4.初めての異能バトル
模擬戦闘室。
その周りに大勢の異能者たちが集まって来ていた。
模擬戦の様子は窓から見ることが出来る。
苅谷と"異能を使えない少年"が戦う。
しかも、噂の天才少女を懸けて。
そんなふれ込みが本部内に広まっていた。
模擬戦闘室には到極と苅谷の二人だけ。
室内に物は無く、無機質だった。
外からの妨害はもちろん禁止。
対戦はどちらかが降参するか、戦闘不能になるまで続く。
数メートル離れて、二人は向かい合っていた。
苅谷は堂々と。
到極はおどおどしながら。
「すごい数だろ、この観衆! みんなお前が負けるのを見に来たんだぜ」
「お前なんかより俺たちの仲間になった方が、ティアのためにもなるさ!」
「勝負が終わる頃、お前は泣いて許しを乞うことになっているだろうな」
苅谷がニヤニヤしながら言葉で攻撃した。
到極は言い返せなかった。
恐怖に耐え、拳を握って前に構えた。
『――3、2、1』
電子音声がカウントダウンを開始した。
『――スタート!』
試合開始の合図が鳴った。
「はぁあああああ!」
それと同時に苅谷が異能を発動した。
苅谷の筋肉や骨格が変わっていく。
アーク名 獣化(トムソンガゼル)
動物の性質を得ることが出来る異能。
苅谷はその【第一艤装】を発動した。
苅谷の体がガゼルの性質によって強化された。
だが完全ではなく、角や蹄など、未発達の部分も多かった。
「うぉおおおおおー!」
苅谷が雄叫びを上げながら到極に突進してきた。
間一髪、直撃は免れたものの。
「くっ……!」
到極は腹部にダメージを負った。
脇腹を押さえながら、構える到極。
到極の敗北は、時間の問題に思えた。
◇ ◇ ◇
模擬戦闘室の外では。
「うわー、一方的」
「異能も使えないような奴に、勝ち目は無いだろ」
「苅谷が勝つのも時間の問題だな」
観衆たちが散々な物言いをしていた。
ティアは2階の窓から到極を見守っていた。
すぐ後ろには苅谷の取り巻き。
ティアが逃げ出さないように見張っていた。
そんな中。
二人の男が模擬戦を観戦しに来た。
二人はティアの近くに立ち止まる。
「お、やってるねぇ」
「どっちが勝つと思う?」
窓から対戦の様子を見て、二人が言った。
一人はスタイルの良い青年、階級はA相当。
もう一人は大男、階級はB相当だった。
大男の質問に、青年は少し考えた。
そして。
「あっち、あっちの子」
観衆の多くが苅谷の勝利を確信する中。
青年は到極の方を指差した。
◇ ◇ ◇
模擬戦闘室。
到極が距離を取り、右手を前に出した。
ティアが解放因子を発動した時のように。
(僕だって、異能を発動してみせる!)
到極が右手に力を込める。
だが。
手からは何も出なかった。
到極は自分の才能の無さに失望した。
(くっ、やっぱり駄目なのか)
その様子を見て苅谷が笑う。
「ぷっ、ぐはははははっ!」
到極は諦めずに何度も手を前に出す。
だが結果は変わらなかった。
「何だよ、それ。異能者の真似事か?」
苅谷が突進メインの戦い方から、拳や蹴りメインの戦い方に切り替える。
「おら、おら!」
苅谷の拳や蹴りが到極を襲う。
到極は攻撃を躱しながら、何とか耐えていた。
だが、次第に。
躱し切れなかった打撃によるダメージが、到極の体に蓄積してきた。
ボロボロになり、遂に倒れる到極。
だが何とか立ち上がろうと藻掻く。
その様子を見て。
「そろそろ終わらせてやるよ」
そう言って、苅谷が距離を取った。
一番自信のある突進攻撃でトドメを刺す。
その為の助走だった。
到極が窓の方を見る。
窓の向こうにはティアがいた。
相変わらず無表情だったが、その奥にある不安を到極は受け取った気がした。
(そうだ、ティアは今きっと不安を感じてる)
海で倒れているのが発見されてから、まだ2日。
身体も心も、まだ完全に回復していない。
目が覚めたら、記憶が無いという不安。
頼る人がいないという不安。
会ったばかりの乱暴者に、連れて行かれるかも知れないという不安。
(そんなティアを、僕は助けたい!)
到極はそう思った。
(余計な事なんて考えんな!)
苅谷キョウタを懲らしめたい。
早く異能が使えるようになりたい。
そんな考えが、無意識のうちに到極の心を乱していたかも知れなかった。
(ティアを助ける、その為にはどうしたら良いかだけを考えろ!)
そう思った時点で。
すでに到極の異能は発動していた。
◇ ◇ ◇
立ち上がった到極に、苅谷は狙いを定めていた。
苅谷が足で何度か地面を引っ掻く動作をした。
(これで終わりだ!)
苅谷が到極に向かって突進した。
ものの数秒で到極の目の前に到達した。
そして。
パシン。と。
到極が苅谷の突進を往なした。
「えっ?」
苅谷は一瞬、何が起こったか分からなかった。
進む方向が変わり、苅谷はそのまま壁に激突した。
壁を破壊し、ようやく止まる苅谷。
到極の全身には異能の力がみなぎっていた。




