3.初めての食事
E.D.O本部。
食堂。
「さっきの異能、本当にすごかったよ」
到極が言った。
「……よくわからない」
ティアが言った。
到極とティアは『異能訓練室』に集まってきた人の群れをくぐり抜け、本部内の食堂に来ていた。
といっても、噂は既に食堂にも届いていたが。
「あの子が噂の子よ」
「すげー可愛い」
「可愛くて強いとか、もう反則だろ!」
「ところで、隣の人は?」
「誰、アイツ? あんな奴いたっけ?」
「確か到極、とかいう奴じゃなかったか?」
「あー、あの"異能が使えない"っていう!」
「そうそう、最下位チームの!」
ひそひそ声は聞こえていたが、到極は無視した。
到極の前には生姜焼き定食。
ティアの前にはシチューが並んでいた。
注文の仕方も、もちろん到極が教えた。
「いただきます」
「……いただきます」
到極に倣って、ティアも手を合わせて言った。
生姜焼きを頬張る到極。
対して、ティアは。
フォークやスプーンを使ってはみるものの、上手く使えず、口に運ぶ手前でシチューをテーブルにこぼしていた。
「もしかして、食べ方、分かんない?」
到極が聞いた。
ティアは無言で頷いた。
到極はテーブルを拭き、そして。
「はい、あーん」
代わりにシチューを掬い、ティアの顔の前まで運んだ。
「……ん」
ティアがシチューを飲み込む。
その様子を見ていた野次馬たちが言う。
「おいおいおい、二人は一体どんな関係なんだ」
「もしかして"恋人同士"、とか。きゃーっ///」
そんな声が聞こえたが、到極は無視した。
食事中、到極は思う。
(記憶喪失って、こんな感じだったっけ?)
記憶喪失は自分の名前や思い出を忘れるのみで、習慣まで忘れる事は稀である。
ティアの記憶の違和感に、この時の到極は気づく事が出来なかった。
到極は照れながらも、ティアとの食事を全うした。
「お水もらってくる。ちょっと待ってて」
到極が言った。
ウォーターサーバーまで行き、水を汲む。
席に戻ろうとする到極。
そんな彼に、三人の異能者が近づいて来た。
「よお〜、到極」
三人組のリーダー格が言った。
「苅谷くん……」
到極はその人物を見て、少し顔が引き攣った。
苅谷キョウタ。13歳。
到極にいつも突っかかって来る少年。
身長は到極よりも高く、チームはK相当。
早い話が、典型的ないじめっ子だった。
後の二人は取り巻きだった。
一人は小太りの男。
もう一人は髪の長い女だった。
「食堂って"異能が使えない"お前でも入ってよかったんだな」
苅谷が到極を馬鹿にして言った。
そんな話をしに来たのか、と到極は呆れた。
「ごめん、苅谷くん。僕、人を待たせてるから」
そう言って立ち去ろうとする到極。
だが。
「チッ!」
自分がスルーされたみたいで、苅谷はムカついた。
苅谷は到極の肩を掴んで引き留めると、取り巻きの持っていたコップを手に取り、その水を勢いよくかけた。
水が顔に命中し、ビショ濡れになる到極。
「今話題になってる"ティア"って新入りの事、お前何か知ってるだろ」
そう言って、苅谷が到極を睨む。
ティアの噂は苅谷の耳にも届いていた。
「し、知らないよ!」
到極が言った。
だが、口ではそう言っても、目はわずかにティアの居るテーブルを向いてしまっていた。
到極は嘘をつくのが苦手だった。
「ふーん、そっちか」
到極の目線を見て。
三人はティアのいる方へ向かった。
――――――。
――――。
――。
ティアは先程の席で到極を待っていた。
「お前がティアか?」
苅谷が声をかけてきた。
「……うん。あなたは?」
ティアが言った。
だが苅谷は答えなかった。
「へぇ、中々可愛いじゃん」
苅谷がティアの顔を見て言った。
そして。
「お前さ、俺のチームに入れよ」
苅谷はそう続けた。
新入りの異能者がどのチームに所属するかは本人の意思が尊重される。
苅谷が勝手に決めていい事ではなかった。
「ちょっと待ってよ、それはティアが決める事で……」
苅谷の後ろから、到極が駆けつけて言った。
だが。
到極は取り巻き二人に押さえられた。
(到極くん……)
ティアは到極を心配した。
その一方で。
「うっせぇ奴だな。さ、俺たちは邪魔が入らない所で話そうか、二人きりで」
そう言うと苅谷は強引にティアの手を掴み、どこかに連れて行こうと引っ張った。
「い、痛いっ……」
抵抗するティア。
床に落ち割れる皿。
到極から滴る水で濡れた床。
苛立ちと笑顔の混ざった苅谷の表情。
そんな光景を見て。
「やめてよ、苅谷くんっ!!」
到極が叫んだ。
「あ゛ぁ?」
苅谷が到極を睨む。
だが到極も怯まなかった。
その様子を見て。
「異能も使えないお前が、俺に歯向かってんじゃねーよ!」
苅谷も言った。
だが、今の到極に異能が使えるかどうかなんて関係ない事だった。
だからこそ。
「ティアを離して!」
到極が強い眼差しで言った。
到極が苅谷にここまで抵抗するのは初めてだった。
「いいぜ、そんなに言うなら"模擬戦"で勝負をつけようじゃねぇか」
苅谷が言った。
模擬戦とは。
異能を用いて戦う正式な試合のことだ。
二人は模擬戦闘室に移動した。




