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異能と青春  作者: 成海由華
出会い編1
33/100

3.初めての食事

 E.D.O本部。

 食堂。


「さっきの異能、本当にすごかったよ」


 到極が言った。


「……よくわからない」


 ティアが言った。


 到極とティアは『異能訓練室』に集まってきた人の群れをくぐり抜け、本部内の食堂に来ていた。

 といっても、噂は既に食堂にも届いていたが。


「あの子が噂の子よ」

「すげー可愛い」

「可愛くて強いとか、もう反則だろ!」


「ところで、隣の人は?」

「誰、アイツ? あんな奴いたっけ?」

「確か到極、とかいう奴じゃなかったか?」

「あー、あの"異能が使えない"っていう!」

「そうそう、最下位チームの!」


 ひそひそ声は聞こえていたが、到極は無視した。


 到極の前には生姜焼き定食。

 ティアの前にはシチューが並んでいた。


 注文の仕方も、もちろん到極が教えた。


「いただきます」

「……いただきます」


 到極にならって、ティアも手を合わせて言った。


 生姜焼きを頬張る到極。

 対して、ティアは。

 フォークやスプーンを使ってはみるものの、上手く使えず、口に運ぶ手前でシチューをテーブルにこぼしていた。


「もしかして、()()()、分かんない?」


 到極が聞いた。

 ティアは無言で頷いた。


 到極はテーブルを拭き、そして。


「はい、あーん」


 代わりにシチューを掬い、ティアの顔の前まで運んだ。


「……ん」


 ティアがシチューを飲み込む。


 その様子を見ていた野次馬たちが言う。


「おいおいおい、二人は一体どんな関係なんだ」

「もしかして"恋人同士"、とか。きゃーっ///」


 そんな声が聞こえたが、到極は無視した。


 食事中、到極は思う。


(記憶喪失って、こんな感じだったっけ?)


 記憶喪失は自分の名前や思い出を忘れるのみで、習慣まで忘れる事は稀である。

 ティアの記憶の違和感に、この時の到極は気づく事が出来なかった。


 到極は照れながらも、ティアとの食事を全うした。


「お水もらってくる。ちょっと待ってて」


 到極が言った。

 ウォーターサーバーまで行き、水を汲む。

 席に戻ろうとする到極。


 そんな彼に、三人の異能者が近づいて来た。


「よお〜、到極」


 三人組のリーダー格が言った。


「苅谷くん……」


 到極はその人物を見て、少し顔が引き攣った。


 苅谷キョウタ。13歳。

 到極にいつも突っかかって来る少年。

 身長は到極よりも高く、チームはK相当。

 早い話が、典型的ないじめっ子だった。


 後の二人は取り巻きだった。

 一人は小太りの男。

 もう一人は髪の長い女だった。


「食堂って"異能が使えない"お前でも入ってよかったんだな」


 苅谷が到極を馬鹿にして言った。

 そんな話をしに来たのか、と到極は呆れた。


「ごめん、苅谷くん。僕、人を待たせてるから」


 そう言って立ち去ろうとする到極。

 だが。


「チッ!」


 自分がスルーされたみたいで、苅谷はムカついた。


 苅谷は到極の肩を掴んで引き留めると、取り巻きの持っていたコップを手に取り、その水を勢いよくかけた。


 水が顔に命中し、ビショ濡れになる到極。


「今話題になってる"ティア"って新入りの事、お前何か知ってるだろ」


 そう言って、苅谷が到極を睨む。

 ティアの噂は苅谷の耳にも届いていた。


「し、知らないよ!」


 到極が言った。

 だが、口ではそう言っても、目はわずかにティアの居るテーブルを向いてしまっていた。

 到極は嘘をつくのが苦手だった。


「ふーん、そっちか」


 到極の目線を見て。

 三人はティアのいる方へ向かった。



――――――。


――――。


――。



 ティアは先程の席で到極を待っていた。


「お前がティアか?」


 苅谷が声をかけてきた。


「……うん。あなたは?」


 ティアが言った。

 だが苅谷は答えなかった。


「へぇ、中々可愛いじゃん」


 苅谷がティアの顔を見て言った。

 そして。


「お前さ、俺のチームに入れよ」


 苅谷はそう続けた。


 新入りの異能者がどのチームに所属するかは本人の意思が尊重される。

 苅谷が勝手に決めていい事ではなかった。


「ちょっと待ってよ、それはティアが決める事で……」


 苅谷の後ろから、到極が駆けつけて言った。

 だが。

 到極は取り巻き二人に押さえられた。


(到極くん……)


 ティアは到極を心配した。

 その一方で。


「うっせぇ奴だな。さ、俺たちは邪魔が入らない所で話そうか、二人きりで」


 そう言うと苅谷は強引にティアの手を掴み、どこかに連れて行こうと引っ張った。


「い、痛いっ……」


 抵抗するティア。

 床に落ち割れる皿。

 到極から滴る水で濡れた床。

 苛立ちと笑顔の混ざった苅谷の表情。


 そんな光景を見て。




「やめてよ、苅谷くんっ!!」




 到極が叫んだ。


「あ゛ぁ?」


 苅谷が到極を睨む。

 だが到極も怯まなかった。

 その様子を見て。


「異能も使えないお前が、俺に歯向かってんじゃねーよ!」


 苅谷も言った。

 だが、今の到極に異能が使えるかどうかなんて関係ない事だった。

 だからこそ。


「ティアを離して!」


 到極が強い眼差しで言った。

 到極が苅谷にここまで抵抗するのは初めてだった。


「いいぜ、そんなに言うなら"模擬戦"で勝負をつけようじゃねぇか」


 苅谷が言った。


 模擬戦とは。

 異能を用いて戦う正式な試合のことだ。


 二人は模擬戦闘室に移動した。

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