77話 犠牲と誤算
ユニークデュラハンの圧倒的実力に翻弄される俺とリゼルヴァ。
空からの援護射撃も『アンチスペル』で無効化される始末。
追い詰められた俺は、いよいよ奥の手を使わざるを得なくなった。
炎上する森で対峙するのは魔族にして、ドラウグルの上位モンスター『デュラハン』。
首なし騎士の異名は伊達じゃなく、俺の生半可な剣術は通用しない。
ならば持てる戦力すべてで勝負するまでだ。
幸い、まだ相手は本気で俺を殺すつもりはないらしい。
攻撃こそすべて防がれるが反撃は明らかに手心を感じる。
データをとっているのか、なぶり殺しにする気なのか。
どちらにせよ都合がいい。
繰り返し俺とリゼルヴァは波状攻撃を続け時間を稼ぐ。
リゼルヴァは徐々に傷を負い、動きが鈍くなっている。
流れ出る血が赤い鱗をさらに深い紅へ染めていた。
そろそろもたない、と思ったそのとき。
『マスター!』
『待ってましたドクンちゃん』
念話と同時、デュラハン後方の空に影。
ドクンちゃんの乗るトリスケだ。
村から直線で飛んでくるとデュラハンに視認されるため、あえて迂回させてきたのだ。
『アンチスペル』でスケルトン化を解除されるとあっさり墜落するだろうから。
『こいつの動きをとめる、そのまま突っ込め!』
『ヒャッハー!』
俺の切り札、それはトリスケによる特攻戦法。
スケルトンコカトリスの巨体を上空から激突させ、同時に『コープスボム』で爆破。
爆破の威力は死体の大きさに依存する……つまり馬ほどもあるコカトリスなら相当の威力が見込める。
死体の大きさだけならスケルトングレムリンロードが最大だが、鈍重すぎて近寄る前に『アンチスペル』されるだろう。
その点、空からなら不意打ちも容易かつ衝撃のダメージも上乗せできるという算段だ。
「”シャドウスピア”!」
「”ファイアボルト”!」
魔法を惜しみなく放ちつつデュラハンを攻める。
肝心なのは相手の目線を俺たちに釘づけにすること。
案の定、俺とリゼルヴァの魔法は打ち消されたが問題ない。
「ソロソロ、オワラセルゾ」
「同感だ!」
間一髪で漆黒の刃を受け流し、再度魔法。
すぐに打ち消される……よし。
空から迫るトリスケがはっきり見えてきた。
デュラハンは戦闘に夢中で気がついていない。
そろそろ離れないと爆破に巻き込まれるな。
が、あまり早く退いてはデュラハンに気取られる。
まずはリゼルヴァが下げて魔法の援護に切り替えてもらおう。
これを目で合図をした――が、
(おい!?)
判断ミスだ。
出血が多すぎたのか、精神力の限界なのか、リゼルヴァは脱力したように膝立ちになっていた。
意識が飛んでいるのだろう、俺の目線にも気がつかない。
それどころか相手の挙動も見えていない。
フォローに入る間などなかった。
「ぐっ……!?」
「リゼルヴァ!」
黒い線が視界を横切り、赤い血がほとばしる。
前へ倒れようとする体を支えるのはリゼルヴァの脚ではなく、胸に突き立ったデュラハンの刃だ。
リゼルヴァは己の心臓を貫く剣を呆然と見下ろす。
「フジ……ミ……」
そして俺に何かを言おうとした。
しかし、それは叶わない。
デュラハンはさらに踏み込み、刃を背中へと貫通させた。
赤い鱗を破って黒い切っ先があらわれる。
その刃は血に濡れてなお漆黒の色しか持たない。
「ツギハ、オマエダ」
引き抜いた切っ先をこちらに向けるデュラハン。
ハルバードを落とし、崩れるリゼルヴァ。
どうする!?
助ける? どうやって? そもそも手遅れじゃ?
トリスケが来てる、離れなければ!
思考が混線する。
何を優先すべきかわからない。
『マスター、離れて!』
ドクンちゃんの合図に、本能で動いていた。
地を蹴り、デュラハン……ではなく瀕死のリゼルヴァへと跳ぶ。
「”コープスボム”!」
魔法を唱えながら、瀕死のリゼルヴァを蹴り飛ばす。
人形のように転がっていく赤い体。
もしかしたらすでに死んでいるかもしれない。
それを確認するまえに、俺の頭上には剣が迫っていた。
頭を割られる――!!
直後、すさまじい音と衝撃が全身を殴りつけた。




