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異能と青春  作者: 成海由華
出会い編3'
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4.岩田甲骨

 気がつくと見知らぬ倉庫にいた。


 それが到極の正直な感覚だった。


 桜の携帯を拾ってから、到極には一切の記憶がなかった。

 どうやってここに来たのか。

 どうして高塚が倒れているのか。

 そして。


 どうして桜に抱きしめられているのか。


 到極には何一つ分からなかった。

 とりあえず。


「そろそろ離してもらってもいい? 桜」


 そう言った。


「すっ、すいません到極さん!」


 桜は慌てて手を離した。

 到極が振り向きながら言う。


「ねぇ桜、少し聞いても……って、っ!?」


 到極は振り向くと同時に動揺した。


「桜、それ!」


 到極が慌てて目を逸らす。


「えっ?」


 桜が到極の視線のあった先、自分の胸部を見る。

 そこには破れた服とそこから見える白い肌。

 ブラまで露わになっていた。


「きゃっ!」


 桜が慌てて身体を手で隠し、しゃがみ込む。

 頬を赤らめ、涙目になる桜。


「はい、これ」


 到極はそう言って、自分の着ていたパーカーを桜に渡した。


「あ、ありがとうございますっ」


 桜は急いでパーカーを受け取り、袖を通した。

 チャックを閉め、到極に言う。


「もう大丈夫ですよ」


 その声を聞き、到極が振り返る。


「どう、ですか……?」


 パーカーは桜にとっては少し大きめで、手の甲が袖で隠れていた。

 いわゆる"萌え袖"と呼ばれる状態だった。

 無論、大きかったのは袖だけでなく丈もだった。


 その姿はとても可愛らしく、到極は思わず見入ってしまっていた。


「あまり見つめられると、少し恥ずかしいです……」


 桜が再び顔を赤らめた。


「ご、ごめん。すごく似合ってたから……」


 到極が言った。

 二人はそのあと、互いに少し無言だった。


 少し経った後、到極は先ほど疑問に思っていた事を桜に確認した。

 桜は丁寧に事の顛末を説明した。


「本当に、何も憶えていないんですか?」


 桜が聞いた。

 到極は首を縦に振って答えた。

 その疑問の答えはすぐに出せそうには無かった。

 とりあえずこの場は保留にし、高塚を助けることを優先した。


 桜が異能アークを発動し、高塚を回復させる。


「……っ痛てぇ」


 そんな言葉と共に高塚が目を覚ました。

 高塚が二人を見て言う。


「俺の負けだよ、桜を俺のもんにするのは諦める」


 別に高塚くんが勝っていても、貴方のものにはならなかったけど。と桜は思った。

 同時に、でもこういうルールに変に律義なところは高塚くんらしいな。とも思った。


 桜が言う。


「高塚くん、これからどうするつもりですか」


「どうするって、こんな事しちまったしな」


「本当は岩田くんの所に戻りたいんじゃないですか」


 桜が聞いた。


「――! もし出来るなら、そうしてぇよ。でも」


「もし本当に岩田くんのグループに戻りたいなら、私協力します」


「本当か?」


 高塚が聞いた。


「はい、もちろ――」


 その時だった。


「見つけたぜ、隣太郎!」


 倉庫の外から大きな声が聞こえた。

 声の主は到極の開けた穴から倉庫に入ってきた。


「い、岩田さん」


 岩田甲骨いわたこうこつ

 西中学校の二年生。

 高塚以上の長身のイケメン。

 黒のタンクトップがトレードマーク。

 西中学校の不良を集め、グループを結成。

 その集団のトップに立つ男だった。


 倉庫内の様子を見て岩田が言う。


「って。俺が来るまでもなかったか」


 岩田が高塚に向かって歩き出す。


「岩田くん、誤解なんです。高塚くん本当は――」


 桜が高塚をフォローする。

 岩田が桜の横を通り過ぎる時だった。


「――分かってる」


 岩田が桜の頭をポンポンと撫でながら言った。

 そして高塚の正面に立った。


「けどよ、俺達には俺達のやり方があるんでな」


 そう言って岩田は拳を握った。

 次の瞬間、岩田と高塚の拳が交差した。


 たった数秒。

 だがその数秒で、岩田が十数発、高塚が一発の拳を互いに当てた。

 高塚が地面に倒れ込む。


 その様子を見ていた到極は思った。


(やっぱり不良は怖いなぁ……)


 到極の中で異能バトルと異能無しの喧嘩は全く違うものだった。

 そして到極には断然、後者の方が恐怖だった。


 高塚がすぐに立ち上がり、岩田に頭を下げた。


「本当に、すいませんでした!」


「戻って来い」


 岩田が言った。


「いいんすか! だって俺、岩田さんを裏切ろうと」


「そんぐらい威勢のいい奴の方が、俺は好きだぜ」


「兄貴!」


 高塚が憧れの眼差しで岩田を見ていた。

 岩田が到極と桜の方を見る。


「到極、桜、ウチのが迷惑かけたな。悪かった」


「だ、大丈夫です。一応」

「私も大丈夫です」


 到極と桜が言った。


「元気そうだな」


 岩田が桜に言った。


「はいっ♪」


 桜がにこっと笑って答えた。

 岩田が到極に言う。


「到極、やっぱりお前に桜を任せて正解だった。俺が一緒に居ても、桜をこんな笑顔には出来なかっただろうからな。これからも、桜を頼む」


「うん、もちろんだよ!」


 到極が答えた。

 ただし、と前置きして岩田が言う。


「桜を泣かせる事があったらその時は」


 シュン! と。

 岩田の拳が到極の顔面の直前で止まった。


「俺がお前をぶっ飛ばす。分かってるよな」


 岩田が恐い笑顔で言った。


「き、気をつけるよ」


 到極は引き攣った笑顔で答えた。




 ◇ ◇ ◇




 岩田、高塚と別れを告げ。

 シェアハウスに帰る途中の到極と桜。


「それにしても、僕はどうやって桜の居る場所までたどり着けたんだろう?」


 到極が言った。

 それが《昇華》と呼ばれる現象の片鱗によるものである事を、到極たちはまだ知らない。

 だが。


「決まっているじゃないですか」


 まるで分かりきった事かのように桜が言った。


「え、何?」


 到極が聞いた。

 桜が言う。




「きっと"愛の力"ですよ、二人の」




 到極のパーカーを着て。

 到極を見つめながら。

 桜は笑顔でそう言った。


(ま、そういう事にしておくか)


 到極は何か言い返そうかと思ったが、それは野暮な気がした。


(桜が笑顔なんだし、それでいいか)


 到極はそう思った。


 二人はシェアハウスまでの道のりをゆっくり歩いて帰った。




【第3章 出会い編3 終盤戦 完】

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