72話 迎撃
リザードマンの村に逗留してしばし。
はぐれた村人の捜索と、彼らの宝『竜の黒卵』を発見した俺たち。
いち段落ついたかと思いきや村の近くまでモンスターが迫っているとの情報が入った。
アイテムボックス内ではぐれた村人は残り数人。
捜索隊が見つけたのは皮肉にも仲間じゃなく敵だった。
ゴブリンを主としたモンスターの群れを発見し、慌てて帰ってきたのだ。
話によれば数時間で村にやってくるとのこと。
「――ということは、この面に防御を集中して、他の面は足の速いやつを配置。不測の事態があれば援護を呼びに走らせる、でどうだろう」
拠点を敵から守るシチュエーション。
ゲームじゃ飽きるほどやったけど、配置から何まで自分で考えるなんて初めてのことだ。
実際の戦闘は空高くから戦況を見れないし、ボタン一つでポーズ画面になったりしない。
敵も待ってくれないし、もちろんやり直しは効かない。
自分一人の戦いとはプレッシャーが違う。
「いいと思うぞ」
「華麗なる走りを見せてやろう」
リゼルヴァとホルンが同意した。
村一番の強者リゼルヴァだが、ここまでの規模の戦闘経験はない。
かつて村がモンスターに襲われたときは未熟さゆえか迎撃に出ることを許されなかったんだとか。
今度こそ役に立つのだと息巻いている。
ホルンは速いし目立つから伝令にもってこいだ。
……角をぶち折っちゃったから戦闘力はないけど。
「いくらワシのゴーレムが強大とはいえ、100匹はキツいぞい」
「どうせ秘策があるんでしょマスター?」
「ふっ、まあな」
不敵に笑む俺だが秘策など、ない。
対してこちらはリザードマンたち約30人、に加えてギリムのゴレームと俺パーティ。
村人のうち戦闘員は半分もいないから戦力差は3倍はある。
数の暴力の前に屈することは明らかだ。
(準備の時間もいるし、さっさと秘策をひねり出さないと……)
かくしてそれぞれの想いを胸に準備の時間はすぎていく。
……数時間後。
「ほんとに来たよ……」
「マスター、覚悟を決めてよね」
敵勢を確認し思わずため息。
進路を変えて通り過ぎてくれればよかったのに。
そんな一縷の望みは絶たれてしまった。
天高く飛ぶスケルトン・コカトリス。
それにまたがるドクンちゃんは俺の頭を抱えている。
最近、意図的に頭を切り離せることを発見していたが……こんな使い道は想定していなかった。
トリスケの背中から森を見下ろす。
木々の間を縫ってうごめくモンスターたち。
まず目につくのはヒト型の巨体。
たぶんオークかオーガあたりだろう。
その足元をわらわらとゴブリンが歩いている。
もしかしたらコボルトやグレムリンなんかも紛れているのかもしれない。
飛行するモンスターは見当たらない。
てっきり双頭ゴーレムが撃墜したモンスターの同種がいるんじゃないかと思っていた。
「やるしかないわな! じゃあ作戦通り頼む」
「あいさー!」
村の上空から俺を落とすドクンちゃん。
それをしっかりキャッチする俺の首なし胴体。
本体――首をガッチリねじ込むと、虚空の眼窩に光が灯る。
手足、指を動かしてみる……接続問題なし。
「俺、起動! 作戦開始!」
かくして防衛戦の幕が上がった。
先鋒を務めるのはドクンちゃん&トリスケ。
高度を一気に落とし、敵の頭上をかき乱す。
その軌跡には灰色の煙が舞っている。
「あいさつ代わりの石化ブレスよ!」
突然の襲撃と石化を撒かれ、敵勢は狂乱する。
地上にいる俺からもその様子が伝わってきた。
まずは不意打ちで敵の足並みをグチャグチャにしてやろう。
ドクンちゃんから逐一報告を受け、侵攻状況を確認。
どうやら広がって村を包囲する動きはなさそうだ、一安心。
「いい感じにパニックだけど石化の効きは思ったほどじゃないわ」
「ブレスの密度が弱いのか? まぁいいや続けてくれ」
余談だが『統率者』スキルの影響で、ドクンちゃん――配下と離れていても言葉が交わせるようになっていた。
念話というやつだ。
いつも一緒に行動しているからから使うあまりないけれども。
スケルトンズとは残念ながらお話しできない、自我がないから。
「先頭が射程に入ったぞい!」
ゴーレムに跨るギリムがコンソールを弄っている。
ギリムの双頭ゴーレムは一つの胴から二本の長い腕が伸びている。
ざっくりいえばジャンケンのチョキみたいなシルエットだ。
10メートルはあろうかという腕の先端はドラゴンの頭を模しており、そこから雷と火の魔法を打ちまくるのだ。
射程も尋常ではなく、村中央にゴーレムを据えればすべての方角に対し攻撃を飛ばすことができる。
文句なしの最強固定砲台だが、移動速度が非常に遅いことが欠点。
「もう少しひきつけてくれ」
ゴーレムに攻撃させるのは早い。
もっと敵を誘い込み、逃げ道を塞いでやろう。
狂乱をさらに加速してやるのだ。
「……いまだ、左右に打ち込め!」
「ほい!」
天高く伸びるゴーレムの片腕から火球が放たれる。
隕石のように尾を引きながら、敵勢を挟むように着弾した。
狙いを外したわけじゃあない。
「成功よ!」
頭に響くドクンちゃんの声と同じくして、立ち上る煙が目に入った。
あらかじめ撒いておいた油に火球が引火したのだ。
燃え盛る森へ入っていこうとは思うまい。
これで敵の進行ルートは一本に絞られた。
上空からの攻撃を受けつつ村を落とせるか?
「俺だったら逃げるわ、こんなクソゲー」
ブレスを吐きまくり飛びまくりスケルトン・コカトリス。
雷と炎を降らせるゴーレム。
思わず本音が出てしまった。




