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79話 潮時

 トリスケを犠牲に、やっとの思いで強敵を倒した……かのように思えた。

 しかしダメージを負いながらも立ち上がったデュラハン。

 一方でリゼルヴァは息絶え、俺は体を失っていた。

 手下のスケルトンもおらずドクンちゃんと族長の戦闘力は低い。

 反撃の手段は……尽きていた。


「まだ立つのかよ……まるで……」


 軽口を叩こうとして気力が失せた。

 余裕も作戦も体も、今の俺には何もかも無いのだ。


「頼む、どうか……!」


 リゼルヴァのくすぶる死体に泣きすがる族長。

 復活したデュラハンに気づいていない。

 気づいたところでどうしようもない……族長もドクンちゃんも非力すぎる。


「コロ、ス」


 一応、空からゴーレムの火球が飛んできたが――かき消えた。

 デュラハンの『アンチスペル』は健在だ。


「マスターどうしよう、逃げるしかないよね!?」


「……」


「ねぇマスター!?」


 ドクンちゃんに答える元気もない。

 族長も村人も仲間もすべてを置き去りにしてドクンちゃんと逃げたとして、どうせすぐ追いつかれるだろう。

 むしろここで俺が殺されれば、引き返してくれる可能性がある。


 考えられる救いはそれくらい、か。

 頭が回らない。

 回るだけの、材料がない。

 ただ俺はデュラハンを見つめていた。

 武骨な鎧に宿った冷徹な魂、圧倒的な体術、魔法、耐久力。


「マジの最強アンデッドじゃねぇか……俺もあと一回進化すればこうなれたんかな」


「諦めないで!?」


「フジミ殿……」


 ようやく族長もデュラハンに気づいた。

 その目に恐怖はない……諦めだ。

 村人をだまし続け、守ってきた宝にまた裏切られ、今度はリゼルヴァまで失った。

 老体を支える柱が、ぽっきりと折れてしまったようだ。

 俺とは違った意味で疲れ果てているのだろう。


 内から焼かれるリゼルヴァの死体と、赤熱する『竜の黒卵』だけがシュウシュウと音を立てていた。


「ドクンちゃん、どうやらここまでっぽいわ。悪いな、記憶を取り戻してやれなくて」


「ちょっと、いつもの能天気マスターはどこいったのよ! ……えっなに?」


 逃げようとしたドクンちゃんが硬直した。

 足元の影が沼のようにぬかるみ、ドクンチャンの小さな足を絡みとっている。

 よく見ればデュラハンが片手を開いてこちらに向けていた。 

 魔法を使ったのか、それも詠唱抜きで。

 つくづくとんでもないな。


 そういえばデュラハンの兜はどこに行ったんだろう。

 はじめは脇に抱えていたのに。

 ……まあどうでもいいか。


「オ、ワリ、ダ」


 ぎこちない足取りで歩み寄り大剣を振りかぶるデュラハン。

 そんな大仰な動作なしでも殺せるくせに、よほど恐怖をあおりたいと見える。

 

「やりたきゃやれよ」

 

「マスター!」


 諦める俺と逆にドクンちゃんは怒っている。

 どれだけ抵抗したところで無駄なことなのに、感情豊かな心臓だ。


 そして剣が振り下ろされ、俺の二度目のアンデッドだけどが終わる。

 瞼はないが、意識をすれば視界は閉じられる。

 人間世界で死んだときはみなかったな走馬燈。

 今度は見れたらいいなと期待したが残念ながらそんなものはなかった。 

 

 やれやれ、短いアンデッドライフだったぜ。


 ……


「放て!」


「シャッ!」


 ――と、永眠を決め込んだ耳に風切り音が飛び込んでくる。

 続いて大勢の喧騒。

 ホルンとリザードマンの声みたいだ、今になって走馬燈か?


「アホども! さっさと退け!」


「ホルンちゃーん!!」


 ドクンちゃんの体が自由になり、魔法による拘束が解けたことを感じた。

 視界を有効にすると目の前には村人を率いる白馬――ホルンの姿があった。

 

 非戦闘員含め、勢ぞろいしたリザードマンたちが弓やら槍やらを構えている。

 姿勢もおぼつかなく、はっきり言って素人丸出しだ。

 腰もひけている。

 それでも目だけはまっすぐデュラハンを見据えていた。

 

「逃げるよう指示したろ、なにやってんだ……?」


「ついに脳まで干からびたか、さっさと離れろと言っている!」


「ふえぇ、もうダメかと思ったよー」


 半泣きのドクンちゃんがとことこ走る。

 呆然とする族長の手を引きながら。

 残されたのは燻るリゼルヴァの死体だけ。


「……」


 デュラハンが鎧に突き立った一本の矢を引き抜いた。

 ほとんどの矢は剣で叩き落され足元に散らばっている。

 せっかく助けにきてもらって悪いが、やはり有効打になりそうもない。


 これでは俺とリゼルヴァで食い止めた意味がない。

 皆殺しにされるだけだ。

 いきりたつ村人たちに警告する。


「みんな殺される前にさっさと逃げろよ」


「シュッ……センセイ、マモル」


「オレタチガ、マモル!」


「いつの間に言葉覚えたの!?」


 村人の何人かがヒトの言葉を話した。

 族長とリゼルヴァしか話せなかったのに、いつ勉強していたんだろう。

 ホルンがあきれたように告げた。


「フジミ、貴様は助けられるべきなのだ……貴様があの者らを助けたようにな。放て!」


 弓の第二射。

 デュラハンが剣を振るうと、ほとんどが叩き落されてしまう。

 

 正直、村人の気持ちは泣きそうなほど嬉しい。

 が状況は覆らない。

 みんなの気持ちでパワーアップするのは少年漫画の主人公だ、俺じゃあない。


「ありがたいけど皆こそ逃げろ! マジで死ぬぞ!」


 村人たちを見渡すデュラハンの一つ目。

 一瞬考えた様子をみせると、片手を開いて頭上に掲げた。

 そして詠唱を始める。

 すると手のひらを中心に、黒い渦が宙に現れみるみる大きさを増していく。

 闇の弾を打ち出す『シャドーブラスト』に雰囲気は似ている、しかし規模が段違いだ。


 シャドーブラストがボーリングの玉だとすると、デュラハンのそれは軽く大型のトランポリンほど。

 威力もさることながら攻撃範囲も広いに違いない。

 ここにいる全員が飲み込まれるだろう。


「”イービルバースト”」


 はじめて耳にする魔法名をともに、それは放たれた。

 決して火球のように速くはない。

 しかし皆が避難が間に合わないであろう速度で飛んでくる。

 俺の使える対抗魔法『ディスペル』では詠唱が追いつかない。


 放たれた”イービルバースト”が迫ってくる。

 何人かが矢をぶつけるが全く効果はない。

 視界を闇で染めながら破壊の力は更に速度を上げる。

 

 そして俺たちの頭上に墨のような闇が広がり、飲み込まれると思ったそのとき――


「あっっっつ!!」


 感じたのは熱。

 視界を突如として覆ったのは闇ではなく赤い奔流――猛々しい炎だった。

 アンデッドの俺が最も苦手するものの一つだ。

 ゴーレムの援護射撃かと思ったが、どうも様子が違う。

 

 目の前の炎は球ではなくドームのように広がって俺たちを包んでいた。

 

「……守られてる?」


 よくみると炎の向こうに闇が広がっている。

 ”イービルブラスト”を防ぐ壁になっているのだ。

 族長をはじめ、リザードマンたちの瞳が炎をうけて輝いていた。


「これは一体……」


「シュ……」


 誰もが状況を理解できない。

 こんな大出力の火属性魔法を使える者はいないはずだ。


 やがて炎のドームが消えると、迫っていたはずの”イービルブラスト”もなくなっていた。

 が、デュラハンは依然として健在だ。

 そのうえ第二の”イービルブラスト”を作り上げている最中である。


「いや、それよりも……!」


 デュラハンよりも明らかに目を引く現象が起きていた。

 極大の火柱だ。

 地面の一点から大木ほどもある炎が噴き上がっているのである。

 天を焼く輝きはチリチリと俺に危機感を与える。

 あれはアンデッドにとって忌避すべきものだ、と。


 今やデュラハンも俺たちではなく、炎の柱に向かって魔法を構えている。

 明らかに敵として認識しているようだ。


「リゼルヴァ……?」


 族長がつぶやく。

 ようやく俺も気がついた。

 あそこにはリゼルヴァの死体と『竜の黒卵』があったはずだ。

 最後にみたとき、どちらも煙を立てて燃えているだけだったのに、いつのまに爆炎と化していたのか。


「まさか、これは」


 反応からして族長の予期していない事態らしい。

 『竜の黒卵』は使用者の身を焼き尽くすだけのアイテムだったはずだ……これまでは。 


「”イービルバースト”!」


 練り上げた闇魔法をデュラハンが放つ。

 一投目と同じく、禍々しい破壊の力……特大の闇が炎を直撃した。


 枝のようにしなる赤い柱。

 それをへし折ろうするかのように食い込んでいく闇の魔法。


「すげぇ……」


 明滅する炎と闇。

 目がくらむような異次元の戦いに唖然とするしかない俺たち。

 

 数秒の後、闇の塊は炎に包まれ、やがて蒸発するように消えた。

 そして炎はさらに激しく勢いを増し膨れ上がり――爆発した。


「ひええっ!」


 ドクンちゃんのナイス判断で族長の背後にかけこむ。

 直後、振動が足元をすくい、閃光が目を奪った。

 続いて轟音が耳を破る。


 頭を庇うように皆が伏せ、小さくなった。

 助かったと思ったら結局吹き飛ばされるのか!? 


「なんだってんだ……」


 覚悟した死は一向に訪れない。

 恐る恐る顔をあげた皆は互いの無事を確認した。


 そして、ぼやけた目に映るのはより巨大になった炎柱。

 ……いや、違う。


 炎は今や新たな姿を得ていた。

 あれは――


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