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80話 再誕と解放と勝利と……?

 俺の危機にかけつけてくれた村人一同。

 しかしデュラハンの圧倒的実力を前に状況は変わらず。

 強大な闇魔法で潰されると思った瞬間、謎の炎が俺たちを助けた。

 そして炎は爆発とともに姿を変える。

 まるで”進化”するかのように。


 リゼルヴァの死体から生じた炎の柱。

 デュラハンの魔法にも動じないそれは、驚くべき正体をさらけ出した。


<<Lv112 炎竜リゼルヴァ 種族:ドラゴン 種別:レッドドラゴン>>


 金色の目が俺たちを睥睨した。

 そして己の名を眷属に称えさせる。


「ドラゴン!」


「ドラゴン!」


「ドラゴン……!?」


 この場にいる誰もが、その生物の名を叫んだ。

 あらゆるモンスター……いや生物の頂点にして絶対強者、ドラゴン。

 説明は必要だろうか。

 あらゆる神話に登場し、神と同等または神そのものとして世界を創り、あるいは破壊するもの。

 リザードマン一族が信仰し族長がすべてをなげうって従った神。

 

「なんという、あぁ……」


 歓喜にわいたリザードマンたちは、今度は一斉に(こうべ)を垂れた。

 あがめる存在が顕現したのだ、当然だろう。


 俺やドクンちゃん、ホルンはというと、ただただ存在感に圧倒されていた、

 身の丈は4メートルほどで、畳んだ翼を広げれば10メートルはあろう。

 紅のうろこに覆われた、強靭な四肢と翼、長い首。

 頭部には角のような二本の突起をもち、目は黄金色に輝いている。

 短剣のような牙の間からは、白煙が漏れ、硫黄のような匂いを漂わせていた。


 まさしく誰もが知る通りのドラゴンがそこにいた。

 赤い竜は俺たちを見渡すと口を開いた。


『フジミ……私は、進化したのだな』


「本当にリゼルヴァかよ」


 そう、死んだはずのリゼルヴァが進化したのだ。

 生き返ったことも驚きだが、ドラゴンへ進化するなんて。

 進化するには条件になるアイテムがあったはずだ。

 たぶん『竜の黒卵』がきっかけだと思われるが……。


「そうか、『竜の黒卵』は竜の血だったんだ」


 リゼルヴァにとってドラゴンへ進化するための必要アイテム、竜の血。

 てっきりドラゴンを傷つけて流れた血を使うとばかり思っていた。

 しかし、どうやら『竜の黒卵』こそが形を変えた竜の血だったらしい。


『そういうことだ……そして私は全てが分かった。族長が隠してくれていたことも、全て』


 ハッと族長が頭を上げる。

 その目には涙が浮かんでいた。

 進化したことで、リゼルヴァは肉親の死の真相を感づいたのか。

 連なって、族長が今まで隠し通してきた理由も。


 二人は言葉を交わさない。

 しかし互いに複雑な感情があることは察せられた。


『詳しい話はあとだ。まずは、あれを滅する』


 リゼルヴァが首を巡らせる先、剣を構えるデュラハンがいる。

 漆黒の刀身は魔法を力を注ぎこまれてか、より長大に延長され妖気を放っていた。

 武器強化の魔法まで隠しもっていたのかよ。


「ガアアア!」


 赤竜の口が大きく開かれ、炎の激流が放たれる。

 『アンチスペル』で打ち消されるのでは、と思ったが杞憂だった。

 爆炎は勢いを増しながらデュラハンを包みこみ、圧殺するかのように収縮していく。

 まるで繭、いや棺桶のよう。


「ギ、グオオオオオオオ!」


 初めて耳にする悲鳴。

 炎に閉じ込められたデュラハンは苦痛にあえぎながら強化された大剣を振るう。

 すると一瞬、炎に裂け目が生まれた。

 しかし徐々に修復され、業火は勢いを取り戻す。


 そうして何度か剣をふるって抵抗を試みるデュラハンだったが、抵抗は長く続かない。


『ドラゴンの炎は始原の力。断ち切ることはできない』


「ゴ、オ、アアアァアアアアアア……」


 苦痛に悶えながら、やがて片膝をついて動かなくなった。

 全身から染み出ていた黒い粘液と、頭の一つ目は完全に消え去り焦げた鎧だけが残る。

 今度こそ完全にただの鎧に戻ったのだ。


『終わったぞ』


「シェアアアアアアアア!!」


 歓喜の声をあげる村人一同。

 安堵のあまり腰の抜けたものもいる。


「あんな一方的に……とんでもねぇな」


「上には上がいるものねマスター」


 同意見だ、世界は広い。

 ドクンちゃんが元デュラハンにドロップキックをかます……やはり反応はない、ただの鎧のようだ。

 胴体を覗き込んでみると空洞だった。

 魔族の黒い残滓も見当たらない。


「どうやら本当に切り抜けたらしい……腰が抜けたわ」


「腰吹っ飛んでるけどねー」


 ドクンちゃんがケタケタ笑う。

 最大の窮地を脱したことに心底安堵した俺。

 死んだのは初めてじゃないが、死ぬ覚悟をしたのは初めてだ。

 

「いやあ、生きてるって素晴らしいな!」


「諦めてたくせに」


「フジミ殿、今度こそなんと礼を申していいのか!」


 平身低頭の族長。


「いやいや今回は族長のお手柄でしょう……いやリゼルヴァか?」


『どうであろうな』


「我だろうが」


 ホルンが鼻を鳴らす。

 たしかに村人をつれてきてはくれたけど……。


「ホルンではないでしょ」


「なんだと!? ……ん、今何か聞こえなかったか」

 

 和やかな空気が流れる中、不意にホルンが耳をそばだてた。

 こいつの聴覚は優秀だ。

 今まで外れたことがない。

 が、いまばかりは冗談であってほしい。


 ぎょっとしてデュラハンを確認する。

 動きだす気配はない。

 さらに周囲を警戒する。

 ……生命探知にも反応はない。


 ――そのとき


「おーい、ドラウグル! こっちだこっち」


 誰かが俺を呼んでいる。

 聞いたことのない男の声だ。

 ホルンが無言で茂みのほうを示した。

 

「動けないのだ、手を貸してくれぇ」


 奥から情けない声が聞こえてくる。

 

「なんだろーね」


 リゼルヴァに見守られる中、俺を搭載したドクンちゃんがトテトテ繁みに近づいていく。

 そこには一つの兜が落ちていた。

 正確には”中身入り”の兜が。

 

 デュラハンの生首だ。

 フルフェイス故に表情は見えないが、兜のなかの生首が声を発しているのだ。

 奇しくも今の俺と同じ境遇である。


「リゼルヴァ、トドメが足りてなかったらしいわ」


『わかった、離れていろ』


「待った待った! 降参だから! おじさんは魔族だけど悪い魔族じゃないよ!」


 慌てて命乞いする生首。

 急に馴れ馴れしいな。

 さっきまで『コロス……』とか冷酷気取ってたくせに。


「えぇ……なに急にキャラ変えて」


「私はゼノン、元人間のデュラハンだ。上位魔族に体を乗っ取られていたところ、寄生部分が焼かれて正気に戻ったんだよ」

 

「だってさ、どうするのマスター」


 触手でつまみあげた兜が流暢にしゃべり出した。

 兜の奥の濁った眼光は、アンデッドの俺とよく似ている。


 魔族化されたモンスターは、主人の魔族に操られると聞いてはいる。

 けどそもそも魔族のデュラハンを魔族が魔族化するなんてややこしい話あるか?

 率直に怪しすぎる。


「よし燃やそう」


『全力でいくぞ』


「待ってって! わかったお得な情報あげるから! デュラハンかヴァンパイアになりたいんでしょ君!?」


「リゼルヴァ、ちょっと待て」


 メリットのない命乞いは聞くに値しない。

 しかし自称元人間のデュラハンの言葉は俺の好奇心を刺激した。

 思い返してみればユニーク名『月斬りの剣聖』とやらの由来も気にはなる。


「少し話を聞いてやる。でも俺に一瞬でも手を出してみろ、仲間がタダじゃおかねぇぞ? アァン?」


「仲間の力でイキり散らすマスター、だっさー」


 戦利品はデュラハンの生首だけか。

 数人の死者を出したものの、防衛戦は俺たちの勝利で幕を閉じたのだった。

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