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異能と青春  作者: 成海由華
出会い編3
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3.放課後

 花咲光が加入するまで、チームLに料理が得意な者はいなかった。


 到極と隼人は簡単なものしか作れなかったしティアは料理に関する記憶が無く、桜に至っては料理が大の苦手だった。

 よって花咲が来るまでは、食事はコンビニ等で買うことがほとんどだった。


 だが今は違う。毎日三食、花咲が料理を作ってくれている。昼に花咲が作ったお弁当が食べられる。

 これはチームLの全員にとって嬉しいことだった。




 ◇ ◇ ◇




 放課後。

 到極たちと別れ、ティアは美術室にいた。

 美術室の片付けを先生に頼まれていたのだ。

 一人で黙々と室内を片付けていくティアだった。

 が、次の瞬間――。


 シュン! という音と共に何かがティアに襲いかかった。


「――っ!?」


 よく見るとそれは長いロープだった。

 ロープがまるで意思を持ったかのようにティアを絡め取っていく。


(早く抜け出さないと!)


 必死に抵抗するティア。だが足を縛られ、手を縛られ、口を塞がれ、遂には身動きが取れなくなってしまった。美術室の床にうつ伏せ状態のティア。


「んー! んー!」


 助けを呼ぶティア。だがロープを噛まされた口では、その声が誰かに届くことはなかった。すると。


 コツ、コツ、コツ、コツ。


 廊下から誰かが近づいてくる足音が聞こえてきた。

 すりガラスの窓越しに何者かの姿が見えてきた。

 その人影が美術室の扉に手を伸ばした。


 だが、その時。

 その人影とは逆の方向からもう一つの足音が聞こえてきた。


 その音を聞いて人影は一目散に逃げていった。

 もう一つの足音が美術室の前で立ち止まり、扉を開けた。その正体は隼人だった。


「んー! んー!」


「えっ!? ティア!? ちょ、えっ!?」


 ぐるぐる巻きにされたティアを見て混乱する隼人。

 だがすぐに我に返り、ティアの縄を解く。


「……ありがとう」


 ティアが隼人に言う。

 そして先程の人影を室外に出て探したが、見つけることは出来なかった。




 ◇ ◇ ◇




 E.D.O本部。

 とある階の廊下。

 今日は到極の検査の日だった。

 無事に検査を終え帰ろうとする到極を一人の少女が引き止めた。


「また会ったわね、到極!」


 少女の名は蒼焔そうえんアイネ。

 ツインテールの髪型の小柄な少女。

 到極と同学年のその少女はチームH相当のエリートだった。


 到極は何度か彼女と会った事があった。

 そしてその度に何かと因縁をつけられていた。

 それは今日も同じだった。


「さぁ到極、勝負よ!」


「ごめん、僕急いでて」


 そう言って立ち去ろうとする到極の前に、蒼焔が立ち塞がる。


「そうはさせないわ!」


 蒼焔は中々通してくれなかった。

 到極は思った。


(仕方ない、やるか……。どうせ四階級上の相手に敵うわけないんだし、ここはさっさと負けて帰ろう)


「わかった、その勝負受けるよ」


 到極が言った。

 蒼焔はウキウキしながら、到極は渋々、模擬戦闘室に向かって行った。




 ◇ ◇ ◇




 シェアハウスのキッチン。

 光と桜が料理をしていた。


っ!?」


 桜の指先から少量の血が出ていた。

 桜が包丁を使っていて、誤って自身の指をほんの少し切ってしまったのだ。


「大変! すぐに消毒しなくちゃ」


 そう言って光が救急箱を持ってきた。

 リビングのソファに座り、光が桜の指を消毒し絆創膏を貼る。

 しょんぼりした桜の様子を見て、光が言う。


「だ、大丈夫よ、桜さん。そんなに落ち込まないで」


 桜は光に料理を教えてもらっていた。

 チームLで料理が一番下手なのが桜だった。

 焼けば丸焦げ、包丁さばきは危なっかしい、味は摩訶不思議とてんで駄目だった。

 そんな桜が料理が出来るようになりたい理由は一つだった。


 到極においしい料理を振る舞いたい。

 そのために到極本人には内緒で、毎日花咲と練習を重ねていた。


「到極さんが帰って来るまでまだ時間がありますし、もう少し見てもらっても良いですか?」


 桜が言った。


「もちろんだよ。じゃあまずは、猫の手を忘れずに、ね」


 光が言った。

 二人の練習はもうしばらく続いた。




 ◇ ◇ ◇




 模擬戦闘室。

 到極と蒼焔が数メートル離れて向かい合う。


 E.D.O本部が設立してから去年まで、自分より上の階級に勝利した例は四例しか存在しない。

 今年それを塗り替える者が現れた。


 五例目、それが到極縁だった。


 だからかも知れない。

 蒼炎が到極につっかかってくるのは。

 だが到極もさすがに四階級上の相手に勝利できるとは思わなかった。


「準備は良いかしら?」


「う、うん」


 自信満々な蒼焔に到極が返した。


『3、2、1、スタート』


 電子音声が鳴った。

 試合開始と同時に蒼焔が異能アークを発動した。


――。


――――。


――――――。


 決着は一瞬で着いた。

 蒼焔の()()によって。


「何よ、一体何が起こったのよ!?」


 蒼焔はしばらく何が起きたのか分からなかった。

 ただ一つ分かったのは、"圧倒的な力"の前に蒼焔が敗北したという事実だった。

 蒼焔は考える。


(今の、私が見たことある到極の異能アークじゃなかった。【第一艤装】でも【第三艤装】でもない。――まさか!?)


 艤装とは異能の段階である。

【第一艤装】から順番に十段階ほどあるという艤装のさらにその先。異能を極め、人を超えた存在のみが使える伝説の力。

 そんな力があると蒼焔は聞いた事があった。


(嘘よ、あいつがそんな力使えるわけない!)


 蒼焔が言う。


「あんた一体どんなイカサマを使ったのよ。あんな力あんたに使えるわけないじゃない!」


 到極は答えなかった。

 もしかしたら到極にはまだ知らない秘密があるのかもしれない、と蒼焔は思った。


「私はこんな結果、絶対認めないからー!!」


 蒼焔が去りゆく到極に吠えた。

 圧倒的な力を前にして蒼焔の足は今も震えていた。




 ◇ ◇ ◇




 シェアハウスのリビング。


「ティアが襲われた!?」


 チームLの全員が帰宅しまず話題になったのはティアの事だった。


「あぁ、俺が通りかからなかったら結構ヤバかったと思うぜ」


 隼人が言った。

 隼人とティアがその時の状況を説明した。

 その説明を聞いて花咲が言う。


「ロープが襲って来たって事は、物を操作する異能者が近くにいたって事かな?」


「そうだろうね。でも一体誰が?」


 到極が言った。

 学校は、関係者以外立ち入り禁止。警備も厳重だ。となるとティアを襲ったのは内部の人間、先生か生徒という事になる。


「ところで、隼人はどうして美術室に?」


「俺か? 俺は拓馬たちにティアが一人で掃除してるって聞いて、手伝えば俺の好感度が上がるかなって」


 隼人らしいな、と到極たちは思った。

 だがその性格のおかげでティアを助ける事が出来たのだから、今回は感謝するべきだろう。


「でもそんな、まさか吉田くんたちが?」


 拓馬、加藤、小森。

 三人の中にティアを襲った犯人がいるのだろうか?

 確かに三人は変わったところがある。だが悪い人ではないはずだ。本当に三人の内の誰かが犯人なのか?

 五人はしばらく考えたが、答えを出すことは出来なかった。


「明日の朝、拓馬たちに聞いてみるしかないか」


 到極が言った。四人もそれに賛同した。




 ◇ ◇ ◇




 翌日。

 東京都贈ヶ丘(おくりがおか)中学校。

 二階の廊下。続々と生徒が登校して来ていた。

 そんな時だった。


 ドーン! と。


 巨大な爆発音が鳴った。

 戦いの時は突然訪れた。

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