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1:開拓という名の追放

 クロンダイグ王国王城――玉座の間。


「それで、アドニスよ。齢十六になり、成人した貴様は……いまだにスキルが使えないのか?」


 そう呆れた声を出したのは、王冠を被った壮年の男性――クロンダイグ王だった。そしてその目の前にひざまずく三人のうち、もっとも若く、そして唯一黒髪の少年――アドニスが声を震わせないように精一杯になりながら、王の言葉に答えた。


「ま、まだです……すみません父上」

「この国、いやこの大陸では、スキルの使えぬ者は出来損ないや無能と呼ばれても仕方ないことは分かっているのか?」

「……はい」

「つまり、貴様はこのクロンダイグ家の血を引いていながら――無能であると自覚しているのだな」

「……確かに、いまだ僕はスキル【竜王】を使いこなすことは出来ません。ですが、このスキルのおかげで国周辺の魔物の発生が抑えられていると、賢者様が……」


 王の横に立つに賢者を見ながらアドニスがそう言うが、王はそれを聞いて玉座の肘掛けをダンッ! と叩いた。


「黙れこの無能が!! そもそも、竜などというおとぎ話にしか出てこないようなものにうつつを抜かしよって! しかも【竜王】だと!? 王は――この俺一人だけだ! 他の三流国家の王なぞ、全て紛い物! 賢者のその話も貴様を慰める為の作り話だ!」

「す、すみません。そういうつもりではなく……あくまでスキルの名前がその……」


 アドニスのその弱気な言葉が、余計に王を苛立たせた。


「長兄のベラノは【全属性】のスキルを自在にこなし、この年で大魔導師の称号を持っている。次兄のキールは【閃剣】のスキルで、この大陸一の剣士と謳われるほどだ。なのにお前は……! 多少頭が回るだけ何も出来ないではないか! 剣も魔術もスキルも使えぬ貴様をいつまでも我が王家に置いておくほど俺は寛大な王ではないぞ」


 その言葉を聞いて、アドニスの隣にいた二人の金髪の青年がせせら笑う。


「くくく……無能が一人いると助かるよ。所詮は妾の子…」

「かはは……剣も振れぬ無能は二人もいらんからな」


 その様子を見て、王が玉座から立ち上がった。


「貴様の態度で決めた。アドニス――貴様には開拓の命を下す」

「へ……? 開拓……ですか?」

「――我が国より遙か東方に、いまだに人を寄せ付けぬ辺境の地がある。そこを開拓し、我が国の領土拡大に従事せよ。我が国に対して利のある土地になるまでは――戻ることを許さん」


 その言葉に、隣にいた賢者が慌てたように声を発した。


「お、王よ、待たれよ! 彼をこの国から離れさせてはいかん! クロンダイグ王家の血筋にのみ現れる【竜王】のスキルは、()()()()だと王も知っておるだろ!? かのスキルが顕現した時代は必ず――荒れる。アドニス王子はいわばその激動の時代からクロンダイグを護る城壁のようなもの! それをあんな辺境へ送りこむなど自殺行為ですぞ!」


 賢者の言葉に、王は静かに怒気を発した。


「覇王の証……? ふざけるな……貴様は嘘塗れの歴史書に踊らされている憐れな老人に過ぎぬ。良いか――()()()()()。こんな軟弱者が覇王? 国を護る城壁? 馬鹿馬鹿しい。もういい、貴様はもう耄碌(もうろく)した。これ以上言葉を発するな」

「王……考え直してくだされ……アドニス王子の力はこれから発揮されるのです。それをあんな辺境へと送ってしまえば……覚醒前に死なれてしまわれる! そうなればこの国は終わ――」


 その言葉の途中で――賢者の首が飛んだ。


「黙れ、と言ったはずだが」


 目にも見えない速度で剣を抜刀した王が、アドニスの前で血払いをした。


 血が、アドニスの顔に掛かる。


「け、賢者様……そんな……」

「狂った老人の妄言を信じた自分を呪え、アドニス。さあ、命は下したぞ。貴様は――かの辺境の地、〝ドラグレイクの砂礫(されき)〟へと向かい、開拓を開始せよ」

「ううう……なぜ……なぜ……」


 アドニスは涙を流しながら、目の前に落ちた賢者の頭を抱えた。


 彼は幼い頃に母親をなくしたせいで、この王宮において彼の味方になってくれていたのは賢者だけだった。賢者だけは彼に優しく接し、そして決してその心が歪まないように真っ直ぐに育つようにと一生懸命庇ってくれたり、時に厳しく叱ったりとしてくれた。


 アドニスにとって、賢者は――王以上に、親同然の存在だったのだ。


「以上だ。せいぜい、開拓に精を出すことだな」


 その王の言葉をもって――アドニス・クロンダイグ第三王子は、実質的に国外追放されたのだった。



☆☆☆



「賢者様……」


 王城の外れ。そこには一本のリンゴの木があり、アドニスは時々王城を抜け出してはこの木の下でぼーっとするのが好きだった。


 ここを彼に最初に教えたのは賢者だ。


 ゆえにアドニスは身よりのない賢者の遺体を引き取って、ここに埋めたのだった。


「賢者様。僕は今から東の果てへと旅立ちます。もはや、この王城の土を踏むことは二度とないでしょう。ですが……それでも教えられた通り、精一杯、真っ直ぐに生きたいと思います。貴方の遺言に従って……この杖は形見として大事に使わせていただきます。僕のせいで……本当に……すみません」


 アドニスは泣きそうになりながら、賢者が生前愛用していた杖を握り締めた。


 だけど、彼は泣かなかった。


 もう、泣かないと決めたから。


「賢者様、これまでありがとうございました……そしてさようなら」


 アドニスはそう言うと顔を上げた。


 少し伸びた黒髪の下には、幼さの消えた、凜々しい青年の顔付きがあった。


「では……行って参ります」


 こうしてアドニスは、少ないお供を連れて東の果て、辺境の地〝ドラグレイクの砂礫〟へと旅立った。


 のちの歴史書にはこう記載されていた――

 

 それは大陸の覇者となる〝黒竜王アドニス〟の第一歩である、と。


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― 新着の感想 ―
[一言] すごく面白そうな出だし!期待して続きを読むぞー
[一言] 賢者の爺さん……アンタには生きて欲しかったぜ……。
[気になる点] 兄弟や家臣が妾を蔑むなら理解できるが、王が妾を蔑むのはおかしいのでは?自分が気に入って妾にしたんでしょ。 兄弟の発言に変えたほうが自然かと。
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