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019『カルデラの外』


まりあ戦記・019

『カルデラの外』    





 首都(新東京)はベースの北側にある。


 ベースは最前線基地だが、隣接する首都には、あまり緊迫感が無い。

 ベースがカルデラの中に収まっていて、カルデラの縁が衝立のようにベースの姿を隠しているし、ヨミとの戦闘が縁を超えて首都に及ぶこともめったにない。だから、首都の住人は意外に呑気に暮らしている。


 そうそう、専光寺を探さなきゃ。


 いつの間にか散歩気分になっていたまりあはスマホのナビを見直した。

「あっちゃー、通り過ぎてるじゃん」

 音声を切っていたので、散歩気分のまりあは見落としてしまった。

「仕方ない……!」

 まりあは駆け足になった。約束の時間に遅れそうなのだ。

 音声を切っていたのは恥ずかしからだけど、制服姿で走るのはもっと恥ずかしい。

 女子高生が体育の時間や部活以外で走ることはめったにない。街ゆく人々は、そんなマリアを振り返る。中にはスマホを構えて写真だか動画だか撮っている人も居る。ちゃんと防御はしているけど、短いスカートが翻るところなどを撮られてはかなわない。


 ここだ!


 たどり着いた時は、髪もばさばさになり、寒さしのぎに着こんでいたヒートテックが肌に貼り付いて気持ちの悪いことこの上なかった。

「ちょっとタンマ……」

 通りに背を向け、リボンを緩めると、ハンカチで胸から腋の下まで拭きまくる。通学カバンからペットボトルを取り出し、半分ほど『おーい お茶』を飲んで人心地つく。

「よし!」

 汗を拭き終って、身づくろいをして、やっとインタホンのボタンを押した。


「コホン、ごめんください、アポをとっておりました安倍でございます……」


 よそ行きの声を出して損をしたと思った。

「アハハ、悪いけど笑っちゃうわ」

 座敷に通され待つこと三分。現れたのは作務衣こそ着ているが、クラスメートの釈迦堂観音しゃかどうかのんだったではないか!

「だって、電話した時は男の人だったもん」

「檀家回りで出てるのよ。いちおうわたし、この寺の副住職だし。だいたいさ表札見て気づかない? 釈迦堂なんてめったにない苗字だわよ」

「そんなの、お寺の看板しか確認しないわよ」

「それにさあ、このあたりのお寺って二軒しかないのよ(まりあも言っていた)、かなり高い確率で、わたしんちだとは思わなかったの?」

「むーーーー」

「ふくれたまりあもなかなかね。アハハ、怒らないの、誉めてんだから」

「じゃあ、これからは檀家ですのでよろしくお願いします」

「こちらこそ、これも御縁です、よろしくお願い申します」

 互いに頭を下げあい、やっと本題に入る。


「じゃ、来々週の日曜ということで、お兄様の三回忌を務めさせていただきます」


「よろしくお願いいたします」


「過去帳はお持ちかしら?」


「うん、これ」


 俺はまりあの胸ポケットから出されて、ちょっと肌寒い。


「あれ……『舵』になってる」


「あ、それが本当なんだけど、学校じゃお母さんの『安倍』で通してるから」


「あ、そうなんだ」


 あっさり受け止めると、まりあの親友は、こだわることもなく用件のことに話題を変えた。


 用件と言っても、俺の三回忌の日取りを決めるだけだから簡単なものである。ドライに割り切れば電話で事足りるのだけれど、ズッコケながらも足を運んだのはまりあの気性だ。



 そのあとは、まりあが御挨拶に持参した海老煎餅を齧りながらのガールズトークになった。



「お饅頭でないところが、さすがね!」

「お寺にお饅頭ってピッタリだけど、持て余しちゃうでしょ」

「大きな声じゃ言えないけど、ご近所やら老人ホームとかに回しちゃうのよね」

「でしょうね……でも、落ち着くわね、カノンのお寺」

「広いし緑が多いものね……手入れたいへんなんだけどね、ヨミ以前は街中まちなかの鉄筋のお寺だったのよ。庭なんて、今の十分の一も無かったって」

「そうなんだ……」

「カルデラがあるから、ヨミとの闘いなんて他人事みたいに感じるのよね。グーグルアースなんかで見たら、地獄と隣り合わせみたいなものなんだけど……」


 話題が湿っぽくなりそうな気がして、二人は小気味よく海老煎餅を齧った。


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