10.上層部
回収されたブロブはE.D.O本部の地下に厳重に保管された。
研究員たちが『結晶化したブロブ』を調査する様子を、監視カメラは捉え続けていた。
E.D.O本部ビル。
到極たちもよく利用するこのビルは、100階建ての高層ビルだ。
到極たちが利用するのは主に1階から10階辺りまでだが。
そんな本部ビルの80階。
会議室のような場所。
数人の大人が意見を交わしていた。
E.D.O上層部の連中だった。
「ほぉ、これはまた珍しい」
部屋のモニターには『結晶化したブロブ』の映像が映し出されていた。
「確かに珍しいですが、我々の目的は"昇華"のはず。
そちらの方はどうです?」
上層部の一人が言った。
昇華と結晶化。
それは異能の行き着く先、最終到達地点。
その二つの可能性の事だった。
結晶化は、高純度のアークが結晶の状態になる事。
そして、昇華は。
異能者が、人を超えた存在になる事。
蒼焔が気になっていた『究極の力』の正体だった。
そして上層部の目的の一つも、この昇華だった。
「わかっています。AもDも、実験は順調です」
もう一人の役員が答えた。
「50もチームがあって、たった2つか……」
「まぁまぁ、本命はAとDなんですから」
AとDの2チームで極秘の実験が行われている事を。
今の到極たちは知る由もなかった。
話題はチームLの話にも派生した。
「チームLはどうだ? 最近の動きは」
ティアを狙う組織を倒し。
海外での任務を遂行し。
格上の異能者を撃破し続けるチームL。
そんなチームLの注目度は本部内でも上がっていた。
「彼らは例外ですよ。なんせティアが在籍してる」
「いやティアだけじゃない、それ以上に重要な者も。名前は確か、――――」
最初は到極だけの最弱チームだったL。
それが今では。
ティア、桜、隼人、光、浜松、リザ、竜星、礼夏。
合計9人にまで拡大していた。
まぁ浜松、リザ、竜星の三人は別行動中だが。
「――Lは、今まで通り監視を続ける。という事で」
役員の一人が言いかけた誰かの名。
それは別の役員によって遮られた。
上層部の暗躍を、到極たちはまだ知らない。
◇ ◇ ◇
チームLのシェアハウス。
到極と礼夏が帰って来た。
「た、ただいま」
その頃にはもう夕方になっていた。
「おかえり」
「おかえりなさい、二人とも」
「やっと帰ってきたー」
「わーい、とうごくだー」
ティア、光、れいな、こはくが出迎える。
だが到極の格好を見て、四人は絶句した。
「ちょっと到極くん、何よその格好!」
光が言った。
到極はぼろぼろで泥だらけの姿だった。
「大したことじゃないよ」
「そんな訳ないでしょ! 後でお仕置きだね」
光が冗談っぽく言った。
せっかく「何かあったら声掛けてね」と言ったのにと光は思った。
もっと私たちを頼ってくれていい、と光は思う。
もちろん、四人の平穏な時間を壊したくないという到極の気持ちも理解出来なくはなかったが。
「到極君、着替えてきた方が良いわ」
ティアが言った。
「礼夏は? どこも怪我してない?」
光が礼夏の方も気遣った。
幸い、礼夏には怪我はなかった。
服を着替えた到極に、れいなとこはくが今日作ったアイスを差し出した。
到極が守りたかった光景が、そこにはあった。
◇ ◇ ◇
翌日。
E.D.O本部。発明部のラボ。
「すみませんでした、博士。触媒を使っちゃって」
到極は謝っていた。
「いいよいいよ、面白いものも見れたからね」
桂木が言った。
だが会話中、研究室の電話は鳴り響いていた。
上層部からだった。
触媒を勝手に使った事に対する、注意の電話。
到極の無茶のしわ寄せは桂木に来ているらしい。
とは言っても、この状況は桂木にとってはよくある事らしく、あまり気にしていない様だった。
◇ ◇ ◇
発明部を出ると。
そこには到極を待つ一人の少女がいた。
蒼焔アイネだった。
「その、昨日はありがと」
蒼焔が珍しく照れた様子で言った。
まぁ、すぐにいつもの調子に戻ったが。
「私、あんたの『特別な力』にこだわるのやめたわ」
蒼焔が言った。
今回の件を経ての考えだった。
それがいい、と到極は思った。
そもそも到極に"その力"の自覚はなかったが。
「でも、最強になる事を諦めたわけじゃないから」
そう蒼焔が続けた。
「私は私のやり方で、最強になるって事!」
蒼焔が目を輝かせて言った。
そこには到極を格下と侮ったり、力に囚われて焦るかつての蒼焔の姿はなかった。
「その時は、また戦いましょう、ね?」
蒼焔が笑顔で言った。
それから右手で拳を作り、それを前に出した。
グータッチ。
蒼焔はそれを求めていた。
「そういう事なら、もちろん受けて立つよ」
到極が笑顔で言った。
そして拳を握り、それを蒼焔の前に出した。
――コツン。
両者の拳が軽く触れた。
爽やかな空気が2人を包んでいた。
外では蝉が鳴いていた。
到極たちの夏は、この後も続いていく。
【第9章 夏休み編 完】




