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異能と青春  作者: 成海由華
出会い編1
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1.異能のある世界

 バスに乗り帰宅途中の一人の少年。

 その少年の頭の中で。

 今までに浴びせられた悪口がリフレインしていた。




「異能も運動も勉強も駄目。何にも出来ないじゃん。何なら出来るの、お前?」


「貴方だけですよ、この組織でまだ異能が使えないのは」


「失敗作!」「欠陥品!」「組織のお荷物!」


「あー、万年最下位"チームL"の到極とうごく君だぁ!」


「才能ないよ、君」


「邪魔なんだよ、お前」


「いいかげん諦めて実家帰ったら?」




 だからかも知れない。


 降りるはずのバス停に気付かず、しばらく乗り過ごしてしまったのは。


 慌てて停車ボタンを押す少年。

 程なくしてバスは停まった。


 季節はずれの『贈ヶ丘おくりがおか海水浴場前』で。


 まだ海開きもしていない。

 そんな所で下車する人間は少年以外にいなかった。

 当然、動く人影も無かった。


(はぁ、思わず降りちゃったけど、これからどうしよう……)


 海を見ながら途方に暮れる少年。


 少年の名は到極縁とうごくゆかり。13歳。

 彼は異能者でありながら異能が使えなかった。


 しばらく海を眺めていると、砂浜に"何か"が打ち上げられている事に気づいた。


(何だろう、あれ……)


 少年は良く目を凝らした。

 そして気付いた。


 その"何か"が倒れている人だという事に。


「――っ!?」


 気づいた瞬間、少年は走り出していた。


(早く助けないと!)


 少年は走る。

 石の階段を駆け降り、砂浜を。

 時折、転びそうになりながらも。


「だ、大丈夫ですか!」


 倒れている人物に駆け寄り、少年が言った。

 幸い、息はあった。

 返事は無いながらも、呼吸し、それによって肩や胸部が小さく動いていた。


「――――っ!?」


 その様子を見て、少年は安堵ではなく()()した。

 なぜなら。




 それは、倒れていた人物が"裸"だったからである。




 2065年4月。

 この日。

 異能者の少年・到極縁とうごくゆかりは、謎の美少女・ティアと出会った。




【第1章 出会い編】




(とりあえず海から出して暖めなきゃ)


 到極は波打ち際で揺蕩(たゆた)う少女を抱えて、波の来ない所まで運んだ。


 4月の海は冷たく、少女の体は冷え切っていた。


 到極はとりあえず自分の着ていた上着を少女にかけた。

 だがあまり意味はなかった。


 到極は次に、少女を海の家に連れて行く事を思い付いた。


 海の家まで数メートル。

 到極は少女を抱えて歩いた。


 店は閉まっていたが扉を破壊して入った。


 幸運な事に、店内にはタオルもストーブも衣類もあった。

 到極はストーブを焚いて少女を暖め、タオルで身体を拭き、着替えを着せた。


 少女は綺麗だった。

 歳は到極と同じくらい。

 神秘的で儚げな雰囲気を纏っていた。




 気が付くと外は夜で、空には月が出ていた。


 そこから先のことを、到極はよく憶えていない。

 思い出せるのは断片的な記憶だけである。




『ティアを守って』


 少女が言った。

 そこは破壊し尽くされた町だった。


『願いを叶えてやろう』


 何かが言った。

 到極の目の前には天使や悪魔の姿。

 実在しないはずの存在が、そこにはいた。


『また会おう……!』


 誰かが言った。

 空には巨大な竜。

 その竜が到極を睨んでいた。




 この日の記憶を完全に思い出す日がいつになるのか、それはまだ分からなかった。




 ◇ ◇ ◇




 2日後。

 E.D.O本部内の医務室。


(……ここは?)


 医務室のベッドの上で到極は目を覚ました。

 到極の目覚めを感知し、機械が人を呼んだ。


 到極が辺りを見回す。

 すると。


(なんで僕のすぐ横に"美少女"がいるんだっけ?)


 到極は気づいた。

 ベッドの横の椅子に座った少女の存在に。

 到極と同じくらいの年齢の。

 シンプルな服を着た、ショートヘアーの少女。

 神秘的で儚げな雰囲気を纏った少女。


(えっと、この子は確か……)


 到極はその少女が"海で倒れていた人物"である事を思い出した。


(よかった、無事だったんだ……)


 到極はとりあえずそう思った。

 医務室の扉が開き、職員の女性が現れた。


「おはようございます、到極くん。気分はいかがですか?」


 女性の社員証には"赤井"と書かれていた。


「えっと、大丈夫です。ただ昨日の事をよく憶えてなくて。僕はどうしてここに?」


 到極が聞いた。

 到極が思い出せるのは海に倒れていた少女を助けた所までで、そこから先は断片的だった。


「昨日? それはおそらく一昨日ですね。到極くん、丸一日寝ていたんですよ」


 赤井にそう言われて、到極が医務室のデジタル時計を確認する。

 確かに日付が一日飛んでいた。

 赤井が続ける。


「到極くんは一昨日の夜、中央ビルの前で倒れていたんです。その女の子と一緒に。それを通行人が発見して、今に至るという訳です」


(中央ビルの前、僕は何でそんな所に? 普通なら救急車を呼びそうだけど。気が動転して、自力であの子を病院まで運ぼうとしたのか?)


 到極は少し考えたが、答えは出なかった。

 と、いうよりも。

 答えを出すよりも先に、聞きたいこと、聞かねばならない事があった。


 そうですか。と赤井に返した後、到極が隣の少女の方を向く。


「あの、君は?」


 到極が少女に向かって言った。

 だが少女は答えなかった。


「その子、何を聞いても無言か「わかりません」だけなの。自分の名前も、住所も、分からないみたい」


 赤井が言った。

 少女は記憶喪失だった。


「到極くん。その子のこと、何か分かる事ない?」


 赤井が聞いた。

 到極は記憶の中を探したが、思い出されるのは断片的なものだけ。

 だが、その中で唯一。


『ティアを――』


 ふと、その言葉が呼び起こされた。


「ティア。ティアって言ってたと思います」


 到極が言った。


「ティア。それが、私の名前……?」


 少女が呟いた。

 少女は戸惑いながらも、その名を受け入れた。

 少女の名前が判明し、赤井も安心した様子だった。


 それから三人は。

 それぞれが確認しておきたい事を聞きあった。

 そして全ての確認が終わり、赤井が医務室を出ようとする。

 だが、扉の少し手前で立ち止まった。


「あ、そうそう!」


 と言って、赤井が到極の元に引き返して来た。

 そして言う。


「到極くんが発見された時、体から『異能の痕跡』が検出されたそうです」


 異能の痕跡。

 異能を発現した者に現れるサインの事だった。

 と、いうことは。


「異能デビューおめでとうございます、到極くん」


 赤井が言った。

 それを聞いて、到極はこの日一番驚いた。

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