5.決戦へ
E.D.O本部のトレーニング室。
蒼焔は器具で体を鍛えていた。
(私はエリートなのよ! 格下相手に負ける訳にいかない!)
蒼焔は思った。
AからLまでの12階級、全部で50チーム。
蒼焔はその中のH相当。
全体で見ても強い方のチームに所属するエリートだった。
だが、蒼焔は今の位置に満足していなかった。
トップ4。
A、B、C、Dの上位4チームは別格扱いだった。
蒼焔はその座を狙っていた。
だからこそ、格下のチームに負ける事など、あってはならなかった。
それが先日、到極に敗北しかけた。
それから、蒼焔は少し焦っていた。
その焦りが、彼女を『究極と呼ばれる力』に固執させていると言えた。
蒼焔のトレーニングはこの後も続いた。
◇ ◇ ◇
翌日。午前10時ごろ。
蒼焔vs礼夏、決戦の当日。
町のスーパーマーケット。
「はぁ〜、生き返る〜」
「……涼しい」
光とティアはスーパーに買い物に来ていた。
照りつける太陽の下を歩き、スーパーに入って最初の言葉だった。
「到極くん、大丈夫かな?」
光がティアに言った。
到極は二人の対戦を見届けるため本部に向かうらしい。
「蒼焔さんも礼夏も、強気な性格だから仲を取り持つのは大変そうね」
ティアはいつも通り冷静に答えた。
「本当に私について来て良かったの? 到極くん達の方に行きたかったんじゃない?」
光がティアを気遣って言った。
「確かに気になるけど、こっちの用事も大切だから」
ティアが言った。
今日の予定は夕飯の買い出しだけではなかった。
「そうだね、あんまりゆっくりしてると二人が先に来ちゃうかも知れないし、行こうか」
「えぇ」
光の言葉にティアが返した。
二人とは れいな と こはく の事だった。
二人がシェアハウスに遊びに来るという事で、二人用のお菓子やジュースの買い出しも今回の大事なミッションだった。
二人の買い物は順調に進んだ。
そして必要な物を全てカゴに入れた所で。
「ちょっといいかしら」
ティアが光に言った。
ティアはお菓子コーナーからチョコレートを持って来た。
「これも買ってほしい」
「ティアちゃんがチョコ? 珍しいね」
光が言った。
「……違う」
ティアが続ける。
「これは到極君の分。到極君、このチョコレート好きみたいだから」
ティアはいつも通り淡々と言った。
つもりだった。
光がくすっ、と笑った。
「どうしたの?」
ティアが聞いた。
「うん。ティアちゃん、少し変わったなって思って」
「変わった?」
「変わったよ。到極くんにチョコを買いたいなんて、前までのティアちゃんなら言わなかったと思う」
光が続ける。
「それに表情も豊かになった気がする、ほんの少しだけどね」
そう言われてティアは自分の頬を手で触れてみた。
7月、『ティアを狙う組織』に勝利した事で。
ティアは確かに心にゆとりを取り戻していた。
だが、理由はそれだけではない様に思えた。
光が言う。
「やっぱり、到極くんかな?」
到極の存在が、無口で無表情で無感情だったティアを変えたのだろうか。
「……分からない」
ティアが言った。
「そっか。でも、いつか気付けると思う。ティアちゃんなら」
「そうかしら?」
「きっとそうだよ」
ティアの問いかけに光が答えた。
そんな話をしながら光とティアはレジに並んだ。
カゴの一番上に、到極の好きなチョコを乗せて。
◇ ◇ ◇
チームLのシェアハウス。
隼人はリビングで補習の宿題をしていた。
今日の補習はいつもより少し遅く始まる為、まだ家に居た。
「やべぇ、終わんねーぞ、これ!」
今日が提出期限の宿題が終わっていない。
そんな状況に隼人は絶望しかけていた。
といっても、一度も手をつけること無く、ゲームや漫画に浸かっていた隼人の自業自得なのだが。
そんな隼人に追い打ちをかける事態が起きていた。
「ねー、とうごくはいつ帰ってくるのー?」
「ティアおねーさんとひかりおねーさんはどこ?」
藍沢れいなと鷹梨こはくが遊びに来ていた。
「こっちが知りてぇよ、はぁ」
一刻も早く宿題を終わらせなければならない隼人にとって、二人は天敵に思えた。
だが、流石に子ども二人を置いて自分の部屋に行く訳にもいかない。
到極と礼夏は本部。
ティアと光は買い物。
桜はアルバイト。
他に誰か一人でも居れば、俺は自分の部屋に行けるのに。
隼人はそう思っていた。
(早く帰って来てくれ、誰でも良いからー!)
隼人は心の中で叫んだ。
そんな賑やかなシェアハウスのテレビでは。
あるニュースが流れていた。
『複数の異能者が何者かに襲われるという事件が連続しています。襲われた異能者は異能を吸い取られたと話していて――』
ブロブに関するニュースだった。
ブロブに襲われた異能者たちが病院に運ばれているらしく、その数は数十人に上るらしい。
さらに厄介なのはブロブには異能を吸収する力があって、吸収された側は異能を使えなくなる事だった。
だが、そんなニュースに気付いている者は、今のシェアハウスにはいなかった。




