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76話 苦渋の決断

 いよいよ敵のボス、謎の人型モンスターと対峙した俺たち。

 大柄でこそないものの、謎の攻撃により精鋭リザードマン二人が瞬殺されてしまった。

 敵の鑑定結果は剣聖の名をもつネームド デュラハンLv106。

 しかも種族が"魔族”。

 何から何まで謎だが、一つ確かなこと。

 それは絶体絶命ということだ。


「一旦戻れリゼルヴァ……あとのことはドクンちゃんが指示する」


 仲間が屠られ、取り乱したリゼルヴァは足手まといになる。

 どうにか帰らせたいところだ。


 デュラハン。

 首なし騎士の異名をとるモンスター。

 自身の首を提げ、鎧に身を包み、馬に跨ることが多い。


 古くは、死の宣告と執行を担う妖精だった。

 しかし最近じゃもっぱら強力なアンデッドとして人気だ。

 俺の進化ツリーに見えた時点で、この世界ではアンデッド扱いなんだと思っていたが……。


 なぜアンデッドじゃなく魔族なのか。

 剣聖というユニーク名の由来はなんなのか。

 リザードマンを無力化したスキルはなんなのか。


(なにより勝ち目はあるのか……)


 いろいろ気になることはあるが、アイスブランドを抜き放ちつつ相手を見すえる。

 デュラハンの首断面から生えた一つ目も俺を見つめ返した。

 ……あれって首なし騎士的にどうなんだ。


「フジミ、まさか死ぬ気じゃないだろうな!?」


「鈍いなあ、そこは助けを呼んでくるのがお約束だろ」


 もう死んでるっつーの、っていうお約束は抜きにして。

 ドクンちゃんに念話してギリムに援護射撃を頼む、この際俺を巻き込もうが致し方あるまい。

 それくらいのリスクでネームドをやれるなら安いもんだ。


『ユニークのデュラハン!? マスターさっさと逃げなよ!』


『俺が逃げたら追ってきちゃうだろうが。村人避難作戦の指揮よろしく』


 森の左右は火刑により炎上している。

 つまり俺の後ろか、デュラハンの向こうにしか道はないのだ。

 ここで食い止めて村への道を塞ぐほかない。


 俺が時間を稼いで、村人を逃がすしか道がないのだ。


 たしかにデュラハンさえいれば村の制圧など余裕だったろう。

 頭の悪い強行突破にも納得がいく。

 どれだけ雑兵に損害が出ようが無問題だ。

 ていうかパワーバランスがおかしいだろ、ボスと雑魚の。

 いらないじゃん、あの大群。


「フジミ、嘘はやめろ。お前、使い魔と遠隔で話しているだろう……助けならそれで呼べるはずだ」


 落ち着きを取り戻したリゼルヴァに突っ込まれる。

 思い通りにいかなかったか。


「バレた? でもさすがに今回は死ぬかもよ。こいつの目的は俺っぽいし、それだけが救いだろ」


 デュラハンには勝てそうにないと俺の直感が告げていた。

 酷いレベル差で散々戦わされてきたが今度ばかりは無茶がすぎる。

 すべてにおいて格の違うのだ。

 ゲーム的に言えば『負けイベント』だろう。


 しかし登場時からデュラハンは俺を指名し、積極的に攻撃してこない。

 今も悠長に待っていてくれている。

 つまり最優先目標の俺を殺さない限り村へ侵攻しない可能性がある。

 ならば俺が囮になるのが最適解だ。


「フジミ、その悪い癖については謝罪させたはずだが?」


 リゼルヴァの刺すような口調。

 やはり退く気はないようだ。


「参ったな……後悔するなよ」


 信頼しろとリゼルヴァは言っているのだ。

 痛いところを突かれた。


「仇を討てない後悔を選ぶはずがないだろう」


「それもそうか」


 同族を斬り捨てられ、リゼルヴァは憤怒を露わにしていた。

 その形相は映画でみた恐竜を超える迫力だ。

 俺でもちょっと気圧される。


「”サモンウェポン”、”アイシクルスケイル”、”スーサイド”」


 篭手にしこまれた魔石で盾を召喚。

 氷の防護魔法とダメージを返す闇魔法もかけておく。

 レベル差からして効果のほどは怪しいが無いよりマシだろう。


「行くぞ!」

 

 俺は剣を、リゼルヴァはハルバードを構える。

 そして『負けイベント』を覆すべく地を蹴った。

 片腕は頭を抱えてふさがっている。

 剣聖だか知らないが、二つの刃を防げるか?


「オソイ」


 ハルバードをかわし、アイスブランドを剣で受け止めた。

 デュラハンの剣は黒檀(こくたん)のように黒い斑の刀身をもち、引き込まれそうなほど美しい。

 そう考えた一瞬のうちに俺とリゼルヴァは弾き飛ばされていた。


「ぐっ!」


 どうやら蹴りを喰らったらしい。

 目にもとまらぬとはこのことか。


 体にまとった氷の鎧が砕けて剥がれた。

 蹴りでこれだけの威力かよ。

 

「遊ばれているのかのようだ」


 リゼルヴァは尻尾が生えかけのせいでバランス感覚が狂っている。

 もし万全の状態なら少しは善戦できるだろうか?


 ……いや大して変わらないだろうな。


「強者の余裕ってやつか」


 武者震いする俺。

 異次元の身のこなしだ。

 『体術』スキルでも積んでいるのか?


 それから数度打ち込んだものの、いずれも軽くいなされた。

 実力差からして殺されそうなものだが、デュラハンの反撃は少なく、ぎりぎりで防げる程度のものだった。


「嫌な感じだ、データでも取っているみたいな――っと」


 飛来した闇の矢をかわす。

 デュラハンは魔法も得意らしく、無詠唱で『シャドースピア』を打ち込んできやがる。

 闇魔法の初歩とはいえ遠距離攻撃も備えているとは厄介な。


「フジミ、火球がきたぞ!」


 ゴーレムの援護射撃が後方から飛んできた。

 団子のように連なる三発の火球。

 魔族である以上、火は有効なはず。

 どうにか当てて行きたいが……。


「消されたか!」


「やっぱりな」


 デュラハンに視線を向けられた三つの火球は、一秒ほどで消えてしまう。

 魔法を打ち消す魔法『アンチスペル』。

 魔族化したモンスターたちが当然のように搭載している厄介な魔法だ。

 視認できるタイプの魔法はまず打ち消されてしまう。

 『サモンウェポン』と『アイシクルスケイル』も打ち消せたはずだが、蹴りで対処できる判断したのか。

 それともただの気まぐれか。


 無効化を防ぐためには物理攻撃を織り交ぜて打ち消す隙をなくしつつ、複数の魔法を同時にぶつけるしかない。


「たしかスケルトンも解除するんだったな……ってことは、いつもの作戦も効かない、と」 


 死体をスケルトン化し、組みつかせてからのゼロ距離爆破――俺の切り札だ。


 しかしグレムリンクイーン戦では、スケルトンで拘束しつつ『コープスボム』でゼロ距離爆破しようとしたが失敗した。

 『アンチスペル』はスケルトンをもとの死体に戻し、拘束を解いてしまうからだ。

 ただの死体をコープスボムで爆破することは可能だが、未着状態に比べれば威力は落ちる。

 

 ……まあ『アンチスペル』される前に『コープスボム』を唱えてしまえば爆破できたんだろうけど、あのときは”きれいな”クイーンの死体が欲しくて機を逸したんだよな。


 アホみたいに強いデュラハン相手に、どうやって『コープスボム』を決めるか。


「……勝利のためにはやむなし、か」


 苦渋の決断と、その作戦をドクンちゃんに下すのだった。

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