、ひぃっ〜!」
苅谷の敗北を予見し、取り巻きはティアを放って逃げ出した。
◇ ◇ ◇
模擬戦闘室。
瓦礫をかき分け、中から苅谷が出てきた。
「ふざけやがって、やってくれるじゃねぇか!」
苅谷が到極に歩み寄る。
接近戦だ。
だが。
ドスン! と。
到極の拳が苅谷を撃った。
「ぐはっ……!」
異能を纏った拳の威力は想像以上だった。
苅谷も反撃しようとするが、到極の拳や蹴りの前になす術がなかった。
そして。
戦いの中で段々と。
到極の拳に、全身の異能の力が集結していた。
それは観客たちでさえも感じとる事が出来た。
「何だ、あの力は?」
「あんな異能、見た事ない」
「あれってもしかして、第三艤装!?」
観客たちが言った。
【第三艤装】
全身の異能のエネルギーを、一点に凝縮する能力。
ティアや他の異能者も使えない、到極だけの異能だった。
到極が拳を振りかぶる。
これから放たれるのは、一撃必殺の拳。
その迫力に圧倒され、苅谷は涙目になっていた。
「ひぃっ、ゆ、許して――」
そう言おうとした時には、拳はもう目の前に迫っていた。
ドゴ――――ン!
到極の拳が苅谷を撃ち抜いた。
苅谷は倒れた。
戦闘不能である。
観客が沸いた。
部屋の外では大歓声が上がっていた。
到極はこの日、苅谷キョウタに勝利した。
◇ ◇ ◇
模擬戦闘室から出た所で到極を待っていたのは、大勢の観客だった。
「本当は強かったんだな、お前」
「すごいです、到極さん!」
「実は昔からいつかこうなると思ってたよ!」
観客が思い思いの声をかけた。
とは言っても、観客の中で初めから到極が勝利すると考えていた者はごく少数だった。
ほとんどは到極を見直した者、あるいは手のひらを返した者だった。
到極が観客の人混みを抜ける。
その先にはティアがいた。
ティアが到極に駆け寄った。
「……到極くんが傷ついた。私のせいで」
「ティアのせいじゃないよ」
ティアの言葉に、到極が優しく返した。
穏やかな雰囲気が、二人を包んでいた。
そんな二人の元に近づく一人の青年。
「ちょっといいかい、二人とも」
先程のA級の青年が声をかけて来た。
「少しそこで話さないか」
青年が廊下の先を指差して言った。
◇ ◇ ◇
到極とティアは青年と共に、本部内の休憩スペースに来ていた。
「いやー、本当におめでとう、到極くん」
並んだ自販機の前で青年が言った。
「好きなの押しなよ、奢るからさ」
青年が自販機に千円を入れて行った。
到極は遠慮したが、青年に押し切られた。
「もちろん、ガールフレンドの分もね」
青年がティアを見て言った。
一本ずつジュースを頂く到極とティア。
「あの、ところで貴方は?」
到極が聞いた。
「おっと、自己紹介がまだだったな。俺、こう見えても、結構強い異能者なんだぜ」
青年が言った。
(結構強いって、チームJくらいかな?)
到極は漠然と思った。
実際はその予想の何倍も上を行くことを、到極はまだ知らなかった。
青年の目的は異能に関する会話だった。
射程距離ほぼ0という、変則的な【第一艤装】。
その特殊さが気になったようだった。
青年と到極は異能について語り合った。
語り合う、といっても数分だったが。
だが到極にとってもこの会話は、自分の異能をよく理解する上で参考になった。
青年は青年で忙しいようで、次の用事があると言い去って行ってしまった。
(中々、為になる話だったな)
到極は思った。
だが。
(あ、結局名前聞き忘れた……)
青年が去ってから、その事に気付いた。
◇ ◇ ◇
「探しましたよー、二人ともー」
到極とティアに、遠くから声が聞こえた。
声の主は赤井だった。
「先ほど手続きが終了して、ティアさんはE.D.O本部の所属になりました。あとはチームですね」
赤井が続ける。
「ティアさん、どこのチームに入りたいか、希望はありますか?」
E.D.O本部内には全50チーム。
階級が上に行くほど給料も高いなど、待遇はチームによって違った。
「もちろん、今すぐ決めなくていいですよ。よく考えてからで――」
「決めました」
赤井の説明を聞き、ティアが言った。
「ええっ! もうですか?」
ティアが頷いた。
「私、到極くんと同じチームがいい」
ティアが言った。
それを聞いて、赤井は少し嬉しそうだった。
「了解、手続きをしておきますね。あとは――」
赤井が持っていた袋を到極に渡した。
「これ、ティアさんの着替えと最低限の日用品です。あとの必要な物はそちらでお願いします。お手伝いしたいんですけど、私も仕事が」
E.D.Oの異能者には、チームごとに寮のような施設が用意されていた。
現在チームLは到極一人だった。
それが今、二人目が加入した。
と、いうことは。
(今日からティアと二人きりで生活するって事!?)
それを理解した瞬間、到極は再び驚愕した。
この日から、到極とティアの共同生活が始まった。
【第1章 出会い編 序盤戦 完】




