2.シェアハウス
「ただいま」
「帰ったぜー」
到極と隼人が帰宅した。
到極と隼人は同じ家に住んでいる。
シェアハウスというやつだ。
もちろん二人きりという訳ではない。
もっと大人数でだ。
「おかえりなさいませ、到極さん!」
リビングで二人を出迎えたのはエプロン姿の同級生だった。
「隼人くんも、おかえりなさい」
「おう!」
「ただいま、桜」
少女の言葉に隼人と到極が返した。
少女の名は桜波姫。
セミロングヘアーの美人だ。
今は夕食の準備をしているところだった。
「手伝うよ、桜」
到極が言った。
「ありがとうございます! お皿の準備をお願いしてもよろしいですか?」
「おーけー」
桜の話を聞き、到極はキッチンに向かった。
「隼人くんも手伝ってくれていいんですよ?」
「ギクッ! で、電話だ! もしもし拓馬か、なになに? 大事な話があるだって? まったくそれじゃあしょうがないなー」
そう言って隼人は自分の部屋に向かっていった。
「せめて手は洗ってから行ってくださいよー」
去っていく隼人に桜が言った。
(てかさっき、携帯鳴ってなかったような……)
桜は首をかしげながら、キッチンに向かっていった。
◇ ◇ ◇
桜と到極が夕食の準備をしていると、部屋から一人の美少女が出てきた。
手には文庫本を持っていた。
「……帰ってたんだ、到極くん」
「うん。ただいま、ティア」
ショートヘアーの美少女、ティアの問いかけに到極が答えた。
「何か手伝うこと、ある?」
ティアの問いかけに桜が答える。
「ありがとうございます。でも大丈夫です、もうすぐ終わりますから」
「そう……」
ティアは夕食が出来上がるのをリビングで待つことにした。
ソファに座って持っていた文庫本を開いた。
数分後。
「お腹空いたー」
「ハラ減ったー」
各々の部屋から礼夏と隼人が出てきた。
「ふーん、もういいんですか電話の方は?」
桜が隼人に冷たい視線を送りながら言った。
「ギクッ! わかったわかったよ、皿洗いは手伝うから!」
そう言いながら隼人が食卓の椅子に座った。
到極、ティア、桜、礼夏も食卓についた。
現在このシェアハウスには五人が暮らしていた。
「「「「「いただきます」」」」」
五人が声がそろえた。
今日の献立は生姜焼きだった。
◇ ◇ ◇
2065年。
世界は発展を続けていた。
医療も、福祉も、政治も、経済も。
科学の発達によって、新しい技術や発見が日夜行われていた。
そしてそれらは、人類の抱える課題を解決へと導いていた。
動物や植物は保全されているし、気温や海水温は通常の範囲内で推移している。
エネルギーは再生可能なものが普及しているし、海洋ゴミは一時期に比べ大幅に減少していた。
性差別は限りなくゼロに近づいているし、人種差別も根絶の日は近いといえた。
人類は理想の世界に向かって大きく前進していた。
到極たちの食事中、テレビではニュースが流れていた。
『続いてのニュースです。海外では異能者と非異能者の対立が過激化しています。一部では暴動も起きており――』
ただ一つ、異能者と非異能者の対立をのぞいては。
「最近多いわよね、この手のニュース」
礼夏が言った。
「そうだね、日本でここまでの事は滅多にないだろうけど、少し気をつけておいた方がいいかも知れないね」
到極が返した。
到極がそう思うのも無理はなかった。
なぜなら。
このシェアハウスに住んでいる人間は全員が異能者だった。
そもそもこのシェアハウス自体、異能者研究開発機構が所属する異能者たちのために用意した寮のようなものだった。
このニュースの後、食卓は少しだけ静かだった。
◇ ◇ ◇
食事を終えて二時間ほど経った頃。
到極はお風呂に入っていた。
寮のような施設というだけあって、湯船は複数人が同時に浸かれるほど広かった。
男湯と女湯があり、さながら小さな温泉のようだ。
(疲れたな、今日は)
湯船に浸かりながら回想する到極に、扉越しに声が聞こえてきた。
「到極さん、ご一緒してもよろしいですか?」
そう聞こえた後、扉がゆっくりと開かれた。
白い素肌、華奢な体躯、赤らめた頬。
湯船に着かないよう後ろで髪を束ねて。
バスタオル一枚をまとっただけの姿で。
桜波姫が、そこにいた。
「! あぁ、いいけど」
「じゃあ、失礼して」
そう言って桜は到極のすぐ隣に座った。
肩と肩の触れ合う距離で桜が言う。
「ふふ、緊張してます? もう出会って半年ですよ。そろそろ慣れても良い頃では?」
「そう簡単に慣れないよ」
到極が言った。
そう、半年経ったからといって慣れることはない。
こんな美人と一緒にお風呂に入る生活など。
いくら桜が生物学的には男の子だといっても。
これ以上一緒にいたら、到極は桜に特別な感情をいだいてしまいそうだった。
それほどまでに桜という人間は魅力的だった。
「そ、そろそろ上がろうかな」
到極が言った。
そう言って湯船を出ようとする到極の腕を桜が掴んだ。
「あと3分、いえ1分だけでいいですから。もう少し私と、私だけと一緒に居ていただけませんか?」
桜が言った。
瞳をうるませながら、頬を赤らめながら。
そんな顔をされては、到極は先に上がることなど出来なかった。
到極は再び桜の隣に座った。
桜は到極のことが好きだった。
桜にとって到極と二人になれる時間は、特別でかけがえのない時間だった。
(到極さんと、二人きり……///)
到極は緊張を、桜は照れ笑いを浮かべていた。
沈黙の時間が、一分間続いた。
◇ ◇ ◇
「長湯だなんて、いったい二人っきりで何をしていたのかしらー?」
リビングに戻った到極を尋問したのは礼夏だった。
「別に何にもしてないよ」
到極が言った。
「礼夏こそ、いったいどんな事を想像したんだ?」
「――――っ!? 何も想像してないわよ、このバカあああああ!!」
礼夏の叫びが、家中にこだました。




