2.捜索
(桜がいない!?)
その事実に到極は激しく動揺していた。
はぐれてしまったのか?
とにかく、早く桜を探さなければ。
そう思い走り出そうとする、が。
(いや、待て)
到極は止まった。
罠の可能性はないか?
到極はそう思った。
勿論、ただはぐれてしまっただけかも知れない。
だが仮に、桜が何者かに連れ去られていたとして。
この件に『ティアを狙う組織』が関係していたら?
敵の真の目的がティアだったら?
桜を探している隙に、ティアを捕らえようと目論んでいる可能性もあった。
狙われているティアと、普通に生活していた桜。
どちらが標的の可能性が高いか。
ただの迷子か、誘拐か、敵の策略か。
到極は考える。
そして。
「ここは……ひとまず帰ろう」
到極が言った。
苦渋の決断だった。
ティアも到極の意図を理解したように従った。
ティアを家まで送り届け、光に事情を説明した。
光にティアの護衛を頼み、到極は再び町に出た。
到極は携帯の位置情報を手がかりに桜を探し始めた。
◇ ◇ ◇
今は使われていない倉庫。
中にはコンテナ等が放置されていた。
その中央で桜波姫は気を失っていた。
手首を鎖で縛られ、その鎖を柱に繋がれて。
「あ、れ……」
桜がゆっくりと目を覚ました。
「ここは?」
立ち上がり逃げようとする桜。
だが、ガシャン! と。
鎖が邪魔で桜は逃げ出すことが出来なかった。
「無駄だよ」
桜が声のする方を見る。
するとコンテナの上に一人の少年がいた。
「あ、貴方は」
「久しぶりだな、桜」
「高塚くん……」
高塚隣太郎。
西中学校の生徒。
髪を染めた長身のイケメン。
岩田の結成した不良グループのナンバー2。
桜とも面識があった。
「高塚くんの仕業なの?」
「あぁ」
「なんで、こんな事」
「ぶっ潰すためさ、岩田をな」
「!? 岩田くんを!?」
桜は驚いた。
岩田と高塚は仲間だったはずだ。
それもナンバー2を任されるほどに信頼された。
「まさか、岩田くんを裏切るんですか?」
「あぁ」
「でも、どうして?」
「あいつに失望したからさ、あのままチームを引っ張ってくれりゃ、俺たちはこの町で最強になれたのに」
高塚が続ける。
「それなのに、あいつは"お前"を手放しやがった!」
高塚の話はまだ続いた。
「それからチームは負けが続いてる、あいつのせいでな。あいつは腰抜けになった、落ちぶれたんだよ!」
「それは違います。岩田くんは私の意思を尊重して、私を解放してくれたんです」
桜が否定した。
だが高塚は止まらなかった。
「なぁ桜、俺と一緒に来ないか。俺とお前が組めば最強になれる。岩田を倒せるんだよ!」
高塚の言葉は桜には響かなかった。
「せっかくのお誘いですけど、お断りします。私は今の生活が好きなんです」
桜が続ける。
「学校に通って、お友だちが出来て、そして……好きな人が出来て。やっと普通の女の子として生きていけそうなんです」
桜が高塚の目を見て言う。
「だからお願い、高塚くん。鎖を外して」
「ふっ、ふはははははっ!」
「高塚、くん?」
「まさかお前がこんなに変わっちまってたとはな! いいねぇ、ますますお前が欲しくなったよ」
そう言って高塚がコンテナの上から降りる。
「決めた、お前を俺の女にする」
そう言われて、桜は思い出した。
不良グループの中で、桜が男子である事実を明かしたのは、信頼していた岩田にだけだった。
つまりそれ以外のメンバーは。
高塚は、今も桜を女子と認識しているのだと。
高塚が桜に向かって歩き出す。
その途中でポケットから何かを取り出した。
右からカッターナイフ。
左からカメラを。
「お前を屈服させる方法なんて、いくらでもあるんだからな」
高塚が桜の前で立ち止まる。
そして桜の頬にカッターナイフを当てた。
「時間はあるんだ。よーく考えなよ」
そう言って高塚は離れて行った。
(嫌だ、高塚くんに裸を見られたくない……!)
(到極さん、助けて……!)
桜は心の中でそう願った。
◇ ◇ ◇
到極は位置情報を頼りに、桜の携帯のすぐ近くまで迫っていた。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
場所は路地裏。
到極は結構な距離を走り回っていた。
だがやっと、位置情報の地図上で、到極と桜の二つの点が重なろうとしていた。
「さくらー、いるー? 居たら返事してー」
だが返答はなかった。
そして。
次の瞬間、到極は一瞬言葉を失った。
位置情報の示す先。
そこにあったのは、一つの大きなゴミ箱だった。
蓋がしてあり、中身は見えない。
しかし到極が桜に電話をかけると、着信音はゴミ箱の中から聞こえ、ゴミ箱は大きく揺れ出した。
一瞬、ほんの一瞬だけ。
到極は最悪の事態も想像した。
意を決して、到極がゴミ箱の蓋を取った。
そこには携帯電話しか無かった。
到極はひとまずホッとした。
だがすぐに、桜がただの迷子などではなく連れ去られたのだと理解すると。
到極の中で、様々な感情が渦巻いた。
怒り、不甲斐なさ、罪悪感。
そして。
――到極の中で"何か"が暴走した。




