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異能と青春  作者: 成海由華
手記争奪編
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3.とある休日

「ごめんなさい、私の用事に付き合わせてしまって」


 ティアが言った。

 2065年、夏の終わりのことだった。

 到極とティアは最寄りのショッピングモールへ来ていた。


「全然大丈夫だよ。ちょうど暇だったし」


 到極が言った。


 ティア。13歳。

 ショートヘアーの美少女は、今日もクールだった。

 無口で無表情でミステリアス。

 それが彼女を表すのに一番適した表現だといえた。

 いつも室内で本を読んでいることの多い彼女だが、今日は到極と買い物できるとあって、その表情はほんの少しだけ楽しそうに見えた。


「まずはノートを買いたい」


「オッケー、じゃあ文房具コーナーから見てこうか」


 到極、ティア、桜、隼人、礼夏。

 五人は同じ中学の二年生だった。

 到極たち四人が二組。礼夏が三組だった。


 東京都贈ヶ丘おくりがおか中学校。

 生徒の自主性を重視した自由な校風で、周辺の中学校六校の中で異能者に対する差別や偏見が最も少なかった。

 ゆえに異能者の生徒が六校の中で最も多かった。

 毎年秋には、六校合同の行事『六園祭ろくえんさい』が行われることでも有名だった。


 そんな学校で。

 ティアは学年一位の成績をおさめていた。


 今日は授業で使う勉強道具を買いに来ていた。


 文房具コーナーに着くと、ティアはノートやペンを迷うことなくカゴに入れていった。

 どれも飾り気のない、会社の机に置いてありそうなデザインの物ばかりだった。


「それで良いの?」


 到極が聞いた。


「えぇ、これが一番使いやすいから」


 ティアが答えた。


 ティアらしいな、と到極は思った。

 ティアは服装もシンプルなデザインのものばかりだし、部屋には余計なものが一切置かれていなかった。

 桜や礼夏とは、真逆の好みといえた。


「次は服を見たい」


 そう言ってティアは、ショッピングモール内の服屋を訪れた。


 ティアは()()()()()から、秋物の服を一切持っていなかった。


 そもそも春も夏も、家でも外でも、ティアは中学の制服姿でいることが多かった。

 五人の中で、一番持っている服の種類が少ないのがティアだった。


「秋物だけといわず、他にも買ってみたら?」


 到極が言った。


「いま持っているもので、充分だから」


 そう言って、ティアは最小限の買い物で店を出た。




 ◇ ◇ ◇




 店を出ると、小さな男の子がキョロキョロしながら一人で歩いていた。

 どうやら迷子のようだった。

 迷子の男の子に到極が声をかけた。


「どうしたの? 家族とはぐれちゃった?」


 男の子は怖がって何も言わなかった。

 到極は男の子が持っていた人形に目をつけた。


「それ『妖怪戦隊ヤミレンジャー』のヤミレッドだよね。ヤミレンジャー好きなの?」


 男の子が小さくうなずいた。

 男の子の顔から少しだけ不安が消えた。


「あそこで、迎えにくるのを待ってようか」


 到極はそう言って、近くのベンチに腰掛けた。

 男の子と一緒に。


「ティア、店員さんにこの事を伝えてもらえる?」


「わかった」


 ティアは迷子センターに駆け足で向かった。




「ヤミレンジャーかっこいいよね」


「やっぱりレッドが一番好き?」


「巨大ロボは何号が好き?」




 到極は男の子を不安にさせないように、できるだけ男の子が興味のありそうな話題で時間をつないだ。


 数分後、迷子のお知らせがアナウンスされ、母親がベンチに迎えにきた。


 母親は二人に頭を下げ、男の子を連れて歩いていった。

 男の子が途中で振り返って、二人に手を振った。

 到極は笑顔で手を振り返した。

 ティアも到極をまねて、小さく手を振った。




 ◇ ◇ ◇




「流石ね」


 ティアが言った。


「当然のことをしただけだよ」


 到極が返した。


 こういう所なのかもしれない。

 到極くんが桜や礼夏に好かれている理由は。

 ティアはそう思った。


 到極縁とうごくゆかり。14歳。

 中性的な見た目は確かに魅力的だが、顔立ちやスタイルだけなら隼人の方がイケメンといえた。

 それでも隼人以上に周囲の女子たちから人気があるのは、到極自身の性格によるものだろう。


(桜さんはいうまでもなく到極くんのことが好きなのだろうけど……)


(礼夏も、到極くんにツンツンした態度をとるのは、"好きの裏返し"という事らしいし……)


 ティアはクラスの女子たちの事も思い出していた。


(学級委員長の夏目さんも、一組の蒼井さんも……)


 それだけではない。


(異能者仲間の水谷さんも、到極くんはみんなに信頼されてる)


 ティアが到極の方を向いた。

 それに気づいた到極はやさしく微笑んだ。


 ティアは人を好きになった事がない。

 まだ誰かに恋愛感情をいだいたことがなかった。

 だがもしも、今後誰かを好きになり付き合うことがあるというなら。

 その時は、到極くんみたいな人がいいな。

 と、ティアは思った。

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