表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異能と青春  作者: 成海由華
夏休み編
18/100

3.犬猿

「すみません! 到極さん。私のせいで……」


 講義が終わってすぐ。

 桜が到極の元に駆けつけて言った。


「お怪我はありませんか?」


 桜が聞いた。


「桜のせいじゃないよ。寝てた僕が悪いんだから」


 到極が答えた。


「そんな事ないです。到極さんが疲れているのは毎日誰かを助けるために戦い続けているからです」


 桜が続ける。


「それなのに私、あんな失敗を……」


 桜がしょんぼりした様子で言った。


「そんなに落ち込まないで。ほら、どこも痛くないからさ」


 到極が言った。

 そんな光景を見ていた蒼焔が思う。


(私は一体何を見せられているの?)


 蒼焔は少し考え、そして。


惚気のろけ? これが世に言う惚気のろけなのね!?)


 そして勝手に納得した。




 ◇ ◇ ◇




 本部内の廊下。

 到極は桜、蒼焔と別れ、一人で歩いていた。

 すると向かいから三人の異能者が歩いて来た。

 到極はその異能者たち知っていた。


「よぉ、到極。久しぶりだな」


「苅谷くん……」


 その中の一人、苅谷が声をかけてきた。


 苅谷かりやキョウタ。14歳。

 ランクはK相当。

 到極よりも一階級上だった。

 到極がE.D.Oに加入した日から、到極を敵対視し、嫌がらせを繰り返していた。


 だが4月、到極の下剋上により苅谷は敗れた。


 それ以来、苅谷が到極に表立って嫌がらせする事はなくなった。

 逆に「低ランク相手に敗北した負け犬」と周りから罵られる立場になってしまった。


 かつて自分を虐めていた者と。

 自分を酷い目に遭わせた者と。


 到極と苅谷は互いに因縁の相手だった。

 後の二人は苅谷の取り巻きだった。


「大活躍じゃないの、到極くん」


 苅谷が言った。


 確かに到極は苅谷に勝利した後、対抗戦でチームKに勝利するなど本部内での存在感を強めていた。

 だが苅谷がその事を素直に褒めるはずがなかった。


「せいぜい注目を集めとくんだな。俺が勝った時にその勝利の価値が上がるように、さ」


 その言いながら苅谷が到極に近づく。


「11月に本部ここで大きな大会がある。その時だ、お前が俺に負けるのは」


 苅谷が顔を近づけて言った。


「僕だって今までの僕じゃない。次だって苅谷くんに勝って見せる!」


 到極が少し怯えながら言った。


 苅谷が到極を睨む。

 そして舌打ちをし、苅谷は去って行った。

 取り巻きの二人も到極を睨んで去って行った。


「はぁ、……帰ろう」


 到極は少し嫌な気持ちになりながらも、持ち直して歩き始めた。




 ◇ ◇ ◇




 苅谷との話を終えシェアハウスへ帰ろうとする到極に言い争いの声が聞こえてきた。


「何よ!」「そっちこそ!」


 到極は声のする方に向かう事にした。


 到極が到着する少し前。

 到極のいる場所から少し離れた本部内の廊下。

 二人の少女が言い争っていた。


 蒼焔アイネと海野礼夏だった。

 二人の相性はどうも悪いようで、会うと言い争いになるのはいつもの事だった。


「あんた、チームLに入ったんですってね」


 蒼焔アイネが言った。


「だから何?」


 海野礼夏が返した。


「知らないの? あそこは"落ちこぼれ"が入るチームなのよ。あんたは本部から"異能の才能がない人間"の烙印を押されたってわけ」


 蒼焔が言った。


「あんたこそ知らないみたいね」


「な、何をよ」


「私は()()()()()チームLに入ったのよ。それにLには私以外にも強い奴がたくさん居るわ。あんまり舐めてると、足元すくわれるかも知れないわよ?」


 礼夏が言った。


「私はあんたらより階級が4も上なのよ。そんな事、絶対に無いわ!」


「じゃあ、試してみる?」


「望む所よ!」


 礼夏と蒼焔の意見が一致した。

 最悪の形で。


 その時だった。




――蒼焔の姿が消え、礼夏の後ろに出現した。




 礼夏の首に腕を回し、締め上げようとする蒼焔。

 蒼焔の頭に指を当て、牽制する礼夏。


 二人はしばらくの間、動かなかった。


 アーク名 空間転移テレポーテーション

 最大で数百メートルの距離を一瞬で移動することができる力。

 移動は前後左右だけでなく、上下にも可能だった。

 それが蒼焔の異能だった。


 廊下から足音が聞こえて来た。

 言い争う声を聞き、駆けつけた到極だった。


「一体誰が揉めて……って、えぇ!?」


 到極が驚いた。

 何せ、友だち二人が異能の発動し組み合っていたのだから。


「二人とも落ち着いて。そもそもケンカで異能アークを使ったらいけないんだってば」


 到極が言った。

 正当な理由のない異能アークの使用は違反だった。

 到極の言葉を聞き二人が手をほどく。


「ふぅ、よかった」


 ケンカを未然に防いだ、と胸を撫で下ろす到極。

 だが、それは違った。


 だったら! とばかりに二人が言う。


「私と対戦しなさい」


「いいわ、受けて立とうじゃない!」


 二人は本部が定める正式な試合で勝負をしようとしていた。


「ちょっと待って、落ち着いてよ二人とも」


 そんな到極の声は二人には届かなかった。


 それからの二人は早かった。

 二人が申し込みの書類に自身の名前を書く。

 そして担当の職員を見つけ、駆け寄った。


「「対抗戦の申し込みです、お願いします!」」


 二人が怒りのこもった声で言った。

 職員は二人に圧倒され、少し涙目だった。


「ひぃぃ、す、すいません。今は模擬戦闘室が空いてなくて、明日の正午なら大丈夫なんですけど……」


「「じゃあ、それで!」」


 そう言って二人は申し込み書を机に叩きつけた。

 二人は少しの間、お互いを睨み続けていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ