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74話 怒りの追悼

 防衛戦の口火を切ったのはトリスケとゴーレムによる爆撃だ。

 加えて敵進行ルートの左右を炎上させることで、撤退するか、強行突破して大損害を被るかを強いることに成功した。

 結果として強行突破をしてきたわけだが、おかげで隊列はズタズタだ。

 

「ここまでされて引き返さないなんて……謎だな」


「使い捨ての駒なのかもしれんのう」


 村中央部。

 眼前のウィンドウを操作するギリムが所見をのべた。

 10メートルほどの首をもつ双頭ゴーレムの視野は当然広く、発見した敵の概要は操作者のギリムにフィードバックされている。

 それによると敵軍は半分以上の犠牲を出しながらも撤退の様子はまるでないとのことだ。

 たしかに村に入られると石化ブレスやら炎雷魔法やらは派手に使えない。

 無理を押してでも白兵戦に持ち込みたいということか。

 

「リザードマンごとき接近すれば一方的に倒せると踏んでいるのかもな」


「カカカ! だとすれば大誤算じゃのう」


「フフ、違いない」


 ドクンちゃんから反撃を受けた旨の報告が入った。

 よりにもよって火球を飛ばせるモンスターが混じっているらしい。

 火は勘弁してくれ、俺たちアンデッドにはよく効くんだ……。


 損傷したトリスケを下がらせ、代わりに伏せていたリザードマン精鋭部隊が切り込んだようだ。

 リゼルヴァ率いる少数部隊の役目はさらなる攪乱(かくらん)だ。

 この作戦の肝は、とにかく敵の進行ペースを落とし上空から攻撃を浴びせること。


「じゃ、ここは頼んだわ」


「気兼ねなくやられてこい、死んだらボーンゴーレムにしてやるからの」


 笑えない軽口だ。

 ギリムにその場を任せ、いよいよ前線に向かうとしよう。

 足の包帯をバネのように使い跳ねるように駆けていく。

 損害と引きかえに敵は防壁に迫っていた。

 

「首尾はどう?」


「シェケレク!」


「オッケー!」


 村の外へ出るとき、精鋭部隊のやつらとすれ違った。

 最近なんとなくリザードマン語がわかってきた俺だ。

 どうやら目的は達せられたらしい。

 

 攪乱を終えたリゼルヴァと少数名は森に残って、合流した俺とともに残りを叩く手筈だ。

 ゴブリンやらオークやらをアイスブランドで切り伏せながら進んでいく。

 途中で見つけたオーガの死体をスケルトン化しておいた。 


 やはり小型がメインでオーガクラスのモンスターが混じる程度だ。

 俺がいれば問題なかろう。


 ――しかし、前線にかけつけた俺が見たのは意外な光景だった。


「フジミ、来たか!?」


「……なんで手こずってんの?」


 スケルトンと組み合うリザードマンたちがいた。

 尻尾が生えかけのせいか動きに精彩を欠くリゼルヴァ。

 とはいえスケルトンごときに遅れをとっているんだ?

 相手は粗末な剣しかもっていないのに。


「よくみろ、こいつら……リザードマンだ!」


 怒号にも似た返事。

 蹴り倒されたスケルトンがすぐに起き上がる。

 その風貌は博物館でみた恐竜の骨格によく似ていた。

 二足で立つ竜――つまりリザードマンのスケルトンだったのだ。


 見ればスケルトンよりもゾンビに近い、生前の面影を残した個体もちらほらいる。


「村を作る前、道中で死んだ仲間たちだ……私には……」


 斬れない、と。

 リゼルヴァほどの戦士でも、さすがに同族相手はためらうか。

 ほかのリザードマンにしても明らかに腰が引けている。


「……たしかに、同族が襲ってきたら戦えないのが普通かもな」


 転生した直後のことを思い出す。

 あのとき、飢餓感に苛まれた俺は迷うことなく人間の死体を食らった。

 もし人間のアンデッドが襲ってきたとしても、きっと一切の躊躇なく殺すだろう。


 俺がなくした心をリザードマンたちは残しているのだ。


「シャッ!?」


「――しまった!」


 一人のリザードマンが足をとられ姿勢を崩した。

 リゼルヴァも手いっぱいでフォローがきかない。

 そこにスケルトンの剣が振りおろされる。

 覚悟を決めたようにリザードマンが目をつぶった。


「――でもよぉ」


 俺は瞬時に割り込み、錆びた刃を素手で受け止める。

 指の骨がぎりぎり音をたてるが構わない。

 そのまま刃ごと剣を握り、スケルトンの動きを封じる。


「死者と生者、どっちが大事かなんて選ぶまでもないよなあ!」


 拳で突けばスケルトンはバラバラに砕け散った。

 頭蓋骨が無事な場合、復活してくる可能性がある。

 俺は迷わずスケルトン――元村人を頭を踏み抜く。


 木がへし折れるような音とともに、白い破片が飛び散った。

 続いて黒い霧が立ち上って消える。

 ……魔族化までしていやがったか。


「次は助けねぇぞ、腹決めろ……お前ら」


「シッ……!」


 リザードマンたちが息を呑む。

 オフにしていたはずの俺の『恐慌まとい』に蝕まれたかのように。

 爬虫類の瞳には恐怖が浮かんでいた。

 しかし次の瞬間には一つの意思が灯る。


 ……”覚悟”だ。


「シャアアアア!」


 俺にかばわれたリザードマンがスケルトンをたたき伏せ、頭を砕いた。

 続いてまた一人、また一人と反撃に転じていく。

 

「アンデッドのくせに、言ってくれる!」


 調子が戻ったリゼルヴァが退魔の光を走らせ、一体のスケルトンが消滅した。


 連携を前に屠られていくモンスターたち。

 仲間を愚弄された怒りがリザードマンたちに力を与えていた。

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