6.逃走
E.D.O本部はこの町のシンボルの一つだ。
そのビルに向かって歩く一人の少女。
蒼焔アイネだった。
時計は11時45分。
礼夏との対戦に遅れることのないよう、蒼焔は時間に余裕をもって行動していた。
だが。
ビルの入口まであと数歩のところで。
蒼焔は何かとぶつかった。
「あ、すいません」
そう言ってぶつかった相手の方を見る蒼焔。
そして。
「――!?」
蒼焔は驚愕した。
それはぶつかった相手が、全身銀色の顔のない生命体だったからだ。
のちにブロブと呼ばれる事になるものだった。
不良の前に現れた時と違い、今回は服を着ていなかった。
(何なのよ、コイツ!?)
蒼焔が困惑していると、ブロブが手を伸ばし何かを発射した。
バチン! と音を立て何かが蒼焔の右足を撃った。
「え?」
電撃だった。
微電槍、と呼ばれる異能。
異能による攻撃を受け、蒼焔の右足の一部は出血し、火傷を負い、さらに痺れを感じていた。
「ぐううっ!?」
蒼焔の口から思わず声が漏れる。
そして体勢を崩し、地面に倒れ込んだ。
その時、ふとカバンを手放してしまった。
(コイツ、異能者なの!?)
蒼焔が困惑していると、ブロブが再び手を構えた。
「マズっ――!」
蒼焔が咄嗟に異能を発動する。
距離は最大限。向きは後方。高さは変えず。
異能は無事に発動したが、足の怪我のため着地には失敗した。
「ぐふっ!」
地面にうつ伏せの状態で、蒼焔が前方を確認する。
ブロブは目視できるギリギリの距離にいた。
そしてゆっくりこちらに向かって来ていた。
「マズい」
蒼焔が右足を庇うように立ち上がる。
そして再び異能を発動した。
それを何度も繰り返す。
蒼焔は逃げ続ける。
正体不明の敵、ブロブから。
◇ ◇ ◇
到極と礼夏が本部を訪れたのは、それから数分後のことだった。
二人は蒼焔を待った。
本部の五階、休憩スペースで。
だが正午を過ぎても蒼焔は現れなかった。
「寝坊かしら。全く、なってないわね!」
礼夏が言った。
だが、到極は違う考えだった。
(おかしい、蒼焔が礼夏との対戦に遅刻なんてするだろうか?)
蒼焔には確かにわがままな面がある。
だがそれはプライドがあるからだ。
自分は優秀な異能者であるという。
そんな蒼焔が自分の評判を下げるようなマネをするだろうか?
到極はそう考えていた。
そんな事を考えながら。
到極は蒼焔が来るはずの道を窓から見下ろした。
すると。
カバンが一つ落ちている事に気付いた。
到極が急いで礼夏を呼ぶ。
「礼夏、これ!」
「これって――!」
そのカバンは蒼焔のものだった。
二人は急いでオペレーション室に向かった。
オペレーション室。
到極がノックもせずに部屋の扉を開けた。
そして駆け足で本崎のもとへ向かった。
「え、到極くん!?」
本崎は思わぬ来客に驚いた。
本崎早紀。
E.D.O本部の職員である彼女はお弁当を広げ、昼食中だった。
「すいません本崎さん、緊急なんです。数分前の監視カメラの映像を見せてください!」
到極と礼夏は事情を説明する。
本崎がパソコンを操作し、映像が映し出された。
そこに映っていたのは謎の生物と格闘する蒼焔の姿だった。
「何よ、コレ……?」
「到極さん、これは一体――?」
映像を確認し終えると、到極は走り出した。
「ちょ、到極、どこ行くのよ」
礼夏が言った。
オペレーション室の扉の前で、到極が止まる。
「出動可能な異能者に声をかけてください、あと警察にも連絡を。僕も蒼焔さんを助けに行ってきます!」
バタン! と。
勢い良く扉を開け、到極は蒼焔を助けに向かった。
発明部。
蒼焔を助けに行く前、到極は発明部に寄っていた。
「触媒を貸してほしいだって?」
「はい、お願いします」
到極は桂木に事情を説明し、禁断触媒を借りようとしていた。
「いくら到極君の頼みでも、それは出来ないな」
「そこをなんとか、お願いします!」
「第一、蒼焔君を助ける事と、触媒を貸す事。それが一体どう繋がるんだい?」
桂木が聞いた。
「蒼焔を襲った敵は人間には見えませんでした。
ロボットかも知れないし、宇宙人かも知れない。
僕の異能だけじゃ、奴を倒せる保証が無いんです」
到極が答えた。
「つまり君は、この触媒を『お手軽な強化アイテム』か何かと勘違いしているんだね――」
桂木の態度がいつもの軽い感じから、一転して本気になった。
「――でもね、それは違うよ」
桂木が続ける。
「これはとても危険な代物なんだ。前にも説明した様にね」
そう言って桂木が到極の方を見ると、到極も桂木を見つめていた。
「わかっています。そして――」
到極が続ける。
「――僕も本気です」
到極が桂木の目を見つめて言った。
少しの沈黙の後、桂木が言う。
「まったく、しょうがないな」
そう言って桂木は触媒を厳重なケースから出した。
そして持ち運び可能な小さなケースへと移した。
「君にはいつも驚かされるよ。はい、これ。」
桂木が到極に触媒の入ったケースを渡した。
「素手で長時間触らないでくれよ。これはそれぐらい危険な代物なんだからね」
「分かりました。ありがとうございます!」
到極は礼を言うと走ってラボを出て行った。
E.D.O本部ビル、入口付近。
到極が蒼焔のカバンを拾う。
そして携帯で本崎に電話した。
「蒼焔がどっちに行ったか分かりますか?」
『今、異能の痕跡を探知しています。
………………出ました!
蒼焔さんは港の方向に向かったみたいです』
「港ですね、分かりました!」
到極は蒼焔の逃げた方に向かって走り始めた。




