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異能と青春  作者: 成海由華
夏休み編
24/100

9.禁断触媒

「どうしちゃったのよ! 到極! 到極っ!!」


 現在世界では、到極は棒立ちの状態で動かなくなっていた。

 そんな状態の到極に、蒼焔が呼びかける。

 だが反応は無かった。


 ブロブの魔の手はすぐそこまで迫っていた。


 遂にブロブが到極の目の前に立った。

 だが到極に反応は無かった。

 ブロブが裏拳で到極を弾き飛ばす。


「……っ!? ぐはっ!」


 床に転がった所で、到極は意識を取り戻した。

 だが体勢を整えるより早く。

 ブロブが到極に近づき、手を伸ばした。

 ブロブの手が、到極の顔に触れる。


「何だ、これ。力が抜、け……」


 力が徐々に抜けていく。

 到極の異能の力が吸収されて始めていた。


「到極! 逃げて! 逃げなさいってば!」


 蒼焔が必死に呼びかける。

 だが、体力のほとんどを使い果たした到極にとってブロブから抜け出すのは至難の業だった。


(ごめん、蒼焔さん。蒼焔さんの事、助けてあげられそうにな、く……て)


 到極が蒼焔を見ながらそんな事を思っていた時だった。




 突然。


 パーン! と。


 ブロブの上半身が消し飛んだ。




 蒼焔が驚いて辺りを見渡すと、倉庫の入口に息を切らしながら立つ一人の少女の姿があった。


「はぁ、はぁ、はぁ、間に合ったぁ」


 海野礼夏だった。

 礼夏がブロブに向かって自身のアークを発動していた。

 礼夏が到極に駆け寄る。


「到極、大丈夫!? 到極ってば!!」


 倉庫の床に倒れている到極に礼夏が言った。


「大丈夫だよ、なんとかね。ありがとう」


 到極が礼夏に答えた。

 蒼焔も足を引きずりながら到極の元に近寄った。


「礼は要らないわよ、別にあんたを助ける為にやった訳じゃないから」


 礼夏が蒼焔に言った。


「えぇ、言うつもりなんてなかったわよ!」


 蒼焔が礼夏に言い返した。


「まぁまぁまぁ」


 到極が二人を仲裁した。

 三人とも心の中では安堵していた。


 正体不明の相手との戦いで、到極と蒼焔は精神を著しく消耗していた。

 そんな緊張状態から、到極はやっと解放された。


 この場から離れ、家に帰ろうとする三人。

 だが。




 ――少しずつ、ブロブの体が再生していた。




「嘘、でしょ?」


 蒼焔が言った。


 三人とも、目の前の光景が信じられなかった。

 しかも到極と蒼焔は満身創痍。

 礼夏も今の一撃で力をほぼ使い切った様だった。


 到極がポケットの中の小さなケースを触った。


 禁断触媒。

 強制的に異能アークを合成する鉱石。


 これを使えば、二人、もしくは三人の異能を掛け合わせてブロブに立ち向かう事が出来る。

 わずかだがこちらに勝ち目も出てくる。


(使うしかないのか……?)


 だが、成功する確率は一割。

 九割の確率で逆に自分たちがダメージを受ける。


(蒼焔と礼夏も、リスクを負う事になるんだぞ?)


 到極は決断できずにいた。

 その様子を見て礼夏が言う。


「なに迷ってるか知らないけど、あんたの事だから、

きっと思いついてるんでしょ? アイツを倒す方法。

だったら何を迷う事があるのよ。それ以外の事なんて

考えんな! アイツを倒すことだけ考えなさい!」


 到極の心の中では、もう一人の少女も叫んでいた。




 ◇ ◇ ◇




 到極の精神世界。


『さぁ、早く蒼焔と礼夏を見捨てなさい!』

『あんたに誰かを救う事なんて出来ないのよ!』

『私は救わなかったくせに、他のみんなを救うな!』


 番が言っていた。


 ティアを助けた時も。

 桜を助けた時も。


 いつも心のどこかには。

 この迷いに似た何かはあった。

 そして迷った末。

 たどり着く答えは毎回同じだった。


 ――今、困っている人を見捨てないこと。


 その方法でしか。

 この迷いを振り払う事は出来なかった。


 到極は、蒼焔を見捨てたり出来なかった。


「ごめん、莉奈ちゃん。僕は蒼焔さんを助ける事で、君に償うことにするよ」


 到極が言った。


 それを聞いて。

 番は何も言わなかった。


 悲しそうに。

 そしてほんの少しだけ、うれしそうに。


 そんな表情をして。


 番は、到極の前から、すっと姿を消した。




 ◇ ◇ ◇




 現実世界。


 よし、と。


 ――到極が覚悟を決める。


 ブロブの再生はあと少しの所まで迫っていた。


 到極がポケットからケースを出す。

 そしてケースを開けた。


 ケースの中で禁断触媒は妖艶な輝きを放っていた。


 次の瞬間。

 到極は禁断触媒を投げた。

 ブロブに向かって。


 到極の出した答え、それは。

 一割の成功に賭けるのではなく。

 九割の失敗をブロブに押しつける事。

 ギリギリで思いついたアイデアだった。


 再生中のブロブの体内に禁断触媒は取り込まれた。


 そして。

 再生が終わったのと同時に。


 ブロブの体を、無数の結晶が内側から貫いた。


 結晶は緑色で尖っていた。

 ブロブは動けなくなり、そのまま活動を停止した。

 そして段々と、ブロブ自身も結晶になっていった。


「すごい……」

「何なのよ、これ……」


 礼夏も蒼焔も、開いた口が塞がらないようだった。

 それは到極も同じだったが。


 その直後だった。

 本部からの援軍が来たのは。




 ◇ ◇ ◇




 そのすぐ後、警察も到着した。

 倉庫内は一気に騒がしくなった。


 本部の研究員たちが『結晶化したブロブ』の回収を始めた。


 結晶化。

 凝縮され、高純度になったアークは結晶の状態になるらしい。

 今回はそれがブロブの体内で起こった。

 到極たちは研究員から、そんな説明を受けた。


「私も『究極の力』を求め続いていたら、あんな風になっていたのかしらね」


 蒼焔が、串刺しになったブロブを見ながら呟いた。


 ブロブはE.D.O本部に運ばれ、正体を解明するための研究が行われるらしい。


「ひゃっ!?」

「おっと」


 蒼焔がふらついたのを到極が支えた。


「大丈夫だから、これくらい……」


 強がる蒼焔を到極はそのまま抱きかかえた。

 お姫様抱っこだった。


「きゃっ! 何するのよ!」


 蒼焔が言った。

 その声が思いのほか大きかったらしく、警察や研究員が一斉に蒼焔の方を向いた。


「無理しないで、僕が本部の人の車まで運ぶからさ」


 到極がのんきに言った。


(みんな見てる、恥ずかしいよ……)


 蒼焔の顔は真っ赤に染まっていた。

 その横で。

 礼夏だけは"やきもち"のような感情を抱いていた。


 到極と正体不明の敵・ブロブとの戦いは終わった。




 ――――――。


 ――――。


 ――。




 ブロブを回収中の一人が言った。


「あれ、今コイツ動かなかったか?」


「結晶化してるんすよ、動く訳ないじゃないっすか」


 もう一人が答えた。

 ブロブはE.D.O本部へと運ばれて行った。

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